Connecting Dots - 基本情報技術者試験の意義

前川賢治(Kenji Maekawa) 2016-10-20 11:00:00

我らが広島カープはクライマックス・シリーズを順調に突破し、いよいよ日本シリーズで日本一を目指すことになりました。昨年広島に帰ってきた黒田が現役最後の年に通算200勝と初の優勝を両方達成するドラマチックな今年のカープの快進撃は、後々まで語り継がれる物語となることでしょう。

あまりに出来すぎている結果に大騒ぎするのは「にわかカープ・ファン」に任せて、カープと共に人生を歩んできた自称本物のファンである僕は、昨シーズン後に緒方監督のことを無能だの野球が分かっていないだのと散々こき下ろしたことを猛省しつつ、この物語の結末を静かに見守っているところです。

勿論、四半世紀ぶりの日本シリーズが重大なイベントであることは間違いなく、僕たちの会社では、リーグ優勝、クライマックス・シリーズとオフィス内でパブリック・ビューイングを行いました。「広島カープを応援したいITエンジニアの集い@恵比寿」というタイトルで行ったクライマックス・シリーズのパブリック・ビューイングには、なんとオフィスにテレビの取材まで入りました。
そんな日本シリーズを直前に控えた10月16日に、会社の新入社員が必須で受験することになっている「基本情報処理技術者試験」がありました。

我々の会社では、新入社員は職種に関係なく基本情報処理技術者の資格を取得することになっています。新入社員には理系の技術職だけでなく、文系や美術系の大学出身者も多く含まれるので、それなりに試験に向けた勉強をする必要があり、試験の2ヶ月前から毎週一回勉強会を実施して準備をしてきました。

技術職以外も含めた全ての職種で基本情報処理技術者試験を受験するようにしているのは、現時点で担当する業務に直接的に役に立つものではないとしても、IT業界で働く上での一般常識として、幅広い分野を学ぶことは意味があると考えているためです。例え丸暗記であったとしても、広い範囲に一度目を通しておくことは将来にとって絶対に有益だと思っています。

“Stay hungry,stay foolish.”という言葉で締めくくられた、スタンフォード大学での有名なスティーブ・ジョブスのスピーチにも以下のような“Connecting Dots”という話が出てきます。

・・・・・・(和訳)前略・・・・・・

“夢物語とは無縁の暮らしでした。寮に自分の持ち部屋がないから夜は友達の部屋の床に寝泊りさせてもらってたし、コーラの瓶を店に返すと5セント玉がもらえるんだけど、あれを貯めて食費に充てたりね。日曜の夜はいつも7マイル(11.2km)歩いて街を抜けると、ハーレクリシュナ寺院でやっとまともなメシにありつける、これが無茶苦茶旨くてね。

しかし、こうして自分の興味と直感の赴くまま当時身につけたことの多くは、あとになって値札がつけられないぐらい価値のあるものだって分かってきたんだね。ひとつ具体的な話をしてみましょう。

リード大学は、当時としてはおそらく国内最高水準のカリグラフィ教育を提供する大学でした。キャンパスのそれこそ至るところ、ポスター1枚から戸棚のひとつひとつに貼るラベルの1枚1枚まで美しい手書きのカリグラフィ(飾り文字)が施されていました。私は退学した身。もう普通のクラスには出なくていい。そこでとりあえずカリグラフィのクラスを採って、どうやったらそれができるのか勉強してみることに決めたんです。

セリフをやってサンセリフの書体もやって、あとは活字の組み合わせに応じて字間を調整する手法を学んだり、素晴らしいフォントを実現するためには何が必要かを学んだり。それは美しく、歴史があり、科学では判別できない微妙なアートの要素を持つ世界で、いざ始めてみると私はすっかり夢中になってしまったんですね。

こういったことは、どれも生きていく上で何ら実践の役に立ちそうのないものばかりです。だけど、それから10年経って最初のマッキントッシュ・コンピュータを設計する段になって、この時の経験が丸ごと私の中に蘇ってきたんですね。で、僕たちはその全てをマックの設計に組み込んだ。そうして完成したのは、美しいフォント機能を備えた世界初のコンピュータでした。

もし私が大学であのコースひとつ寄り道していなかったら、マックには複数書体も字間調整フォントも入っていなかっただろうし、ウィンドウズはマックの単なるパクりに過ぎないので、パソコン全体で見回してもそうした機能を備えたパソコンは地上に1台として存在しなかったことになります。

もし私がドロップアウト(退学)していなかったら、あのカリグラフィのクラスにはドロップイン(寄り道)していなかった。

そして、パソコンには今あるような素晴らしいフォントが搭載されていなかった。
もちろん大学にいた頃の私には、まだそんな先々のことまで読んで点と点を繋げてみることなんてできませんでしたよ。だけど10年後振り返ってみると、これほどまたハッキリクッキリ見えることもないわけで、そこなんだよね。もう一度言います。未来に先回りして点と点を繋げて見ることはできない、君たちにできるのは過去を振り返って繋げることだけなんだ。だからこそバラバラの点であっても将来それが何らかのかたちで必ず繋がっていくと信じなくてはならない。自分の根性、運命、人生、カルマ…何でもいい、とにかく信じること。点と点が自分の歩んでいく道の途上のどこかで必ずひとつに繋がっていく、そう信じることで君たちは確信を持って己の心の赴くまま生きていくことができる。結果、人と違う道を行くことになってもそれは同じ。信じることで全てのことは、間違いなく変わるのです。"

文系・美術系の大学出身者にとっては、最初は言葉の意味すらチンプンカンプンであったかも知れませんが、それでも入社して最初に設定されたハードルを何とかクリアしようと一生懸命勉強したことは無駄にはなりません。

しかし基本情報処理技術者のような選択問題の結果においては、運・不運ということもあるので、僕も試験の直前に明治神宮で全員の合格を祈願しお守りを買ってきました。もっとも、僕のような不届き者の合格祈願に有効性があるはずもないのですが、神様にはカープの日本一祈願よりも合格祈願を優先させた気持ちは汲んでもらいたいものです。

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前川@ドリーム・アーツ

※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

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