Second Life、Google Apps ---既存の枠組みを破壊する仕掛け

飯田哲夫(Tetsuo Iida) 2007-02-25 12:31:37

国であるとか、企業であるとかいったものは、システムで言えばOSのようなもので、人々はその基盤の上で様々な活動をしている。これらの基盤は、基本的な動作のルールや安全保障の仕組みなどを規定してくれているので、我々は安心して活動することが出来るのである。我々はそれを活用している一方で、ある意味国であるとか企業であるとかいうものに囲い込まれているとも言える。こうした仕組みにどっぷり浸かれば居心地が良く、これを変えるには精神的にも体力的にも大きなエネルギーが必要となるからだ。

企業、国家の枠組みを超える

しかしながら、ブログ、SNSに始まり、3次元仮想世界である"Second Life"に至る、オンライン上のコミュニティ形成は、従来の国や企業といった囲い込みの枠組みを超越するものである。ブログやSNSは、企業などの既存のコミュニケーション・エンティティの枠を取り払い、それとは異なる新しい枠組みを構築してきた。オープンソースのコミュニティの発展というものも、こうしたオンライン上での協働開発及びコミュニケーションのインフラが整ったことが1つの成功要因と言えるだろう。このようにオンライン・コミュニティが活発に形成される環境下では、新しい価値の創造も企業という枠組みを超え始める。

一方、"Second Life"においては既に300万を越すユーザーに、あらゆる創造に関わる活動、そしてその結果とも言える知的所有権が託されており、それゆえに活発な経済圏が構築されつつある。"Second Life"には、「土地」であるとか「通貨」といった概念が存在することから、企業というよりはむしろ国家の枠組みを想起させる。しかし、そこでは、サーバーと直結する概念である「土地」を提供し、その利用料たる「税金」を受け取るのは運営会社であるLinden Lab社である。また、この"Second Life"経済圏においてユーザーが得た利益に関する課税はまだ議論の途上にあり、制度面でも国家の制約に縛られていない状態にある。そもそも参加者は特定の国に限定されておらず、"Second Life"内では日本語も含めて様々な言語でのコミュニケーションが行われている。さらにはそこに目をつけて通訳そのものをビジネスとしている人もいる。

OSの枠組みを超える

さて、先週はGoogle Apps Premier Editionのリリースが話題を呼んだが、こうしたアプリケーションのサービス化の流れは、OSレイヤーによる囲い込みという概念を無力化するものであろう。つまり、Web化したアプリケーションの利用にあたってはブラウザさえあれば良く、そのブラウザがどのOSで動くかということは関係ない。実際のところ、Google Appsの稼動環境に関する記述には対応ブラウザが列挙されるのみである。

つまり、従来の国であるとか企業の概念に相当するOSというレイヤーが無力化され、それとは異なるレイヤーにおける枠組みが形成されつつあるということである。こうした状況がMicrosoftにとって痛し痒しなのは、これからWindows Liveによってサービスビジネスを強化しようとする中で、これまでに築いてきたOSのビジネス、つまり今まさに展開しつつあるWindows Vistaのビジネスが整合性を維持し難い点にある。仮に、ソフトウェアのサービス化の流れがなくとも、OSレイヤーの仮想化技術が進みつつあり、OSによる囲い込みというのは徐々に無力化されつつあるのも事実だ。

古い枠組みは崩壊するか

とはいえ、オンライン・コミュニティが企業というエンティティに取って替わった訳ではなく、"Second Life"が国を破綻させた訳でもない。むしろ、それらは重層的な存在として、これまでとは異なる創造力を我々にもたらしつつあると捉えることが出来る。OSというシステムのレイヤーに関して言えば、それが無力化されつつあるという現実とは裏腹に、オープンソースとしてエンタープライズOSの地位を確固たるものとしたLinuxを巡り、大手ソフトウェア・ベンダーの関心はむしろ高まっている。昨年発表されたOracleによるRed Hat Linuxのサポートサービスへの参入であるとか、SUSE Linuxを巡るMicrosoftとNovellの提携がそれだ。

では、こうしたOSへのこだわりは時代錯誤的な動きと言えるのだろうか? これを見極めるには、その狙いがクライアント側にあるのか、サーバー側にあるのかがポイントだろう。Google Appsでサービス化されるのはクライアント・アプリであり、OSが無力化されるのもクライアント側の話である。また、サービス化されるアプリケーションの領域というのが、どのあたりまでをカバーすることになるのか、というのも見ておく必要がある。つまり、当面は重層的な状態が継続するが、特定領域のおいては急速な転換が進むのではないかと思われる。

それにしても、"Second Life"を見てて思うのは、新しいレイヤーに価値が創造されるときのエネルギーとスピードは凄まじいものである、ということである。

※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

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