ふたつのクラウド:常識にあぐらをかいている場合ではなさそうだ

斎藤昌義(さいとう まさのり) 2010-09-18 10:06:59

 「IBMが全正社員40万人のうちの3/4に当たる30万人を2017年までに解雇し、プロジェクトの必要に応じて契約社員として再雇用する。」
 
 IBMの人材管理の代表責任者が、こんな発言をしたという記事が報道されたのは、今年の4月である。あくまで検討されているだけであり決定されたことではないとの記述もある。また、あるIBMの現役の方から「IBMはこの記事を否定した」との情報も頂いた。

 この記事の真偽をうんぬんする立場にはないが、この記事に書かれている内容は、実に現実感がある。
 
 この記事には、さらにこんなことが書かれている。
 
 ・正社員を大幅に減らすことで、社屋のコスト、企業年金や保険の負担が大幅に削減される。
 ・大多数の大手サービス・プロバイダーは、既にこのような戦略を試み始めている。
 ・会社としての資金的蓄積を増すための現在とりうる唯一の方法は、正社員を削減することである。
 
 また、人材は、必要に応じて「crowdsourcing(一般大衆からの調達)」するとの記述もある。
 
 この記事を深読みすれば、こう解釈することができるだろう。
 
 「会社として、余人に代えがたい専門性の高い人材(professional)は、全社員の1/4。残りの3/4は、グローバルに目を向けると、いつでも調達可能な大衆(crowd)である。」
 
 つまり、「企業を先導するリーダーや専門家は、社員として長期継続的に抱え込む。しかし、それ以外は、プロジェクトごとの必要に応じて、最適な人材を、適正なコストで世界から調達できるので、あえて正社員として雇っておく必要はない。」。経営合理的に考えれば、きわめてあたりまえな発想といえるだろう。
 
 このようなクラウド・ソーシング(crowd sourcing)の取り組みはすでに始まっている。例えば、P&Gは商品開発に、ボーイングは機体組み立てに、この手法を活用している。さらに、クラウド・コンピューティングは、このような経営の在り方を後押しする存在になりつつある。

 例えば、研究委託のサービスを提供する「InnoCentive」は、化学物質の研究開発課題の解決に、全世界数万人の研究者から公募し、共同研究を行う仕組みを提供している。また、「DELL Ideastorm」は、DELLの顧客を対象として、製品改善のための情報収集や提案を集めている。他にも、Webコンテンツの開発、市場予測、研究開発、システム開発など、クラウド・コンピューテング上にクラウド・ソーシングのための仕組みが、どんどんと出現している。
 
 この社会インフラは、国境という壁を越えて、世界をひとつの人材調達市場に変えようとしている。例えば、ホームページの制作であるが、日本では、1ページ=7千円前後が相場とも言われているが、日本語のわかる中国の会社/個人にインターネットを介して依頼すると、500円前後で引き受けてくれる。つまり、国境を越えた「同一スキル=同一賃金」が、人材調達の常識となるかもしれない世界が、もはや現実のものとなっている。
 
 クラウド・コンピューティングの普及は、クラウド・ソーシングが容易な社会インフラを築きつつある。この変化に私たちは、どのように対応すべきだろうか。
 
 クラウドというと、私のようなコンピューター業界の人間は、ついついクラウド・コンピューティングという技術やサービスを考えてしまう。しかし、もうひとつのクラウドは、人材の在り方、あるいは、マネージメントやキャリアといった仕事の在り方、自己実現や自分のプロフェッショナリティの追求といった生き方にも関わる問題である。
 

 このふたつのクラウド(cloud と crowd)は、これからの私たちの生活の変化に大きな影響を与えるキーワードとなりそうだ。

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※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

4件のコメント
  • まさぼう

    結局のところ、「いつでも調達可能な大衆(crowd)」ということは、たいしたことをやっていないという事実を言っているという事だと思う。

    でも、いろいろなサービスに対して最後まで責任をもって提供するには、「たいしたこともない事」をきちんとやることが重要となる。
    しかしながら、外部からの調達でこのあたりを実現しようとすると、責任問題が絡むので非常に高コストで低品質になりやすい。または、調達者が責任の切り分けができないので結果としては、低品質になる。

    提供者の立場でいうと、この記事のような理屈も通用するが、消費者の立場から言えば、一貫して責任をもってやってほしい。
    「いつでも調達可能」な事は、消費者の方が提供者よりも詳しい事も多々ある。そのレベルで、「よく、わからない」ではサービスの質を疑われてしまう。

    それに「企業を先導するリーダーや専門家」は、より高いレベルを目指してしまうので、企業側も高いレベルを維持しないとほかに行ってしまうリスクがあるので、常に魅力的な企業でなければならない。

    つまり、トップリーディングカンパニーが、そのトップを維持している時だけに通用する考え方だと思う。
    企業内に有能な人しかいないというのはある意味「企業」としては脆弱な体質の一面ももつ。

    「クラウド・コンピューティングの普及は、クラウド・ソーシングが容易な社会インフラを築きつつある。この変化に私たちは、どのように対応すべきだろうか。」

    提供者の立場の「コスト」で勝負するか?消費者の立場の「価値」で勝負をするのかといえば、先進国の立場では「価値」ではないだろうか?
    結局は、「クラウド」という道具に惑わされないほどの軸を身につけなければいけないということではないだろうか?

    (クラウドの提供側にいた経験者より)

    2010年09月23日

  • 斎藤昌義

    crowdsourcing(大衆からの調達)は、日本の製造業の伝統的な手法である中小企業の下請け制度とも相通じるものがあります。大田区のような優れた町工場があるからこそ、日本のモノづくりは支えられている。賃金だけではない調達基準がそこにはあります。
    crowdsourcingでは調達できないものは何か・・・そこにある価値を見出すことが、必要なのかもしれません。

    2010年09月22日

  • ゆーゆーず

    面白いですね。こういう時代は意外と早くきそうですね。
    幸せなのは1/4に入ることだろうか。それとも3/4になっても自分の時間を気ままに過ごすことだろうか。

    よりいっそうう大事になってくることは、
    ・時間の管理(自分自身の)をぶれなくきっちりすること
    ・生産性を最大限(負けないように)にするために特定のツールに精通すること。
    だと思いました。

    2010年09月22日

  • K2

    しかし、その1/4の社員は他の3/4がいたおかげで鍛えられたわけでしょ。

    1/4だけ残しても、そのうち1/4しか鍛えられないから、社員スキルのデフレスパイラルに陥るんじゃないの?

    2010年09月18日

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