「こうすれば受注できる」という常識が、もはや通用しない時代

斎藤昌義(さいとう まさのり) 2010-10-02 09:28:39

  「クラウドへの取り組みや新しいパッケージの販売など、いろいろと手を打ってはいるのですが、どうしても数字に結びつきません。営業力の強化が急務です。営業の育成を何とかお願いできないでしょうか。」
 
 あるSI事業者の社長から、そんな相談を頂きました。しかし、ことは、そんなに簡単なことではないように思うのです。
 
 以前、このブログでもご紹介した「第二の変化」について、いろいろなところでお話をさせていただきましたが、まさにそうだというコメントを多くの方から頂きました。今日は、このテーマと営業力について、もう少し深く掘り下げてみようと思います。
 
 今、我が国のSI事業者は、「今までの常識」を崩壊させるほどの、ふたつの大きな波にさらされています。特に、中堅、中小のSI事業者にとっては、経営をも揺るがす力を持っているほどです。

 まず、第一の波は、「ニューノーマル」の波です。日本のSI産業は、上流工程を握る一部大手SI事業者と1万社ほどの中小SI事業者による下請け構造によって成り立っています。
 
 リーマンショックにより、お客様の新規開発の意欲が大きく減退しました。その結果、従来からの元請−下請けの産業構造は維持されたままに、元請、下請けともに、業務量が大幅に減ってしまったのです。そして、中小規模のSI事業者は、元請、および、お客様のコスト削減要求に応えるという名目で、単金を大きく引き下げてでも受注しようというサバイバル合戦が始まったのです。

 また、お客さまも、今までのように「従来からの付き合い」だけで、特定の事業者に業務を委託することは、もはや許されない状況となりました。経営の方針として、大幅なコスト削減が求められる情報システム部門にとって、乾いたぞうきんを縛ることを求められました。また、経営の意思として競合/相見積もりは必須となったところも少なくありません。その結果、見かけ上の案件や引き合いは増えても、成約になかなか結び付かないといった事態を招いてしまいました。

 この競合に勝ち残れないSI事業者は、大手SI事業者に買収されるか、倒産を余儀なくされてしまったのです。大手SI事業者による中小SI事業者の買収は、グループ内製を推し進めることとなり、独立系SI事業者に仕事が回りにくいといった新たな構造も作り上げてしまったのです。

 加えて、とりわけ大きな課題は、お客様が、「この金額でもなんとかできるではないか」と思い始めていることです。つまり、中小SI事業者は、仕事の確保を優先するために、お客さまからの値引き要求に応えざるを得なかったわけですが、業務内容の実態は、大きく変わるものではなかったのです。そのため、「安い単金でも同じ仕事ができるではないか」という新たな常識(ニューノーマル)をお客様の意識に植え付けてしまったのです。これが、第一の波です。

 この第一の波は、新規開発が中止または白紙となるなかで、まずは開発業務に顕著な影響を与えました。そして、すぐには業務内容を変えることができない運用や保守などのストック・ビジネスにも、順次影響を与え始めました。

 今、リーマンショックが、ひとつの区切りを迎える中、景気指標が改善し、大手金融機関など、一部業種においては、新規開発需要が盛り返しつつあります。また、大手銀行などでは、このリーマンショックをきっかけとして、より低コストかつ、変化への柔軟性を模索した体質強化のためのシステム再構築プロジェクトも立ち上がりつつあります。しかし、その恩恵が、なかなか、中堅、中小のSI事業者に波及してこないというのが現状でする。
 
 その理由は、大手SI事業者によるグループ内製の優先、ニューノーマル意識の定着による受注金額の頭打ち、そして、第三の選択肢であるクラウドやオフショアとの競合です。これが、第二の波です。

 つまり、エンドユーザーのITシステム需要は回復しても、それが、リーマンショック以前のように、中堅、中小のSI事業者の需要に、直接つながらないのです。
 
 リーマンショック以前の産業構造、すなわち、大手が元請/中小が下請けで成り立っていたSI産業構造は、もはや崩れ始めているのです。これは、派遣型、あるいは、業務委託型を主要な事業の柱としているSI事業者にとっては、大きな影響を与えることになります。
 
 また、お客様は、システム規模を大きくするための投資に積極的ではありません。いかに低コストで、かつ柔軟に運用できるかに関心が高いわけで、中長期的に見れば、IT投資抑制に向けた取り組みを始めようという訳です。

 お客様の仕事が好調なときは、お客さまもシステム事業者に何を求めるべきかが、明らかでした。例えば、サーバー、開発要員の工数やスキル、運用・保守作業など、拡大する業務に対応するための「体力強化」のためのリソースを求めていたのです。

 しかし、第二の変化がもたらしたものは、これとは質的に異なるものです。いかに低コストで、効率よく、柔軟に世の中の変化に対応できるかという「体質強化」のためのシステムです。需要の拡大も、単にリソースを増やすという単純志向での解決策は、許されないのです。
 
 従来からの「こうすれば受注できる」という営業活動の常識が、もはや成り立たたなくなったのです。

 つまり、景気回復に伴う需要の増大に対処する手段は、従来のようにオンプレミス型のリソース、例えば、サーバーや国内の開発、運用の要員を増やすことだけではなく、「クラウドという仕組み」や「国境を越えた事業者」という選択肢をも前提に考えなくてはならなくなったのです。その結果、選択肢は多様化し、複雑さを増しています。
 
 どの組み合わせが、自分たちにとって、最もふさわしい手段の組み合わせ=ソリューションなのか、それ自体に絶対の正解を見出しにくい状況となり始めているのです。

 言い換えれば、お客さまもSI事業者もともに、何が最適解なのかがわからず、両者が一緒になって、その最適解を考え、創造してゆくといった取り組みが、求められる時代を迎えたのです。

 私たちは、この新たな常識を真摯に受け止める必要があります。

 この事態に立ち向かうためには、営業という仕事についての従来から常識も見直す必要があります。
 
 いままでの営業は、お客様とのコミュニケーション能力や信頼関係を構築、維持することが強く求められてきました。また、お客様のリソース調達の要求に適正なコストで迅速に答えることが求められてきたのです。それをできることが優秀であり、業績にも貢献していたのです。
 
 しかし、第二の変化は、この営業の常識を変えようとしています。クラウド、オフショアを含む多様な選択肢の中から、お客様の課題解決に最適な組み合わせを創造する。そのプロデューサーとしての役割といえるでしょう。
  
 決して、お客様との信頼関係や人間関係は不要という訳ではありません。ただ、それだけに頼っていると、仕事は手に入らない。そんな状況が生まれてきているのです。
 
 ますます競合が厳しくなる中で、競合他社を超える魅力的な組み合わせ=ソリューションを創造する。それは、営業一個人の力量では、限界があります。
 
 営業は、会社の力、組織の力、あるいは、社外のサービスや商材をお客様の課題解決のために結集する。その全体図を描き、戦略を立て、リソースの組み合わせを設計する。今求められる営業には、そんなクリエーターとしての能力が求められているのです。
 
 そのためには、営業力を営業職の能力とらえるのではなく、会社や組織の仕組みととらえ、エンジニアもサポートスタップが、ともに営業活動を理解し、その役割を担う必要があるのです。
 
 第二の波は、確実にSIの産業構造を変えてゆくことになるでしょう。それに対処するために「営業職を増やし、その能力を育成する」というだけでは、対処しきれません。営業力を営業職の力ではなく、会社の力ととらえなおし、その力を高めてゆく、そんな根本的な構造改革が、求められる時代が、到来しているのです。 

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※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

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