第二の変化:何もしないでいいのですか?

斎藤昌義(さいとう まさのり) 2010-07-17 09:32:00

  我が国のSIビジネスは、リーマン・ショックをきっかけとして、需要の大きな落ち込みを経験した。しかし、多くの経済指標が、改善される中で、SIビジネスが、同様の軌跡をたどっているという話は、寡聞である。「SI需要の回復は、景気の回復から半年から1年くらいは、遅れるものですよ。」という、楽観論も聞かれるが、果たして、本当にそうなのだろうか。

 私は、この楽観論には、賛成できない。むしろ、リーマン・ショック以上の大きな構造的な変化が、新たに始まろうとしていると考えている。リーマン・ショックがもたらした第一の変化に続き、今私たちは、それ以上に大きな第二の変化に直面していると考えるべきだろう。 

 我が国のSI産業の構造は、コンサルティングや企画、設計といった上流工程を、限られた大手ゼネコンSIerが握り、そこで受注した開発や運用を多数の中小SIerが、下請けとして受託する構造で成り立っている。第一の変化は、この産業構造を維持したまま、その規模が、縮小するという変化であった。それが、下の図である。 

 

 この第一の変化は、「業務量の減少」と「単金相場の低下」をもたらし、生き残りが難しくなった中小のSIerは、大手ゼネコンSIerに買収されるという動きを加速した。本来ならば、景気の回復は、この産業構造を維持したままで、再び規模を拡大することになるが、3つの要因が、それに歯止めをかけているように見える。

 その第一は、「ニューノーマル」である。「単金相場の低下」は、ユーザー企業にとっては、もはや既得権益になり、「この金額で同じことができるではないか」という、新たな常識が、定着してしまった。また、SIer側も、仕事を受託し続けるためには、単金を上げてほしいとは言いにくい。この暗黙の了解が、SIerの利益拡大の頭を押さえている。

 第二の要因は、オフショア開発の使い勝手が向上したことにある。オフショア開発については、「まともに動かない」、「こちらの意図とは違うシステムができてしまった」などの失敗を重ね、どうすればうまくできるかのノウハウも蓄積されつつある。その結果、オフショア開発の使い勝手が向上し始めている。また、オフショア開発拠点の開発力や品質管理能力も著しく向上している。ちなみに、中国国内のCMMIレベル5の企業は、今年の3月時点で48社。日本の17社をはるかにしのいでいる。しかも、その伸び率は、前年対比65%増であり、わが国の15%を凌駕している。インドは、189社、そしてベトナムもすでに3社が、CMMIレベル5の認定を受けている。その伸び率は、日本以上であることは、言うまでもない。

 さらに、中国の一流大学院卒の初任給は、年額150万円程度であり、当然英語力に問題はない。また、ベテラン・クラスである30才でも、年収は300万円程度であるから、もはや人件費という観点だけから見れば、太刀打ちできない。オフショア開発環境の整備とももに、同一スキル=同一賃金の競争は、日本国内という縛りを越えて進行し始めており、この動きが止まることはないだろう。

 第三の要因は、クラウドの普及である。それも、PaaSの企業システムとしての使い勝手が、向上してきたことは、企業のシステム利用形態に大きな変化をもたらすものと考えられる。PaaSとは、ミドル・ウェアをネットを介して提供するサービスであるが、「企業システムとして使い勝手のいいPaaS」の先鞭を切ったのが、MicrosoftのWindows Azure Platformといえるだろう。なぜ、Azureかといえば、オンプレミス(企業が自社でシステムを所有し、自ら運用するシステム利用形態)とクラウドをシームレスなプラットフォームとして構築したからである。つまり、オンプレミスのWindowsサーバーで使われている.Netの開発運用が、何の変更もなく、そのままクラウド・プラットフォームで実行可能となる環境を作ったからである。つまり、企業は、今までのシステム資産やVisual Studio / .Netの開発スキルを、クラウド環境でも、そのまま継承できるわけであり、クラウド利用についての企業としての抵抗感を、大きく低減することになるだろう。

 また、Java環境でも同様の動きが始まっている。そのひとつがsalesforce.comが始めた、vmforceだ。vmwareと組み、Javaの開発環境としては、多くのユーザーを抱えるSpring Frameworkを利用できるようにしたことだ。同様に、Googleも自社のPaaSサービスであるGoogle App Engineのビジネス版(Google App Engine for Business / GAE for Business)にSpring Frameworkを提供することを表明している。

