ITIL導入の抵抗勢力への対応

itil 2006-02-24 10:59:36

ITILの導入にあたって、次のような担当者の嘆きを聞くことが多くなりました。

・ITILの必要性をいくら説明しても分ってくれない

・ITILの効果について疑問があると言って、非協力的な態度をとり続ける

・従来のやり方を変えようとしないので、新しいフローを浸透出来ない

・革新的に進めようとして、周囲の反感を増加させるメンバーがいる

といった類の組織やメンバーに関することです。これは何もITILの導入に限ったことではないのです。新規にプロジェクトを立ち上げるときにも起こります。組織を大幅に刷新しようという場合もそうです。急激に、あるいは大きく変化を起こそうとすると、必ず反対や非協力的な抵抗勢力と急先鋒で行き過ぎる傾向がある革新勢力がこれにあたります。

今回は、抵抗勢力や革新的勢力への対抗手段について話すことにします。

■ITILの導入にあたっては、抵抗勢力が存在する

なぜ存在するかというこということも大事ですが、「組織に属する人間が、変化を受け入れる度合いの分布は、統計的には釣鐘型である」といわれています。その比率は、抵抗:20%、現状維持:60%、革新的:20%といわれています。

この原因はいくつか考えられると思いますが、主要因に繋がるものとして、以下の3項目を挙げることが出来ると思います。

1.組織や人にも“慣性の法則”が適用できる部分がある

停止しているものは動こうとしません。動いているものは動き続けようとします。なぜなら、微分連続であることが物理的には安定だからです。組織も、個々人は粒子として扱え、組織はその粒子の集合体としてモデル化できるというわけです。この状況は、組織的には継続していて変化が生じない状況です。安心していられるわけです。今までと違う状況が突発的に発生したり、大きな変化が一時期に押し寄せたりということを嫌います。

集団で何かを遂行するときには、行動の指針や処理方法が皆同じであり、時間軸上でも変化がないほうが混乱を生じる確率が低いということです。しかし、その集団のかにも、すでに別な方向を向いている勢力は、変化を望んでいるともいえます。

2.急激な変化は破壊につながる

脆いけれども質量があるものを動かすためには、全体的に力が作用するように慎重に行う必要があります。急激に動かすとか、力がどこかに集中するといったことを避けなければなりません。組織は、非常に脆いものです。均一の分子からなる結晶構造ではないし、規則的な繰り返しの構造でもありません。個々の人間それ自体が存在を主張する不規則で混沌とした繋がりによって形成されています。一部分は非常に緊密な関係が有るが、まったく結合関係を持たない部分も存在するという不安定な状態です。

3.通常業務の遂行にもストレスが発生している

組織が非常にうまく機能していて、滞りなく業務が遂行できている場合でも、どこかに歪が生じているのです。皆さんの業務環境をお考えいただければ思い当たるところがあると思いますが、1年前と現在ではビジネスを取り巻く環境は変わっていませんか。経済環境、規制緩和、技術的進歩、制約条件、顧客意識や競合の台頭といった具合に回りは常に変化し続けています。しかし、うまくことを運ぶことになった状況、慣れてしまった業務処理方法、連携が良くなった他部門との情報の調整を今さら変えたくはないと思うものですが、現実との矛盾は徐々に溜まり続けます。ストレスを感じている人は、変化の必要性を認めるようになります。強く意識付けられ、行動を起こすようになると革新的な行動、急先鋒的存在となるのです。天候は毎日毎日同じではありません。毎日同じだったらどうでしょう。晴れが長く続けば旱魃に、雨が長期続けば洪水が起こるというわけです。バランスが必要というわけです。

組織は、改善を継続的に実施できると、競争優位にたてるということが言われています。変化を常に受け入れ最適化できる文化が築き上げられているということです。硬い組織から柔軟な組織になるということです。

でも組織を論じる場合には、どうしても個人という単位でも対応を考える必要が在ります。なぜなら、個人は組織の最小構成要因だからです。人の側から、もっと端的にいってしまえば、「人は、自分が望まない変化はしたくないと思っている」ということです。

・理解できないこと

・予測できないこと

・経験していないこと

・興味がないこと

には、拒絶反応がでてくるわけです。

■対処方法

ではどうしたらよいかということですが、変化することが必要だと認識させるしかありません。そのためには、「理解していただく」ことから始めます。啓蒙活動や教育を通じて、解ってもらうということです。次は「予測を共有する」ことになりますが、設定したゴールや目標値を理解し共通の意識を持つということです。この段階では、協力的といわないまでも、攻撃的ではなくなると思います。

