国際会計基準(IFRS) 取り組みの現実

斎藤昌義(さいとう まさのり) 2009-11-17 13:45:41

 10月30日、東京証券取引所が、「国際会計基準(IFRS)の適用に向けた上場会社アンケート調査結果の概要」を公表しています。東証上場2332社に依頼し、1416社(60.7%)が、回答しています。

 アンケート回答企業のうち、875社(61.8%)が、「検討を開始している」と答えている一方で、538社(38.0%)が、「検討を開始していない」と回答しています。

 以前のブログで、「2015年に強制適用される場合は、2013年から、IFRS対応のシステム運用が、必要」と書きましたが、いまだこの4割近くが、検討も未着手の状態であるというのは、少々驚きです。

 この回答は、たぶん財務部門や経営企画部門からの回答ということでしょうから、情報システム部門が、具体的な検討をしている企業は、さらに少ないのではと、推察されます。

 また検討を開始していない企業のうち、今年来年は、まだ検討しないと答えている企業が、70%もあるわけです。これは、どういうことなのかと、余計な心配をしています。

 確かに、IFRSが、強制適用になるかどうかは、2012年に決定するとなっていますので、それを見極めてという企業も少なくないのでしょう。また、IFRSの内容が、いまだ流動的だということも、検討に二の足を踏ませている理由なのかもしれません。

 しかし、時代の趨勢は、明らかにIFRSに動いています。2011年には、およそ150ヶ国が、IFRSを適用または、容認しようとしています。先進国で取り残された日本と米国。この現実を考えれば、時間の問題であろう事は、必然といえるでしょう。

 ところで、亀井静香金融担当相のインタビュー記事が、先日の「週刊エコノミスト」の『IFRSの暴走』という特集に掲載されました。その中で、IFRS適用に関する今年6月の中間報告について、「そんなことはやらない。」と明言しています。この記事の元となった取材記事の全文[亀井内閣府特命担当大臣閣議後記者会見の概要(雑誌・フリー等の記者)/(平成21年10月9日(金)13:01〜13:28 場所:金融庁大臣室)]が、掲載されています。それを読むと、「中間報告なんかしているの?」との発言。選挙に忙しく、中間報告が公表されていた事さえ知らず、当然に中身も知らないままに、こんな大切なことを軽々しく発言するとは・・・。日本の金融行政を司るトップが、このていたらくですから、私たち庶民は、まだまだであっても、仕方がないのかもしれませんね。

 まあ、こんな話しはともかくして、導入に対する懸念事項についての調査では、「導入後の決算実務負担」が、77.7%、その次にきているのが、「システム対応」の77.6%となっています。

 この数字は、「国際会計基準に対応する社内人材不足」の67%、「国際会計基準に対する理解不足」の63%、「導入コスト」の55%を大きく上回っています。

 社内の業務プロセスが、システムなしには運営できない状況にあって、IFRSの適用は、会計システムにとどまらず、その他の業務システム全般に影響を及ぼします。

 これは、JSOXが、管理の粒度をきめ細かくすることであって、ルールを根本的に変える話しではなかったことに対して、IFRSは、ルールそのものの変更を余儀なくされるわけですから、その影響度は、とても大きく、複雑なものになることは、避けられないでしょう

 「システム対応」に多くの企業が懸念をいだいていることは、当然です。

 情報システム部門の皆さんは、この現実をどのように受け取られるでしょうか?

 以前のブログでも申し上げたことですが、こういうタイミングだからこそ、情報システム部門は、いちはやくリーダーシップを発揮して、この取り組みを進めるべきだろうと思うのです。

 財務部門や経営企画部門で、何かが決まるのを待っていては、またもや、ケツカッチンで、大慌てをさせられることになりますよ。

 先読み、先回りして準備を進めることもそうですが、情報システム部門が、積極的にリーダーシップを発揮し、既存の業務プロセスの見直しや最適化を進めてみとはいかがでしよう。BPM(Business Process Management)の取り組みです。そうすれば、いざ、IFRSへの適用となったときも、迅速に対応できるようになります。

 また、連動してSOA(Service Oriented Architecture)の適用も進めておけば、クラウドなどの外部リソースを容易に活用できるようになり、短時間でコスト抑えながら、システム対応をすすめることが、できるようになると思うのですが、どうでしょう。

