やむにやまれぬDropbox

前川賢治(Kenji Maekawa) 2010-05-24 13:45:00

僕の携帯電話に父親からの着信履歴が入っていたのは、ゴールデンウィークも近いというのに雪でも降るのではないかと思えるくらい寒い日だった。

前回、父親との思い出について書いたが、親父と息子というのは、男同士の微妙な距離感を保持しているもので、これまで親父が僕に直接電話をかけて来たことは一度もなく、何か用事がある場合でも母親か姉貴を経由して連絡が来るのが常であった。着信に気がついた瞬間、僕の心臓がビクンと動いたのは、これが普通でない知らせであることを予測できたからである。
その後、次々と「ついに来るべきときが来た」という現実を否応なく受け入れなければならない状況が明らかになり、僕は急いで広島に帰ることにした。

病室で会った母親は、お見舞いで頂いたサクランボをおいしそうに食べていた。「もう退院して家に帰れる目処がたったから、わざわざ来ることないのに。サクランボがおいしいから食べてみんさい。」と言って僕にサクランボをくれた。

本人は特に痛いとか苦しいという状況ではないらしいのだが、病院の先生からは、恐らく一週間以内にすべての臓器が機能を停止すると思われること、もはや何も処置できる手段がないこと、今後は本人が苦しまないための処置を行うことなどについて説明があり、近い関係の人には意識があるうちに連絡してくださいとのことであった。

それから2週間、最期まで食欲もあり、大きな苦しみもなかったことが救いであったと思う。ある意味では子供のまま大人になり一生を終えたような母親であったので、僕らは最期の日が迫っていることを本人に知られないようにいろんな演出をしたのだが、亡くなる直前には自分の最期を悟って「残念じゃけど、お別れじゃね。」と言って昏睡状態に入り、その1日後に息を引き取った。無条件に僕を信じてくれる唯一の存在であった母親がいなくなってしまった。

どうしても涙が止まらない…

連休中に葬儀を終えて東京に帰ると、気候はすっかり変わり、半袖で街を歩いている人も多く見られるようになっていた。結局、僕は3週間広島にいたことになる。僕と親父と姉貴で病院に毎日に通っていたのが夢の中の出来事だったように思える。

母親の最期の瞬間までそばにいられたことは、職場のみんなの理解とサポートのお陰であると本当に感謝している。期日の決まっている仕事に穴を開ける訳にはいかず、東京では随分大変だったろうと思う。

僕も広島のオフィスや実家のパソコンで仕事をしていたのだが、病院にいる時間が長くなるにつれ、母親が寝ている間は病院の談話室でノートパソコンを広げて仕事をするようになった。そのときは、母親がいつどうなるか分からなかったので、時間があるときに少しずつでも仕事を進めておきたかったのである。

そんな状況だったので、東京オフィスと広島オフィスと僕のノートパソコンで成果物のファイルを共有するためにオンラインストレージサービスのDropboxを使用するようになったのだが、これはもの凄く助かった。

ローカルのパソコンで編集したファイルは、ネットワークに接続できた時点で自動的にシンクされ、何も意識することなく常に最新のデータを共有できるし、サーバ側では自動的に更新されたファイルの履歴が取られていて、何も考えなくてもファイルのバージョン管理をしてくれるのだ。間違ってファイルを編集・削除してもすぐに前のバージョンに戻すことができるし、ノートパソコンのディスクが壊れて、突然ギャーと叫ばなければならないような事態も起こらない。
しかも、2GBまでは無料である。2GBあれば1つのプロジェクトの成果物を共有するには十分だし、容量を追加したとしても値段は驚くほど安いのだ。

やむにやまれぬ状況で使い始めたサービスであるが、今では東京オフィスのパソコン、東京の自宅のパソコン、広島オフィスのパソコン、広島の実家のパソコン、僕のノートパソコンでファイルを共有している状況で、必要なファイルは殆どすべてDropboxに格納するようになった。大事なファイルのバックアップを考えなくても良いだけでも大助かりである。

僕はまだ持っていないけど、iPadでも同じようにファイルを共有できるということなので、なるほど、「クラウド環境というのはこういうことなのよね〜」と今更ながら世の中の変化を実感しているのである。

Dropbox以外でも、それぞれ特徴のあるオンラインストレージサービスが登場しているので、みなさんも目的に合ったサービスを比較・検討してみてはいかがでしょうか?

P.S. 多くの皆様からお悔やみや励ましを頂きました。大変ありがとうございました。

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前川@ドリーム・アーツ

※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

1件のコメント
  • 人生のなかで必ず訪れる悲しいできごと
    最愛の人との別れ

    自分の母親はまだ健在ですが、遅かれ早かれその時はやってくると思います
    その時は安心して安らかに旅立ってもらいたい

    つらいお気持ち察します

    2010年05月26日

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