Everybody Is Somebody

八田真行(Masayuki Hatta) 2005-09-26 08:54:57

オープンソース界隈、ことに日本のそれは慢性的な人手不足である。やるべき作業、やったほうがいい作業はいくつも残っており、その大半は、時間こそかかるものの技術的にはそれほど困難というわけでもない。また、世の中には実際に手を動かして作業しないと分からないという物事も多くある。だから、オープンソースに若干でも興味をもたれた方は、どんどん自分のできることから手伝ってほしいと思う。しかし、そうは言っても「私にできることなんか…」と足踏みしてしまう人は多いようだ。筋金入りのフリーライダーならそれはそれで仕方がないが、何かしたい気持ちはあるのに腰が退けているだけならもったいない。そこで、そういった謙虚な方々を説得するため、以下のようなおとぎ話を考えた。

ここにスーパーハッカーと凡人がいたとしよう。そして、この世にはハックと、その他の雑用という二種類の仕事しか存在しないとする。どちらの仕事も必要である。スーパーハッカーは何せスーパーというくらいなので、ハックも雑用も小一時間もあれば区切りのよいところまで終わらせることができる。一方凡人は凡庸なので、区切りの良いところまで終わらせるのにも相当な時間がかかってしまう。ハックのほうが雑用よりも困難であるとしよう(というか、そもそも実際には凡人は逆立ちしてもできない高度に専門的なハックもあるわけだが、ここではどんなハックもとにかく時間さえかければどうにか達成できるとしたい)。話を大胆に単純化して、「区切りの良いところまで」がある程度客観的に計量できるとし、それを各仕事の一単位とする。すなわち、スーパーハッカーはハック1単位をこなすのに1時間、雑用1単位をこなすのにも1時間を要すだけだが、凡人はハック1単位をこなすのに半日、雑用1単位をこなすのにも6時間かかると考えるのだ。このへんでかなりむちゃくちゃな話をしていると思う人も多いだろうが、見捨てないで続きも読んでください。

さて、スーパーハッカーが雑用にかける時間を1時間減らすと、ハックにかける時間を1時間増やすことができる。よって、雑用は1単位犠牲にするものの、達成できるハックは1単位増える。ここで、犠牲になった雑用1単位を補うため、凡人が雑用を1単位増やすとしよう。そのためには、6時間を新たに雑用に費さなければならない。これは言い替えれば、凡人がハックに充てる時間が6時間減る、すなわち凡人によるハックが0.5単位(6時間は半日の半分)犠牲になるということだ。話をまとめれば、雑用の達成量は補填されるので当然変わらないのだが、両者が達成するハックの量はスーパーハッカーの増加分1単位から凡人の減少分0.5単位を引いた、計0.5単位の増加となる。たかが0.5単位と言うなかれ、このようにスーパーハッカーが雑用にかける時間を減らし、そのぶんよりハックに専念すればするほど、あるいは凡人がハックにかける時間を減らし、そのぶん雑用に専念すればするほど、雑用の達成量はキープしたままで、全体から見たハックの達成量はどんどん増えていくのである(興味があれば自分で計算してみてください)。狐につままれたような気分かもしれないが、種を明かせば、これがいわゆる比較優位の原理だ。

ここで重要なのは、スーパーハッカーと比べて凡人はハック、雑用どちらもより多くの時間を要し、いわば生産性が低いということだ。端的に言えば無能である。ゆえに、普通に考えれば、スーパーハッカーがどちらの仕事も一人で手早くさばいたほうがいいような気がする。実際、優れたハッカーになればなるほどそのように思いがちのようだ。しかし、そういった発想は、ハッカーにも凡人にも一日は平等に24時間しか与えられていないということを忘れている。時間は限られているのである。ならば、自分が最も得意とすることに専念し、あとは他の人にやってもらったほうがいい。ことに、オープンソースの場合は成果としてのハックはスーパーハッカーにも凡人にも等しく恩恵をもたらすのだから、両者がタッグを組むのは十分合理的である。

結論はこうだ。あなたは、自分でおっしゃる通り本当に生産性が低く、無能で、何もできないのかもしれない(自分で自分を無能だと言えるだけの心の余裕がある人は、多くの場合すでに無能ではないが、それはさておき)。しかし、だからといって尻込みすることはない。それでもなお、自分にできる範囲内で協力することには十分意味があるのだから。

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