間違っていますよ。そんなことで営業力の強化はできません。

斎藤昌義(さいとう まさのり) 2010-12-04 10:28:13

 「営業力を強化したいんです。提案書の作成や交渉の進め方など、研修して頂けないでしょうか。」 

 このようなご相談を頂くことがある。そのような方には、次のような意地悪な質問をすることにしている。 

 「喜んで、お引き受けしたいところですが、ところで、提案書がうまく書けることや交渉の術に長けていることで、売り上げが伸びると本当にお考えでしょうか?」

  時々、こんな勘違いをしている人がいる。営業力とは、プレゼンテーションやドキュメンテーション、コミュニケーションなどのスキル(技能)であると。冷静に考えれば、このような能力は、営業力の本質ではない。どんなに、美しい提案書を書き、魅力的な説明ができたとしても、それでお客様は、システム購入の意思決定をしてくれることはない。

  露天でものを売る商売であれば、このようなスキルが、お客様の財布のひもを緩めてくれるだろう。しかし、何百万円、何千万円、あるいは、億の単位になるようなものを、このようなスキルで売ることなどできるはずがない。たとえ目の前にいる相手をその気にできたとしても、B2Bビジネスでは、かならず稟議があり、決定権限者の承認を必要とする。このような過程を考えれば、このスキルが、本質ではないことに気づかれるだろう。 

 では、なにがB2Bビジネスにおける営業力の本質かと云えば、「営業活動プロセス」を遂行する能力である。

  営業活動は、お客様を開拓し、課題を探り、案件を明確にし、解決策を描き、意志決定プロセスを攻略し、受注を果たし、デリバリーを成功させ、お客様に満足を与え、感謝と共に代金を頂く一連のプロセスである。

  このプロセスを通して、営業はお客様の期待を知り、お客様の価値を高める手段を考える。そして、お客様の価値を高めた対価として、その一部を頂く仕事である。お客様は、決して、モノがほしいわけでもなければ、あなたの会社と仕事がしたいわけではない。自分の課題が解決されることであり、期待が満たされることを求め、その成果に対して対価を払うわけである。

  モノやサービスといった商品は、この成果を得るための手段であり、お金を頂くための方便に過ぎない。

  「我が社のソリューションは・・・」と自信たっぷりにプレゼンテーションし、美しい資料で機能や性能を説明してくれる営業がいる。なるほど、彼のスキルはたいしたものだと思うが、だからといって買おうとは思わない。よくよく聞いてみると、彼の言うソリューションとは、何もこちらの課題を解決することを目的とはしていないようだ。「自分の営業目標を達成するという課題」を解決するためのソリューションである。つまり、自分の売りたい商材つまりプロダクトをソリューションと言う言葉に置換えているに過ぎない。きっと彼は、「我が社のソリューション」を売ることはできないだろう。 

 展示会で、すてきな女性が、商品についてすばらしいプレゼンテーションをしてくれた。とても魅力的である。ぜひもう少し詳しく話を聞きたい、相談に乗ってもらいたいと思う。だからといって、そのプレゼンテーションをしてくれた女性がこの期待に応えてくれるだろうか。プレゼンテーションのスキルはあるが、モノを売る能力が、彼女にあるとは限らない。

  お客様の課題とは何かを考える。お客様の経営環境、競合他社の動向、システムの運営や構築に関わるお客様の「困った」・・・そんなところにお客様の課題はある。その課題にお客様自身が気づいていないことあるだろう。

  お客様に課題に気づかせ、それを具体的なイメージとして整理し、解決したいという意欲を引き出さなくてはならない。これが、「課題を発掘する」と言うことである。営業である自分が、「お客様の課題に気づく」ことが、課題を発掘することではない。なぜなら、お客様が解決したいと思わない限り、検討さえもしてくれない。

