新型インフルエンザは 「騒ぎすぎ」なのか?について分析的に考えてみる

米野宏明(Hiroaki Komeno) 2009-05-26 15:27:52

感染者数の報告が減ってきているのは終息しつつあるのか、それとも症状が軽度なことが分かり病院に行かないようになってきたからなのか。医学知識に乏しい私に因果関係は測りかねますが、今日時点ではまだ新型インフルエンザ対策のためにマスクを着用している人を多く見かけます。かく言う私もその一人。花粉症持ちなこともありますが、気がつけば一年近くこちらへの投稿もできないほど多忙だったため風邪の予防に相当注意を払っており、いわゆる不織布マスクのお徳用パックを持っていたので、売り切れ続出の間も着用できていました。

ピーク時から最近までは、ニュースサイトのジャーナルやテレビなどで、マスクの品切れの報道とともに、日本における異常な騒ぎぶりに疑問を呈するコメントを多く見かけました。どこかの医者をひっぱり出してきて 「医学的に見て滑稽だ」 のようなことを言わせてみたり。しかしその主張にも納得できる論拠やデータが提示されることがほとんどなく、しかもそういう医者のコメントも切り貼り編集の跡が見え見えで、どうにも文脈が疑わしい。ということで、医学知識という決定的な情報が欠けていながらも、「騒ぎすぎ」 派の主張を分析してみることで、背景の真実を推測してみたいと思います。

各種ソースを総合してみると、「諸外国では冷静なのに日本では大騒ぎしているのはおかしい」 というのが基本論調のようです。まさにその騒ぎの最中にいる私たちにとっては、ニューヨークあたりの街頭インタビューで 「だれもマスクなんてしてないよ〜」 とアメリカ人たちにバカにされると、ついうっかり 「騒ぎ過ぎなのかな」 なんて反省したりします。しかしこの基本論調をよく見ると、どこにも客観的判断基準がありません。

この手のあやしい問題提起は、パーツに分解するとすっきりします。こんな風にです:

1. 「諸外国」 とはどういうところなのか?
2. 「冷静」「大騒ぎ」 とはどういう状態なのか?
3. 「おかしい」 とは何と比較しているのか?

1 の 「諸外国」 ですが、インタビューのほとんどはアメリカ、一部ヨーロッパ諸国といった感じです。アメリカ人に関して言えば、雨が降っても傘を差さないで平気な人たちですから、そんな頑丈で鈍感なヤツらと比べられても困るんですけども、それを除いて考えたとしても、彼らのインタビューからは 「マスクは風邪をひいた人がするもの」 であり 「元気な人がマスクをしていると変、罹患を疑われる」、という背景が伝わってきます。裏を返すと、「風邪をひいたらちゃんとマスクをする」 マナーが定着している国々、であるわけです。会議中やレストランなどでうっかり咳やくしゃみをしてしまうと、必ず謝りますしね。

2 の 「冷静」 か 「大騒ぎ」 かですが、皆さんの周りは大騒ぎでしたか?確かにマスクが売り切れていたという話は会社でも実際に聞きましたが、だからといって買えなかった人も別に慌ててはいません。売り切れ始めた当初、別のものを買うために薬局を訪れると、そこを出るまでの 10 分ぐらいの間にマスクを買いに来た人を 5 人ほど見かけましたが、皆一様に、入荷日など尋ねたり食い下がったりすることなくあっさり引き下がっていました。電車が事故で止まると必ずと言っていいほど駅員に無駄に怒りだす人がいるところから考えると、相当冷静というか、ある種の 「諦め」 なのかもしれません。そのうち 「ペーパータオルを使った手作りマスク」 なんていう話も登場したりして、しかし実際にそれを着用している人を見かけないところをみると、諦めも通り越してむしろちょっと楽しんでいるぐらいなのかもしれません。結局騒ぎ立てているのは、ネタ欠乏のマスメディアと選挙を控えた政治家ぐらいのもんです。

3 の 「おかしい」 は 「異常」 という意味ですから、正常ではないということです。では 「正常な反応」 とは何でしょう?