 こうなると、インフラの構築を伴うSIビジネスや運用サービスは、このクラウド・サービスと競合することになる。

 また、第一の変化で大手ゼネコンSIerが取り込んだ中小のSIerをグループ企業として、グループ内製を優先させる動きと重なり、独立系の中小SIerの業務減少は、もはや構造的なものとなりつつある。これが、第二の変化である

 

 第一の変化をなんとかやり過ごし、景気の回復を待ち焦がれていた多くのSIerにとって、次に立ちふさがる第二の変化は、もはや時間の問題で解決されるものではない。ビジネスのあり方、そして、人材のあり方を問い直される大きなパラダイムの変化である。 

 では、どう対処すべきなのか。これについては、次回あらためて、解説させていただく。 

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 *当初、「大学卒の初任給」と記載しておりましたが、正しくは、「一流大学院卒の初任給」です。お詫びして、訂正させていただきます。

※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

5件のコメント
  • まさぼう

    >実は、SaaSを提供しているような会社ではエンジニア、2,3人で21ヶ月、3ヶ月という単位でサービス

    2,3人で、2,3ヶ月という単位で・・・
    の間違いです。
    すいません。

    2010年07月18日

  • まさぼう

    そもそも、人月単位の値段からの脱却が必要なのではないでしょうか?
    エンジニアは、私が見ている限りでも、そのパフォーマンスに100倍近く差があります。
    (もっとあるかもしれません。)

    現在は、非常にたくさんの人数をかけて開発する案件も少ないです。
    せいぜい、数百万から2,3千万程度。そしてそれくらいでは実際のエンジニアは2,3人です。

    そうなると、これらの各担当エンジニアのパフォーマンスがもろに出てしまいます。
    つまり極端なことを言えば、100人月も、5人月も人が違えば同じ意味かもしれないということです。

    しかし、運用する側のコストを考えると、5人月で完成された方が、
    遙かにシンプルなのでその後の月額コストも安いのです。

    ましてや、素早くできた方が、その市場への参入も早くなるのですから、顧客が生む価値も相対的に高くなります。

    でも、このようなSIerが生まれないのは、結局人月単位でしか売り上げが得られない構造にあるからです。
    この構造を脱却する方法を見つけることが、本当に必要なのだと思います。

    実は、SaaSを提供しているような会社ではエンジニア、2,3人で21ヶ月、3ヶ月という単位でサービス、新しい機能を立ち上げていきます。
    SIに見積もって億に近い金額が出てきてびっくりすることがあります。
    (再販もしくは再配布されるということもあるので高い金額なのかもしれませんが・・・・)

    はやく、コストから価値への転換ができないと、SI業界はともかく、日本のユーザ企業さえも海外の会社に浸食されてしまうと思います。

    2010年07月18日

  • 斎藤昌義

    つぁがいさん
    コメントありがとうございます。

    ご指摘の件ですが、説明が不足しておりました。失礼いたしました。補足させていただきます。

    この年収150万円という金額は、北京大学や精華大学の一流大学の理工系修士あるいは博士クラスの年収です。

    一般的な大学初任給は、4.2万円/月であり、年収に換算すると50万円程度なります。
    http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=37650

    また、こういう記事もあり、業種によっては、もっと高いようです。
    http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-160382-storytopic-1.html

    また、普通の大学の博士でも、初任給は、7000元(約9万円/月)だそうです。
    http://j.peopledaily.com.cn/94476/6723422.html

    したがって、相当に能力の高い人であっても、日本の大卒初任給を大幅に下回る金額で採用できることになります。

    中国は、ここ数年急速に賃金が上がっており、もはや大卒でも、年収15万円ということはなさそうです。

    2010年07月17日

  • つぁがい

    上記の「中国の大卒初任給は、年額150万円程度」というのは間違いではないですか?15万ではないですか。

    2010年07月17日

  • ぱぴこん

    ?英語力があり実力も上のアジアのエンジニアの存在。
    ?オフシェアのノウハウの蓄積、海外勢の開発能力・品質管理能力の著しい向上。
    ?クラウドの普及。
    個人の課題。企業側の課題。業界の課題。大変わかりやすい記事ですね。

    ?と同等とエンジニアさんでしたら、日本に見切りをつけて既に海外で活躍されているでしょうね。
    ?も海外勢の実力に比例して増えていきますから、時間の問題かと。
    ?に至っては大企業以外はほぼ打つ手がない。

    日本のIT業界の情けなさをあらためて実感しますね。

    2010年07月17日

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