その次のステップは積極的な参加が必要な方への関与の仕方になります。「経験していただく」「興味を持っていただく」という段階です。成功体験してもらうことが最も良いことです。しかしここに大きな壁、強力な抵抗が存在することが多いのです。これを打破するために用いるのが、以下の3点セットです。

・人事権の掌握

・査定権の掌握

・自己啓発の促進

人事権、査定権に関しては、組織の実権としてとられる常套手段でしょう。怖くない人には、絶対に従いません。プロジェクトを実施するときに、プロジェクトリーダーに人事権と査定権がどれだけ与えられるかで従来組織とのウェイトが変わります。このあたりは、組織論でよく論じられるところですので、情報は種々入手できると思います。また、私的な意見が強くなる傾向がある領域ですので、一般論の範囲で収めておこうと思います。経営層からの強力なコミットメントおよび、積極的な参画が必要だということです。コミットメントを取り付けることや、経営層を動かせる実力を示せなければ失敗です。難しく考える必要はありません。計画書を策定し、稟議を承認してもらえば良いのです。

自己啓発に関しては

・変化の先にあることを示す

・変化が受け入れられるものであることを示す

・自分に必要な変化を認識してもらう

・変化することの合意を形成する

・自分の変化を認識させる

・組織の変化の過程に参画できることを示す

・結果を評価し、それを示す

ということを行うことで、受け入れられるようになることが多いようです。とはいっても、根気と信頼の必要な精神的に重労働となることは間違いありません。上記を実施できるためには、重要なことはわかってもかなりハードルが高くなります。

・会社に魅力があること

・業務内容が魅力的であること

・コミュニケーションの相手が魅力的であること

この魅力を感じるのは、個人個人の尺度で、好み・趣味による独善的なものだといってもよいでしょう。人はみな違った尺度と計測方法を持っています。

どの実権を行使するのが効果的かという点では、変化に許される時間が重要なファクターになります。時間がなければ、人事権を行使する傾向が強く、トップダウン的になります。少し余裕があれば、査定権を実施する傾向が強くなります。インセンティブを設け、表彰制度を活用することによって、抵抗は弱まります。変化を継続的に受け入れられる文化が定着すると、自己啓発の傾向が強くなります。率先して変化するための機会を提供し続けるということになります。また、社内でのスキルパスとして、個人と組織が合意を形成しておくことが必要になります。

■実際的な方法

今までのところは、回りくどい、理屈っぽい感じがすると思いますので、実際にどのようにすればよいかを要点だけ抽出してみます。

なにかを導入するというときは

・抵抗勢力、現状維持、革新的のどの勢力からも人選する

・合意形成のためにコミュニケーションが重要である

・合意形成、賛同を得られない人は、コミュニケーションの継続が必要

・うまく話すことより、聞き上手になること

・場合によっては、組織の力を行使する

■雑感

以下は、まったくの私的な記述であり、ブログの本質的なところかもしれませんが、私自身がプロジェクトをやってきて、思うことはいつも同じです。

「信頼を得るために、まず自分が変わらなければ」

プロジェクトはいつもユニークですから、変化を求められるところがいつも違うのです。自分自身のスキルアップも非常に重要です。それと、メンバーへの信頼です。人はいつも変わっています。必ず効くという方法はないのですが、状況を打破する方法は必ずあると信じることです。事実を正確に掌握できること、事実を根拠として客観的な判断が下せる資質が重要です。

組織が最終的に目指しているところは、改善のサイクルが継続的に機能することです。デミング・サイクルとか PDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルと呼ばれている改善サイクルが良く引き合いに出されます。ITILといっても、マネジメントサイクルがきちんと機能していることが大前提になっているのです。従って、ITILの取り組みは、大改革につながる会社もあれば、単に定着している改善サイクルをITサービスの分野に適用するだけの会社もあるわけです。

前者への適用と後者の適用の状況で大きく異なる理由は、二つ考えられます。ひとつは啓蒙活動であり、もうひとつは組織の抵抗です。自ら変わることができる組織になっているかどうか。個人が自己啓発を常に受け入れるだけのモチベーションを持っているかという点です。組織や個人を動かすための初期トルクは非常に大きなものです。成熟した組織になれば、それだけ抵抗勢力が減少するということになります。動き始めたものを軌道修正するには、さほどエネルギーを必要としないはずです。

動き始めると今度は止めるのが大変だし、軌道修正しながら最終目標と目前の目標値を達成できるようにしなければならないのです。舵を誰が握っているか、誰が方向を決定しているかが重要になってきます。内部の力だけでは方向を転換できないのです。外力か、反作用が必要なのです。

本音を吐露したところで、今回は終了としましょう。

前田 隆

※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

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