 もちろん、簡単なことではありません。しかし、情報システム部門が、経営に貢献するということは、まさにこういう取り組みの積み重ねなのだと思うのです。CIOのリーダーシップが、試されることになりますね。

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※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

2件のコメント
  • 斎藤昌義

    ザ・グローバルさん、コメントありがとうございます。

     『「IFRSの適用は、会計システムにとどまらず、その他の業務システム全般に影響を及ぼします。」とあるけれども,どのシステムにどういう影響を及ぼすのか,具体的に示してほしい。』

     ごもっともなご指摘です。ただ、このブログでも洗いざらい書き出すことは、難しいので、特徴的な例をいくつかご紹介しましょう。

     例えば、「収益認識」の問題。今までの日本基準では、「出荷基準」で売上げ計上が認められていました。しかし、IFRSでは、「出荷基準」は、原則として認められません。IFRSの規定によると「リスクと経済的価値の移転」が、確認されて始めて売上げ計上が認められます。簡単に言ってしまえば、「検収基準」です(実際は、もっと複雑なのですが、分りやすいように・・・)。

     例えば、商品の移送中に事故が起こった場合、これは出荷した側に責任がありますから、売上げ計上は、妥当性を欠く、というわけです。また、客先に商品が届いても、「こんなもの注文していないよ」などといわれると、これもまた、売上げにならない。

     こういうものは、リスクや経済的価値が、先方に移転していないからだというわけです。

     このようなルールになると、もちろん会計システムの売り上げ計上基準が、変更となりますが、加えて、販売管理や在庫管理のシステムにも影響が出ます。

     例えば、在庫管理であれば、「現物は手元にはない在庫品」という扱いが必要になるでしょう。また、販売管理システムでは、売り上げ計上のタイミングや手続きが変わりますから、そのあたりのシステム対応は必要なるはずです。

     販売管理システムについて言えば、管理セグメントの問題もあります。例えば、どの子会社の、どの部門の、どの地域の、どの販売チャネルの、誰への売上というように、売上という情報に、このようなきめ細かな管理情報を付帯する必要が生じます。このような情報は、まずは、販売システムで収集されるわけですが、果たして、現行、そのようなシステム対応がなされているでしょうか。また、これらの管理セグメントについて、海外連結子会社に対しても、共通に適用しなければならなくなります。

     また、工事進行基準への対応については、WBSで進捗を把握する必要があります。ということは、原価の積算なども必要となりますので、人事管理システムや購買システム、プロジェクト管理システムもこれに対応しなければ、適切な売上げ計上はできなくなります。

     この例からもおわかりのように、会計システムだけでは、対応しきれない課題が、生じることになります。

     他にも、資産管理の方法、研究開発に関わる費用と資産の区分などなど、会計上のルールが変わります。会計システムとは、その集計をするわけですから、その上流にある業務アプリケーションに手を加えなければ、新しいルールに必要な適切な情報が、入力されないことになります。

     もちろん、その部分は、人手で対応すれば、関係ないではないかという考えもありますが、IFRSの適用を受ける企業は、大半は大企業ですから、そんなことなどできません。

     ましてや、連結決算のためのIFRS基準の集計と税務対応のための日本基準の集計を同時に行う必要があります。これは、単に同じ数字を別々に集計するのではなく、数字そのものの意味が違いますから、上流の業務システムの対応は、かなり複雑になるものと考えなくてはなりません。

     以上は、ほんの一部ですが、これだけでも、なかなか大変になることは、ご理解いただけるのではないでしょうか。

     そもそも、IFRSは、会計の基準を変えることです。これは、経営の考え方に大きな影響を与えます。経営の考え方が変われば、業務プロセスを変えることももとめられるでしょう。そうなると、今までの日本基準に基づくプロセスで開発された業務システムは、当然新しいルールによって、見直されることになります。

     以上、ご参考まで。

    2009年11月19日

  • ザ・グローバル

    「IFRSの適用は、会計システムにとどまらず、その他の業務システム全般に影響を及ぼします。」とあるけれども,どのシステムにどういう影響を及ぼすのか,具体的に示してほしい。
    現在のIFRSをとりまく状況は,いつか見たJSOXでのIT屋さんの大騒ぎの二の舞にしか見えない。
    あのときも,「JSOXは会計システムだけの問題ではなく,業務システム全般に影響を及ぼす」というのが,IT屋さんの常套句だった。

    2009年11月18日

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