 あなたの提案書やプレゼンテーションがどんなにすばらしいものであったとしても、「是非社内で検討させていだきます。後日連絡させていたきますね。」と言われ、やった!と握り拳を心に描いても、お客様からの連絡は、一週間たっても、二週間たってもくることはないだろう。

  たとえ、担当者がその気になってくれたとしても、意志決定をするのは、その上司であり、経営者である。彼らの関心や期待は、担当者のそれとは異なっている。

  もしかしたら、競合他社が、既に決定権限者にアプローチしているかもしれない。CFOが、「もう少し安くできないのか」と稟議起案者に要求するかもしれない。

  営業活動は、実に様々なプロセスによって組み立てられている。このプロセスをスパゲティ・ナポリタンのごとく、ごちゃまぜにして考えていては、優先順位もつけられないし、改善策を見いだすことも容易なことではないだろう。

  営業活動をひとつひとつのプロセスに分解し、整理して理解していること。そのプロセスの中で、自分は何ができていて、何を改善すべきかを知ること。そのひとつひとつを確実にこなすための術を身につけること。このような能力こそ、営業力の本質ではないかと考えている。

  もちろんプレゼンテーションやコミュニケーションといったスキルも、このようなプロセスを効率よくこなすためには、是非とも身につけたい能力である。また、クラウドや仮想化が、SOAやAjaxとどういう関係にあるのかと言った、体系的、構造的な知識も、お客様の話を理解し、整理し、戦略を立てる上では、大切な能力である。また、何よりも人に好かれ、向上心を持ち、積極的な気持ちを絶やさない人間力が無くては、お客様との良好な人間関係を築くことはできないだろう。

  言うなれば、営業力は、プロセス、スキル、知識とそれを支える人間力の総合力である。

  ただ、スキルや知識、人間力は、なにも営業だけに必要なことではない。ITビジネスに関わるプロフェッショナルとして、共通な能力である。従って、営業力の本質は何かと問われれば、このプロセスが、大きな位置を占めることになるだろう。

  「営業力を強化したいんです。提案書の作成や交渉の進め方など、研修して頂けないでしょうか。」という考えが、決して間違っているわけではない。しかし、営業力は、そのようなことだけでは強化することはできない。

  営業力を強化したいのなら、「営業活動プロセス」を整理し、その遂行能力を高めることである。そんな観点から、営業力強化の取り組みを考えてみるべきではないだろうか。 

 

※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

6件のコメント
  • 斎藤昌義

    まさやん

    コメントありがとうございます。ご指摘の通りお客様を成功させたいという熱意無くして、営業活動はあり得ません。お客様を感動させることは、営業活動の基本です。

    ただ、法人ビジネスでは、お客様を感動させるだけでは、仕事になりません。お客様の中には、様々な価値観を持つ方がいらっしゃいます。お客様の置かれている状況もその時々によって、変わります。

    従って、熱意で個人としてのお客様を感動させることができても、組織の力関係やビジネス合理性に基づく解決策を提示しなければ、組織としての合意を引き出すことはできません。

    けっして熱意を否定するモノではありません。ただ、熱意だけでは、法人営業はできません。このふたつのなくして、営業力にはならないとおもうのです。

    2010年12月09日

  • まさやん

    もっともらしい意見だと思いました。
    が、理論だけでは通用しないと思います。


    個人的には、難しいプロセスより、どんな教科書よりもお客様に喜んでいただきたいという熱意から動くもの、そこに触れたときに人は感動するのではないかと思いました。

    2010年12月09日

  • 斎藤昌義

    みなさん、コメントありがとうございます。

    私事で恐縮ですが、学生の頃(・・・大昔の話です(笑))、教育学部だったのですが、あるご高名な教育評論家の講演を聴く機会がありました。その方は、小学校長の現場でのご体験を踏まえ教育のあるべき論を語られたと記憶しています。そのとき、血気盛んだった私は、つぎのような質問をしました。