1、2 で明らかにしたように、「風邪をひいたらちゃんとマスクをする」 ことを前提とした 「それでもかかっちゃったらしょうがない」 という諦観含みの冷静さ、が正常な反応と言うことなのでしょう。この件に関してリスクマネジメントの専門家などが述べるように、欧米諸国の対応方法と照らし合わせれば、罹患のリスクとコストおよび機会損失のバランスが取れていない、と言われれば確かにその通りです。しかし、それはあくまで前提が同じだった場合に限ります。

普段、口にハンカチどころか手もあてずに、意図的と思えるほどに大きな声を出しながらくしゃみをするおじさん、落ち着きなく携帯電話を操作しながら咳き込む若者など、よく見かけます。アメリカでもダウンタウンの外れの裏通りでそんな感じの人を見かけたことがあります (多分マリファナの吸いすぎで喉が荒れているだけですが)。道徳教育が未熟な人はお行儀よく咳やくしゃみをしない傾向がある、と考えてよさそうです。つまり、季節の変わり目などの時期に真っ先に風邪をひくようなうっかり者はマスクもせずに周りに菌を撒き散らすので、そんなうっかり者から病気をうつされるのが嫌なしっかり者は少しでもその確率を下げるためにマスクをする、という構図です。

したがって、この状態を 「騒ぎすぎ」 と称するのは正しくありません。先の構図に従えば、この段階に至って新型インフルエンザに感染する人が、その発症初期の段階でマスクをしてくれる可能性は低いと考えるのが自然であり、自己防衛のための当たり前の反応と言えるでしょう。この状況を変える必要があるのなら、風邪をひいたらマスクをする、という当たり前の行動を社会のコンセンサスにする、という教育が必要です。もちろん個人レベルで実践できている人もいるわけですが、皆が、風邪をひいてマスクをしないことが 「恥ずかしいこと」 に思えるようになるための社会全体の教育をリードする最大の責任は、社会を導く公の存在であるはずのメディアと政治家、つまり騒いでいる張本人にあるはずです。

※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

11件のコメント
  • ニート

    「騒ぎすぎ」という言葉にとらわれ過ぎている印象です。物事、特にとある人物の主張を理解するときにおいてもっとも重要であるのは、言葉の端々にとらわれることではなく、その主張の目的にがどこにあるかを見つけだすことにあると思います。私が感じる「騒ぎ過ぎ」と論じる人たちの主張は、大体において、日本人の個々のインフルエンザに対する反応を問題としているのでなく、日本全体のインフルエンザに対する雰囲気に対し、それが異常である(普通から逸脱している)と論じているのだと思います。ですから個々の人間がマスクをすること、予防をすること、その他個人が自分の意志で行っているものごとに対して、これを批判するような主張がその真意にある人はめったにいません。実際にこれに対し批判的なことをかいている人はいますが、その真意はそのことにあるのではなく、ニュースなどによってみながこれを一斉に行っているかのように感じ取り、そのことに同じ日本人として嫌悪感やプレッシャーを感じた人の反発心の表れではないかと思います。
    またそうでない人、個人の予防は認めた上でそれでも騒ぎ過ぎと考えている人も、結局はまったく同じところを見ているように感じます。実際彼らの主張から感じられることは、彼らの感じる「日本の雰囲気」・「日本の方向性」が彼らの価値観、価値基準から考えて度を越していて、また合っていないということであり、彼らにしてみればそのことが日本人として不安であるということなのだと思うのです。諸外国の話題が多いのは、外国が正しいか間違っているかなどはどうでもよく、諸外国があまり騒いでないのに日本だけが騒いでいるのは、これは不安だ、という気持ちの表れであり、ある意味日本人らしい考え方の表れではな気かと思います。
    またもともと騒ぎ過ぎと言われている対象は大体において個々人ではなくメディアであり、そのニュース等を読んだ日本人が踊らされている、また日本人は踊らされやすいと考えている人も多いのだと思われます。

