人間が処理できる情報量には限りがある

村田聡一郎(Soichiro Murata) 2011-08-17 00:00:00

 


前回、「情報そのものに価値があるという思い込みを捨てよ、使える情報以外に価値はない」と書いた。実はこれと表裏一体の、重要なポイントがもうひとつある。それは、「一人の人間が処理できる情報量には限りがある」というものである。


「何を当たり前のことを」と思われるかもしれない。そのとおり、当たり前である。


では、あなたの社内は、この当たり前の事実に対応できているだろうか?


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オフィスワークのすみずみまでITが行き渡り、今や情報発信コストは限りなくゼロ円に近付いている。たとえば、全社ポータルの「お知らせ」という欄に情報を一本発信したら、課金されるか?というと、たぶんされないだろう。したがって全国の社員に、たとえば「中古の21インチモニタが1台余っています、ご希望の方はIT部まで」という情報を発信することは、一見、ほぼノーコストでできる。


それと同じことを、たとえば15年~20年前の「紙の時代」にやろうとしたらどうなったであろうか?紙に印刷して全国津々浦々の事業所に郵送またはFAXし、さらに各事業所でそれをコピーして、各人の机の上に配ってもらうか、課ごとに回覧してもらうか...


紙代、印刷代、配送代。たとえ直接課金されなかったとしても、会社として多大なコストがかかっていることは明らかである。したがって(であるがゆえに)「それなりの情報」でなければそんな情報発信は許容されなかったであろう。もしさして重要でもない情報を流そうとしたら、上司からカミナリが落ちたか、あるいはその前に総務課あたりでチェックが入ってあっさり止められたかもしれない。


つまり「情報発信コスト」という目に見えるハードルがあるがゆえに、必然的に情報の質を濃く保ち、量を適正に抑えるという力が働いていたのである。


ところが情報発信コストが極限まで下がったことで、この歯止めが利かなくなった。その結果何が起きているか?もちろん、情報の大洪水である。「たとえどんな情報でも、出さないよりは出したほうがマシ(効果がゼロでなくても0.01より上ならよい)」、という認識がまかり通るようになったわけである。


もちろん、現在17インチモニタを使っていてもっと大画面がほしい社員にとっては、「21インチモニタを回してもらえるかも」という情報の効果はゼロではない。会社としても、倉庫に寝かせておくよりは誰かに使わせたほうがよい。しかし大多数の社員にとっては、これは「お知らせ」欄を埋め尽くす「さして重要でもない情報」のひとつに過ぎないだろう(なにしろ回してもらえるのはたった1人なのである)。

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しかし。たとえどれだけ大量の情報が発信されようと、時代が変わろうと、さして変わらないものがある。それは情報の受け手である人間の情報処理能力、あるいは情報処理にあてられる時間である。紙がWebになったからと言って、速く読めるわけではない(むしろWebのほうが速読はしにくい)。1日24時間、勤務時間8時間は変わらない。


紙時代には、「自分のところに来た情報はすべて一通り目を通す」という閲覧パターンでもよかった。発信され届いてくる情報の絶対量が限られ、かつ(それゆえに)情報の質には一定の担保があったからだ。


しかし現在では、そんな悠長なことはしていられない。情報の量が爆発的に増え、それと反比例して「さほど重要ではない情報」の占める割合も加速度的に増えている。情報の受け手側、つまり社員ひとりひとりの立場からすれば、なんらかの選別基準を設けて、「自分にとってさほど重要ではない情報」には時間と能力を使わないことで自衛するしかない。


では具体的にはどうするか?現在たいていの社員が行っていることと言えば、自分が情報処理にあてられる時間と能力の範囲内でだけポータルやメールを読み、そこからはみ出た部分は無視する、というものだろう。それは暇な日なら60分かもしれないし、忙しい日なら5分かもしれない。


あまり合理的な選別基準とは言えないし、実は重要な情報の見落としも増えるかもしれない。が、彼らは(あなたも)言うだろう。「なにか文句ありますか?それ以外にいい方法があるというなら、教えてくれます?」


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一般的に、コストが下がることについて文句を言う人はいない。しかし、コストダウンとまさに反比例して情報洪水がひどくなり、それが社員の仕事時間とエネルギーを奪っているのであれば、それは深刻なコストアップ問題と考えるべきではないだろうか。


しかし。では、あなたの会社では、「情報の量を抑え、単位あたりの情報の質を高く保つための施策」をなにかしら行っているだろうか?むしろ、「ポータルに掲示している情報の閲覧率が低い」と頭を悩ませていたりしないだろうか?全社ポータルの目立つ場所に「お知らせ」として掲示している以上、閲覧率100%が理想(あるいは当然)、と思っていないだろうか?


ちなみに。実際にはありえないが、もし「閲覧率100%」が実現していたら、それはそれで怖いことになったかもしれない。全社員がPCにかじりつき、ポータル上のすべての情報に必死で喰らいついて目を通している。その結果、たしかに閲覧率は100%になった。しかし、「本業」に割く時間がもはや残っていなかった...w

現実問題として、いまさら古き良き「紙の時代」には戻れない。情報はすでに社内・社外に溢れかえっている。これはいい悪い、好き嫌いの問題ではない。時代に順応していくしかない。


やれることがあるとすれば、それは情報を「効果的に事前選別する」、つまり「今の自分にとって相対的に重要な情報」だけを読み、「さほど重要ではない情報」は読まないで済ませる、ことを可能にし、かつその行動パターンを身に着ける(社員に身に着けさせる)ことだけだ。


では、具体的には、どうするか?…次回に続きます。




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