    「そんな理想論など、教育の現場では役に立たないんじゃありませんか?」

    この質問に、その方は、真摯に、そして自信を持って、次のように応えられました。

    「教育者に理想無くして、何を目標に子供達を育てれば良いんですか?」

    この言葉を聞いて、とても恥ずかしく、とても無知な自分を思い知らされたことを、今でもはっきりと記憶しています

    ご指摘の通り、研修だけで、営業力強化などできないと思っています。しかし、研修を通じて、ひとはあるべき姿に気付き、、日常の業務の中で、触媒となって反応し、その思いが蓄積してゆく。いつか機会を与えられたとき、それが力となってくれるのではないかと思っています。

    人は教えると学びません。やれと言われてやらないのが人間です。だからこそ、研修は、人の考えや行動を変えさせることではなく、自分を内省し、自分自身が気付き、自ら変えたいという意欲を引き出すことであろうと思うのです。

    だから、仕事というモノを因数分解し、自分に当てはめて考える。それが、気付きを促すのではないかと思っています。

    講師の役割はそこまででです。あとは、自分で行動を起こすしかない。

    そんな講師を必要とせずとも行動できる人がいます。そういう人は、研修など不要だとおもいます。

    2010年12月06日

  • きちすけ

    そうは言うが、本質を学べと言うはやさし・・・やるのは難しです。
    たいていの人は具体的なものと表面的なことを学び、じわじわと本質を理解していきます。
    「理解」は知るという工程から、3年くらいかかるということを聞いたことがあります。

    たとえば、今になっても、「数学」って何に役立つのだろうと言っている人もたくさんいますが、
    本当に、「本質」が理解できていれば、「数学」というものを知っているということを通じて、
    いろいろなことが分かるはずです。
    たとえば、ビートたけしが「映画」はのストーリーでも因数分解が必要といったように、
    映画の製作まで論理的なことは助けます。池上さんのニュースでも同じようなことを言っていました。
    でも、因数分解を理解していれば、話の構成も効率よくできるようになるかといえばそうではありません。

    基本がわかれば、「微分」も「積分」も学ばなくても、本質から理解できるという人もいます。が、
    たいていは直接関係がないと思われるようなことや、関連する知識をいっぱい詰め込み、
    そして経験することで理解するのではないでしょうか?

    「本質」のことをちょっと教えれば、水を得たように理解が進む人には研修なんていう訓練はいらないと思います。
    そういう人には、むしろ、周りが成長を阻害しないようにただ見守るだけでいいのだと思います。
    そして、試練を与えてあげればいいだけです。すべて実践からどんどん学んでいくように思います。

    なので、「研修」を望んでいる人たちは、
    「提案書の作成や交渉の進め方」
    を通じて、本質がわかると、どう「提案書作成」まで変化がでてくるのかがしりたいのではないでしょうか?
    また、それを理解すると、ひとつひとつの行動や結果がどう変わるのがしりたいのではないでしょうか?

    そして、それが理解できるための「ヒント」が貰えるための機会必要だといっているのではないでしょうか?

    >その課題にお客様自身が気づいていないことあるだろう.

    というのと同様に、
    >「営業力を強化したいんです。提案書の作成や交渉の進め方など、研修して頂けないでしょうか。」

    私は「研修」というものはそういうものがいつも足りないなーと思っています。
    いつも具体的なものも、本質的なものも直接的に伝えるだけで、
    逆に本質的なものは伝えずに、気付かせるように教えるような研修ってないのかなと思ってしまいます。

    じゃないと研修は単に自ら本を読まない人のための「朗読会」と同じになってしまうのではないでしょうか?

    2010年12月05日

  • ゆわだけり

    全く同感です。もう一つ加えるならば、モノ・サービスの質を高める為のセンサー的な役割を遂行すること。これでトータルな営業力強化となるでしょう。

    2010年12月05日

  • 弱足腰

    すべての人に好かれる人は少ないので営業の規模も大きくなりそうですね。

    2010年12月04日

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]