    実際大切なのは雰囲気です。おおよそ社会性のある人であれば誰でも雰囲気によって何らかの影響を受けます。今回のインフルエンザに対する雰囲気によりそのままマスクを買いに行く人がいれば、逆にこれが異常であると感じる人もいるというのはごく自然なことです。ただ、最も問題であるのは、このような状況を作り上げたのは日本の国民自身ではなく、メディアの報道が中心となって率先と作り上げたことにあると思います。
    メディアが今の日本の雰囲気を作り上げたというのは誰も否定できません。だからこそ、それに追従するのか、それとも追従しないのか、悩みどころなのです。反発している人が一番言いたいのは、ここで追従しているやつはメディアに踊らされているんじゃないのか?ということや、冷静に考えてやってますか?ということで、流されやすいといわれる日本人に対し、同じ日本人として警鐘でも鳴らしたくなる気分になるのだと思います。また雰囲気づくりなどは対象が病気のうちはまだ良いのですが、それがもし正しさと間違いの判断が絶対的でないものになれば、それがどのような不利益を生ずるかがわかりません。今回の件でも、日本であまりにもインフルエンザの問題を大きく扱っているものですから、海外の人が不安になっていて、日本への渡航者が激減しているという弊害が表れています。力あるメディアにはできればより慎重であってほしいものですが、やはり部数も関係あるのかやや大げさであったり、視点が大衆受けを狙っていたりするのは残念であろうと思います。

    ちなみに私の感じるこの問題に対しもっとも賢かった人というのは、ヤフーオークションでマスクを大量に売りさばいている人です。問題を受け止めた上で、自身の利益を冷静に見つけ出すその発想について、心の底から尊敬に値すると思います。

    2009年06月01日

  • ぺぴ

    これを読んで、気持ちがすっきりしました。
    ずっとそんなに日本人は変なのか?と疑問を感じていました。

    いまNY市に住んでいるのですが、おっしゃるとおり、風邪をひいている人が、他人にうつさないように心がけるというコンセンサスがないのです。ですから、日本とは全く違うスピードで感染が広がっていると感じています。現在もインフルエンザの死者が毎日増えていて、とても怖いです。
    あまり、テレビも騒ぎませんし、NY市保健局はあまり細かく発表しません。さらなる感染を防ぐという意識は日本とは違う気がします。

    騒ぐか騒がないかより、他人にうつさないというコンセンサスを持っている社会かが大事なのだと、気持ちが整理できました。

    2009年05月28日

  • 通行人A

    「外国から見れば日本はおかしい」という報道がおかしいと思いますね。
    なぜなら侍の時代から日本は外国とは違う文化を築いていたわけですから「何を今更」という感じですね。
    そんな異質な国だからこそ外国人の熱狂的日本ファンがいるのも事実。
    むしろ、そういう外国とは違うところを出して「不思議の国日本」をアピールしていけば、外国人観光客を取り入れるなど日本にとって大きなメリットになるのではないのでしょうか。

    2009年05月27日

  • Vanapagan

    マスクは,昔はカゼをひいた人が周りに迷惑をかけないために着用するものだった。それが「自己防衛」の手段と勘違いされるようになったのは,おそらく花粉症がきっかけ。花粉症については知らないが,インフルエンザに対しては,防衛効果はほとんどないらしいのに。マスクをしている人をみると,「私は感染者です」と触れ回っている印象を受けるので近づきたくないですね。マスク着用の海外ツアーなんて,「貴国内にウイルス,持ち込みますね」と宣言しているみたいな印象しか与えない。修学旅行が中止になった生徒たちには悪いが,もし,関西からの旅行者の団体にマスク着用で東京を歩かれていたとしたら,参加者の中に感染者がいなくても,恐怖映画さながらの光景となっていたに違いない。マスコミや政治家が「社会を導く公の存在」などというのはたわごと。そういう人たちの言うことを頭から信用しない,自分の頭でものを考える人間になりませんか。それはそうと,アメリカでは,日本よりマナーが確立しているなんて,あなた,本当に信じます?

