Windows Azureに垣間見るマイクロソフトのしたたかな戦略

斎藤昌義(さいとう まさのり) 2009-11-25 10:50:43

 11月17日、マイクロソフトが、Windows Azure Platformを発表した。マイクロソフトは、その発表の中で、次の5つをクラウドの条件であると定義している。

  1. サービス指向
  2. マルチテナント&セルフサービス
  3. トラフィックの増減に柔軟対応
  4. 高い耐故障性
  5. 従量課金

 マイクロソフトは、Windows Azure Platformが、この定義にかなったサービスであると説明している。以前、「クラウドの定義」で解説した米国商務省・標準局の定義とも、ほぼ一致した内容でもある。

 この中で、オンプレミス(自分で所有し、運用するシステム形態)では、難しいのが、「3.トラフィックの増減に柔軟対応」と「4.高い耐故障性」だ。

 まさにこの点に、マイクロソフトならではのしたたかな戦略が、垣間見える。

 「そんなことは、マイクロソフトだけの話しではなく、クラウドでは、当然ではないのか?」といぶかしく思われる方も多いのではないだろうか。しかし、このふたつの条件こそが、マイクロソフトにとって、最大の差別化ポイントといっても過言ではない。

 他の大手クラウド・プレーヤーのビジネス形態を想像してほしい。グーグル、アマゾン、セールスフォースなど、どの企業もオンプレミスのプラットフォームを提供していない。唯一、マイクロソフトだけが、Windows Serverというプラットフォームを提供し、大きなシェアを持っている。また、Windows Serverの開発環境であるVisual Studio / .NET Frameworkは、開発環境のデファクト・スタンダードとして、既に多くのユーザーに利用されている。

 Windows Azure Platformは、このWindows Serverのレプリカともいえるシステム・プラットフォームだ。つまり、オンプレミスで稼動しているアプリケーションや開発環境が、そのままクラウド上で利用できるのである。

 Windows Azure Platformは、この膨大なユーザー資産を抱えるオンプレミス型Windows Serverの弱点である「3.トラフィックの増減に柔軟対応」と「4.高い耐故障性」を補完するシステム環境なのである。換言すれば、既にありふれたWindows Serverの機能拡張と位置づけることもできる。

 既存のWindows Serverユーザーにとっては、大変分りやすい。つまり、利用形態が、どうあれ、開発、運用のプラットフォームが、いままでと同じWindows Serverそのものなのである。

 また、クラウドとのオンプレミスを必要に応じて使い分けるに当たっても、同一のシステム・プラットフォームなので、その使い分けを意識する必要がない。さらには、実際に使い分けるに当たっても、アプリケーション単位ではなく、機能やサービス単位といった、より粒度の小さな最適配置も行いやすくなるだろう。

 これは、他のクラウド・プレーヤーにはできないことであり、彼らにっては、大きな脅威となることは、間違えない。

■ 同じプラットフォーム
■ 同じ開発環境
■ 高い相互運用性

 これに、先のふたつの条件である「トラフィックの増減に柔軟対応」と「高い耐故障性」が加わる。オンプレミスとクラウドが、シームレスにつながっているありふれたシステム・プラットフォーム。それが、Windows Azure Platformということになる。

 これは、裏を返せば、「すべてをクラウドに移行する必要はないですよ!」、「とりあえず、Windows Serverで開発しておけば、いつでも、なんとかなりますよ!」という、マイクロソフトからのメッセージでもある。クラウドへの過剰な興奮を落ち着かせる効果もあるだろう。

 なるほど、したたかな、そして、よくできた戦略だ。

 それでは、情報システム部門としては、これをどのように利用してゆくか。

 まず、第一に考えられることは、「開発やテスト環境」としての利用である。もし、Windows Serverを利用しているのであれば、これは、きわめて容易な選択である。開発のたびごとにサーバーを購入していては、それだけで大変なコストが、かかってしまう。まずは、Azureで開発し、一定のテストまでは、こなしてしまうというこどてあれば、機材の調達時間の大幅な短縮、コストの削減に貢献するだろう。

 次に、考えられることは、「バックアップ環境」。データベースやデータファイルのバックアップということだけではなく、BCPを考慮したリカバリー環境としての利用形態である。従量課金であるから、稼動していないときは、ほとんどコストはかからない。同一の設備、システムを所有し、そこにレプリカ・システムを稼動させておく必要はないので、これもコスト削減、そして、リスク分散に貢献するだろう。

 そして、本命は、「既存業務システムとの機能分担」ということになる。これについては、改めて、整理してみようと思う。ただ、以前「クラウドの課題とリスク」で解説した状況が、変わるわけではないので、もうすこしその点から精査してみる必要があるだろう。

 ただ、マイロソフトは、今回の発表で、オンプレミスからクラウドへの橋渡しを具体的な形で提案した。というか、クラウドとオンプレミスをシームレスなひとつのシステム基盤としたのである。これは、情報システム部門としても、これからのシステム構築を検討するうえで、十分考慮するに値するものであろう。

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※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

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