前々回、前回で、社員に対する情報発信は「出せばよいというものではなく、使える情報、濃い情報だけが厳選されて届くように工夫する必要がある」ことに触れた。
では、具体的に、使える情報だけをユーザーに届けるしくみを作るにはどうしたらよいか?
これには、いくつかの手段(方向性)があるので、順を追って説明したい。ちなみにこれらの手段は組み合わせて使えるので、それぞれを組み合わせて実施することで最大限の効果を上げることができる。
※なお、ひとくちに「情報」といってもさまざまな情報があり、それぞれ最適な取り扱い方も異なることはすぐにご想像がつくであろう。ここではまず、主に会社から社員へブロードキャストされるマス情報(ポータルからの発信等)について考えていく。マス情報より個別度の高いコラボレーション等の領域はについては別途考える。
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■手段(1)ユーザーを属性ごとにグルーピングし、情報発信先グループを絞りこむ。
一般に、同じような属性を持つ社員は、同じような興味を持っている可能性が高い。たとえば同じ○○事業部に所属する社員は、○○に関する興味がある可能性が(他の事業部の社員より)高いと推定される。またもっとミクロなレベルでも、たとえば各職場に1人ずつ配置されている「ITリーダー」は、「IPアドレスの変更に関するお知らせ」に反応する可能性がより高い。
これはマーケティングやダイレクトメールの世界ではもはやイロハのイですらない、「顧客セグメンテーション」の考え方と基本は同じである。顧客を属性ごとにグループに分け、その情報に反応を示しそうなグループだけに情報を発信する、ということだ。
社員にもさまざまな属性がありうる。組織/部署はすぐに思いつくが、それ以外にもいろいろ考えられる。
- 組織/部署(○○事業部、〇〇本部、〇〇部、、、)
- 職種(研究開発、製造、営業、サポート、管理、、、)
- 年齢層(20代、30代、40代、、、)
- 役職層(ヒラ、課長代理まで、課長以上、役員、、、)
- 勤務地(本社、支社、海外、、、)
- 性別
また、全社員に当てはまる属性ではなく、特定の属性を持っている人、というグループもある。たとえば
- 各課の「ITリーダー」
- 「未就学児童のいるお母さん社員」
- 「住宅財形貯蓄を行っている社員」
- 「以前○○アンケートに答えてくれたことのある社員」 などなど...
こうした公式・非公式なグルーピングを活用できれば、その情報に反応を示しそうなグループにだけ情報を発信する(正確には、反応を示す可能性が低そうな大多数には発信しないことで、情報洪水や雑音を防ぐ)ことが可能になる。
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ただし、グルーピングの活用は、実際にはそれなりの環境が整備されていないとできない。主なハードルは3つある。
1.まずグルーピングを登録しておくシステム(入れ物)がないとできない。たとえばSharePoint利用企業の場合だと、グループを登録するのはAD(アクティブディレクトリ)かSharePointグループかのどちらかを使うことになるが、このいずれかを使ってグルーピングを維持管理できるようになっている必要がある。
2.次に、グループごとに情報を出し分ける(ターゲットを絞って情報を発信する)というシステムがないとできない。これはポータル等の機能および設定に依存する。たとえばSharePointの場合、ツールの機能としては出し分けを行う機能は持っているが、それが実際にポータル上で使えるようになっていなければ、結局出し分けをすることはできない。
3.そして、グルーピングを正しく維持する体制・しくみが必要。グループを「新しく作る」のはいっときの作業だからやればできる。しかしそれを長期間にわたって正しく維持するのは地味だが手間がかかる。そしてもしセグメンテーションに間違いや抜け漏れがあったりすると、これはむしろ弊害が出かねない。(たとえば課長になって組合員でなくなったのに、いつまでも組合員扱いの情報が届くのは...) また社員ごとの属性情報は、それがどのようなものであれいわゆる「個人情報」扱いとなることが多いので、その取扱いにも注意が必要だったりする。
もしあなたがポータルシステムの管理者、あるいはそれを統括するCIO、またはインターナルコミュニケーションの担当者であれば、ぜひ上記を3点を実現することをご検討いただきたい。
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■手段2.ユーザーの「自己申告」に合わせる
発信する情報をカテゴリに分けておき、ユーザー側に「この手の情報ならプッシュしてくれ」と自己申告してもらう方法である。プッシュとは、1.ポータルの「新着ウインドウ」等に表示される、2.お知らせメールが来る、などの形が考えられる。
手段1と似ている面もあるが、ユーザーが自己申告しているため、興味に合わない情報が配信される可能性は下がり、その分満足度は上がる可能性が高い。
問題は、「すべて拒否」(プッシュなし)とする社員も多くいるであろうこと。お知らせメールは一切お断り、ということだが、これだと、いくら情報を発信してもまったくリーチできない可能性が高いので、実際には手段1との組み合わせで使うこと現実的である。
■手段3.タイトルやリード文などを工夫し、ナナメ読みしやすくする。
ナナメ読み、つまりタイトルや本文冒頭部分だけをぱっと見て、それ以降を読むべきかどうかの判断がつくようにする。こうするとユーザーは「ハズレ」を引く可能性が下がるので、結果的に興味のある情報にはアクセスしてくれる可能性が高い。
これは実は、ニュース系のサイトなどではすでに当たり前になっている書き方である。またFacebookではURLを指定するとそれだけでタイトルとリード文がサムネイル付きで表示されたりする。これらはすべて「開いてみたらハズレだった」という経験を減らすための施策である。
■手段4.アクセスしやすくする。
新着情報が直接ポータルの表面に出ていて、ワンクリックで直接アクセスできる状態になっていると、ついつい見てしまうものだ。逆にワンクリック下がってからでないと見られない、となると、そのワンクリックが障壁を格段に上げてしまう。社員はみな忙しいから、とにかく目に触れさせる工夫が必要である。
■手段5.数を減らす。
閲覧数が伸びない場合、その原因のひとつとして、単純に「発信数が多すぎる」可能性が高い。前回書いたように、社員はみな忙しい。とくにNice to Haveな情報を閲覧する時間は限られる。全部なんかとても見ていられない、となると、そのサイトそのものから足が遠のく可能性も高い。むしろ思い切って数を絞り込んだほうが、かえってよい結果が出ることが多い。
■手段6.閲覧数・閲覧者をトラッキングし、追及する。
とくにマストな情報発信(通達など)では、閲覧者が誰か、閲覧していないのは誰か、閲覧率の低い部門はどこか、などをトラッキングして追及するなど、「ムチ」をふるうことも必要である。
ただしムチは、閲覧者側だけに適用されるわけではない。むしろ同時に、情報発信部門側にも適用される。つまり、自部門が発信した情報がいかに閲覧されていないか、を見える化することで、逆に情報発信の努力を促すことにもなる。
■手段7.ソーシャル要素を使う。
Amazonで本を見ていると、「この本をチェックした人は、こんな本も見ています」というレコメンドが出てくる。これは単純だが効果的なことが多い。お勧めされるとついそちらも見てしまうことがあるのではないだろうか。
ただ、これは、ユーザーのパイが数十万、数百万単位であるからできること、でもある。社員数が数千人や1万人程度では実は不足で、実質的なレコメンド効果を上げるには難しい。効果を上げるためには、たとえば好業績社員だけを抽出して分析し、彼らの閲覧パターンに沿ってレコメンドを出す、といった取組が必要である。
村田聡一郎 お問い合わせはこちら
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