サービスイン!= カットオーバー

前川賢治(Kenji Maekawa) 2011-11-24 15:30:00

僕は渋谷に住んでいるので、晴れた日曜日の午後は渋谷・原宿・表参道・青山付近を散歩することが多い。(チンチンジャラジャラの音に惹かれて、途中でふらふらとパチンコに入ってしまい、負けては後悔することも少なくないが…)


この地域は週末に人が集まって来るし、裏通りに面白いお店を発見したりして、散歩していても飽きることがない。しかし、様々なお店を眺めながらブラブラしていると、決まって同じ疑問が頭をよぎる。「このお店はどうやって儲けているのだろうか?」


晴れた日曜日でも、いつもそれほどお客さんが入っているようにも見えない。商品の単価がそれほど高い訳でもない。そんなお店では、商品の仕入れ、家賃や光熱費、人件費を差し引いた上で利益を出すことができるのだろうか?僕はIT業界以外で仕事をしたことがないので、普通このようなお店で月の売り上げがどのくらいなのか全く見当もつかないが、他人のことながら、「この店は採算取れるのかな?」と思ってしまうのだ。


もっとも、多少の入れ替わりはあるにせよ、ほとんどのお店が継続している訳だから、何も素人の僕が心配することはなく、ちゃんとコストの計算はされているはずなのである。



企業の情報システムにおいては、ある業務課題をシステム化する場合、そのシステムを導入するために必要な費用の見積もりは、システムを構成する要素それぞれの調達費用や運用コストの積み上げで行われ、開発費用その他の人件費も、調達されるパーツのひとつとして計算される。


外部調達される各パーツは、システム・インテグレータがRFP(Request For Proposal)に従って一括で調達し、WBS(Work Breakdown Structure)を元に全体のプロジェクトを管理・監督して、複数のベンダーをコントロールしながら、システムの稼働開始を表す「カットオーバー」を目指すことになる。このような一次請けのシステム・インテグレータを頂点にしたシステム構築は、まさに構造物を作り出すためのゼネコン・モデルであり、会計上も、例えば5年間の減価償却でシステムが資産計上され、カットオーバーした時点をピークに時間が経つれて価値が目減りする建築物と同じような考え方で処理される。


「カットオーバー」後の運用・保守およびトラブル対応などは、システム・インテグレータが一次窓口として請け負うのが一般的であるが、あくまでも「カットオーバー」までがシステム・インテグレータとしてプロジェクト管理の腕の見せ所であり、「カットオーバー」以降の運用・保守フェーズでは、「カットオーバー」時点のシステム要件を滞りなく稼働させることのみがミッションとなる。


我々自身も、これまではシステムの構成要素であるソフトウェア・パッケージを提供する立場にあった訳だが、特に僕たちが携わる、「人をサポートするシステム」においては、ご存じの通り、世の中の考え方が急速に変化し始めていることを痛感する。構造物として捉えられるような基幹システムをウォータフォール・モデルで構築することが中心であった時代のゼネコン・モデルから、システムを所有するのではなく利用したサービスの使用料を支払うというクラウド・モデルへの大きな転換である。


このクラウド・モデルへの大きな転換に加えて、元々、僕たちが得意とする分野のシステムでは、システムを導入することで業務処理が自動化されるような性質のものではなく、いかに人間が行う活動をサポートできるかがテーマであるため、極端に言えば、システムを導入しただけで活用してもらえなければシステムを導入した効果は出ない。あくまでも人間を対象としているシステムであるため、「カットオーバー」後に、いかに活用してもらう工夫を継続するかが重要なポイントであると同時に、「カットオーバー」時点ではRFPで定義された要件を満たしていたとしても、活用が進むにつれて実際にシステムを使用するユーザからのリクエストは変化するため、システム自身もユーザのリクエストに合わせて成長させていかなければ、ユーザに支持されない使われないシステムになってしまう。


僕たちの会社では、システムの稼働開始以降も、お客さんと対話しながらシステムを成長させて、活用度合いが上がるにつれてシステムの価値も上がっていくような姿(Ever Green Policy)を目指したいということから、システムの稼働開始を「カットオーバー」とは言わず、「サービスイン」と言うようにしている。


これは単に言葉だけの問題ではあるが、既存のモデルが大きく変換している時代において、僕たちがどのような方向に進むべきかを示す象徴的な言葉として、意識的に「サービスイン」という言葉を使用している。
僕たちが目指す姿としては、「サービスイン」以降のシステム運用・管理、企画・運営、サポート・利用促進など、システムを有効に活用して頂くために必要な要素をすべて請け負えるようになって、ゆくゆくは、あるテーマについてお客さんの業務課題全体をアウトソースして頂けるような会社になりたいと思っている。実際にシステムを使用するユーザ様に安定したサービスや利用促進の工夫を継続的に提供し続けるという面では、社内の人事異動なども関係なく、このことだけを専門にやっている僕たちが、お客様企業の情報システム部で担当されている運用・運営業務を継続的にアウトソースとして代替することで、結果的にお客さんの役に立てると思うのである。


そのためには、これまで一次請けのシステム・インテグレータの後ろで自分たちの守備範囲を限定し、ある意味で逃げていたことにも正面から向き合わなければならない。目指す道のりは長く険しいのである。




社内で日々議論している中で、漠然と考えていたことを表現する形で、 『「IT断食」のすすめ』という本が日経プレミアム新書から出版されました。IT業界でソフトウェア・パッケージを販売している会社にとっては自己否定であるように思われるかも知れませんが、氾濫する情報の洪水を治水し、無駄にPCに向かう時間を減らして、アナログ力を取り戻すために「人をサポートする仕組み」を提供したいというのは、僕たちの作っているソフトウェア・パッケージのベースになるコンセプトでもあるのです。是非、ご一読ください。


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前川@ドリーム・アーツ

※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

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