    2009年05月27日

  • むしろ逆なイメージ

    神戸で感染!関東で感染!のニュースを伝えるレポーターが
    マスクを着用しているのが目立ちましたが
    災害現場におけるヘルメットのような、台風を伝える雨合羽のような
    「演出」ではないでしょうか。

    日本では、花粉症からの流れもあり
    マスクで防げる(軽減できる)というような
    ある意味防毒マスクのような扱いになっていると思います。

    つまり「マスク着用による防衛」こそが作られたイメージであり
    上記、医学的に見て、というのはその反動であるように思うのですが
    いかがでしょうか?

    2009年05月27日

  • sunadorineko

    WHOのインフルエンザのサイトはご覧になったことはあるのでしょうか?
    http://www.who.int/csr/disease/swineflu/en/index.html

    アメリカには行ったことありそうなので(ヨーロッパのことはなにも知らなそうですが)、英語はわかると思うので一度読まれた方がいいかと思います。

    WHOは体調がとくに悪くないなら、マスクを使用しなくてもいいといっています。
    間違ったマスクの使用は、逆に感染の拡大リスクを増大させるともいっています。
    マスクよりも気をつけるべきことがあることもいっていますね。

    医学的な知識がなくても、分かると思いますよ。WHOが勧めていることと、日本の人たちが行っていることや、日本のメディアや政府が言っていることの違いが。

    2009年05月26日

  • Mi

    例えば国際シンポジウムとか国際コンテストなどでは、日本はインフルエンザで辞退などをしています。しかし、欧米だけでなく、韓国、台湾、フィリピンなどのアジアの国も辞退せずにでアメリカへ行っています。
    ですから、諸外国と言うのは一部だけではないと思うのですが、いかがでしょう。
    あるコンテストでは日本以外は殆ど出ていました。もちろん辞退すると、出場者にとっては大きな損失なのですが、日本は辞退していました。

    2009年05月26日

  • みっち

    マスク云々ではなく、マスコミの報道の仕方だったり、煽り方を見ると「騒ぎ過ぎ」というよりは「おかしい」ということは間違っていないと思います。
    確かに感染者の感染経路、その後の行動範囲など知りたい情報ではあると思うが、学校から自宅周辺、使った駅など個人名が出なくてもプライバシーはあったものではないと思います。さらにそれに反応するように正確な知識をえない人からのいろいろな機関にたいする過剰な問い合わせなどを招いているのではと思います。

    2009年05月26日

  • みっち

    マスク云々ではなく、マスコミの報道の仕方だったり、煽り方を見ると「騒ぎ過ぎ」というよりは「おかしい」ということは間違っていないと思います。
    確かに感染者の感染経路、その後の行動範囲など知りたい情報ではあると思うが、学校から自宅周辺、使った駅など個人名が出なくてもプライバシーはあったものではないと思います。さらにそれに反応するように正確な知識をえない人からのいろいろな機関にたいする過剰な問い合わせなどを招いているのではと思います。

    2009年05月26日

  • ほげ

    騒ぎすぎだと思う。季節性のインフルエンザのときに比べて過剰反応している人は周りにも実際に多かったので。もちろんマスコミのせいだけども。

    2009年05月26日

  • macamaca

    それこそ、非常に「冷静」な分析をしていますね。
    記事の内容にまったく同感です。
    今、ニューヨークでは悲惨な状況です。学生たちの間で感染が拡大しているため、20校もの学校が閉鎖されています。ニューヨーク市長も頭を抱えるしまつ。
    その原因は?感染対策を何もしていないからです。
    今、アメリカは世界中にウィルスをまき散らかしています。国内での感染拡大防止対策をまったく行っていません。それが原因です。ですので、死者も既に12人も出ています。
    それが、今、中南米に飛び火しています。北米から企画した人による感染者数が増加しています。
    オーストラリアも同じです。ハワイ経由で帰って来た豪華客船内で感染が起こり、2900人の乗客が検査の対象になっています。警戒レベルも上がっています。
    このように、アメリカが何の対策も取っていないせいで、世界中が迷惑しています。
    ですので、記事書かれているように、日本の対応は正しいです。
    ご参考:http://pandemich5n1.seesaa.net/

    2009年05月26日

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