営業力を「売る力」と考えることの大間違い

斎藤昌義(さいとう まさのり) 2011-01-15 09:58:02

 「営業力とは“売る力”である」。そう考えるのが一般的だろう。だから、営業力の育成は、商品やサービスの良さを訴求し、抵抗するお客さまを説得するための会話力やドキュメンテーション力、商品や技術についての知識を身につけさせることだと考えている人も少なからずいるようだ。しかし、本当に、そのような取り組みが、「営業力=売る力」の強化につながるのだろうか。 

 例えば、展示会のことを考えてみてほしい。すてきな女性が、プロジェクターに映し出されたきれいなチャートを前に、通る声で、整然と説明している。見事なプレゼンテーション力である。では、彼女が、その商品を売ることができるだろうか。

 IT知識に長けたエンジニアがいる。かれは、お客さまの質問に、何でも、即座に、理路整然と応えることができる。では、彼が、案件を獲得できるだろうか。

  このようなスキルや知識が、営業力のひとつの要素であることに異論はないが、どうも本質ではないような気がする。

  「営業力とは“売る力”である」と考えると、どうしてもこちらから、伝える、理解させる、説得するという、プッシュする力と考えてしまう。しかし、こちらが、どんなにすばらしいプレゼンテーションで製品の魅力をプッシュしても、買う側にその気がなければ、「ありがとうございました。良いお話を聞かせていただきました。関係者と相談の上、後日、連絡を差し上げます。」と感謝の言葉を最後に、貴方に連絡が来ることはないだろう。プッシュの力だけでは、不十分であることが分かる。

  そこで、こう考えてみてはどうだろう。「営業力とは、お客さまのほしいを引き出す力」であると。

  お客さまが、自分の「ほしい」に気付いていないことは、よくある話。そこで、貴方がお客さまになり代わり、お客さまの業務やシステムの現状や課題について、一覧表にまとめてあげてはどうだろう。「今担当させていだいているシステムについて、現状を整理してみたんですが、どうでしょうか。」と。きっとお客さまは、大いに助かるだろうし、いろいろな気付きや課題を引き出せるだろう。

 お客さまといえども、自分たちのシステムの現状について、必ずしも網羅的に整理整頓できているとは限らない。日々の業務に追われ、そのようなことに手が回らない場合も多い。ならば、そんなお客さまに成り代わって、資料をまとめてあげるだけで、お客さまは、大いに感謝し、自分たちの課題にも気付くのではないだろうか。結果として、お客さまのしてほしいことが理解できる。

  法律や制度の改正は、頻繁に起きる話である。それを「こう変わります」と紹介するのではなく、「御社の仕事やシステムにこのような変更が必要になります」とお伝えしてはどうだろう。「そうか!」ということになるだろう。

  「我が社の商品は、こんな機能や性能があります。他社に比べて、こんなに優れています。」というのではなく、「こんなことでお困りではありませんか?ならば、こうされたらどうでしょう?」とお客さまの「困っているだろうなぁ」と「こういう風に解決できますよ」を一覧表にして、紹介してはどうだろうか。きっと、身を乗り出して聞いてくれるだろう。

  お客さまが、「そうなんですよ。これをやりたいんですよ」に気付いてくれる。そうすれば、お客さまは、「是非、御願いします。」となる。

  「営業力とは、お客さまに売ってくださいと言わせる力」。そんなプルの力を育てることが、営業力育成の本質であろうと思う。

  このようなプルの力は、何よりも、お客さまを深く理解することが基本である。このお客さまの事業内容や業績、業界における位置づけや強みと弱み、組織と役割、ビジョンと戦略・・・きりがない。しかし、だからこそ、興味がつきないとも言える。知ろうとすればするほど、お客さまに入り込んで、質問し、話を聞かなければならないし、業界や競合についてのこと、製品やサービス、お客さまを取り巻く環境についても勉強しなければならない。そんな、相手への尽きぬ好奇心が、プルの力の源泉であろう。

  「お客さまをもっと知りたい」という好奇心は、お客さまへの愛情であると思う。お客さまになんとしてでも成功させたいという思いであろう。

  「余計なお世話」と言われるかもしれないが、愛情などというものは、「余計なお世話」や「お節介」から始まるの常ではないのか。相手が、こちを好きと思ってくれているかどうか、分からなくてやきもきしても始まらな。とにかく、彼女が喜んでくれそうなことを一生懸命考えて、プレゼントを用意して、何とか伝えようとする。受け入れてくれるかどうかは、やってみなければ分からない。しかし、好きなものは、好きである。まあ、引き時も大切であるが、とにかくやってみなければ、失敗も成功もないわけで、彼女について、一生懸命に考え、工夫して、役にたとう、気に入ってもらおうと最善をつくす。結果は、彼女次第ということではあるが、それは仕方がない。

  営業活動とは、そんな取り組みであると思っている。最善を尽くして、お客さまの役に立ち、気に入られようとすること。そして、このひとなら、パートナーとして、安心して付合えると納得していただくための取り組みでもある。

  こちらがしてほしいことを、してもらおうという取り組みではなく、相手がしてほしいことを考え、用意し、提供する。そのような、行動が、お客さまの「売ってください」を引き出すことになる。

  数字に追われる営業にとって、たやすいことではないだろう。しかし、この営業の原点こそ、お客さまにとっての営業のレゾンデートル(存在価値)であり、営業という仕事のやりがいであろう。

※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

7件のコメント
  • 斎藤昌義

    まさぼう さん
    ご意見ありがとうございます。

    >「営業力とは、お客さまに売ってくださいと言わせる力」
    > それには、大賛成です。

    > ところが、本当に、営業の方達はそれを答えにしてしまってよいのでしょうか?

    お客さまの「ほしいを引き出す」ことができたら、後は自分で探すからいいよと言われないかとのご指摘ですが、
    これについては、そういうこともあるでしょうが、大半は、そうはならないと思います。

    結局、営業活動というのは、このようにしてお客さまのお役に立つことで、お客さまに信頼される。だからこそ
    御願いしますとなるわけで、何もしなければ、ビジネスチャンスは生まれてこないように思います。

    大切なことは、何をお客さまが必要としているのかを、お客さまと一緒になって整理してあげること。
    それができる人をお客さまは、決して手放すことはないと私は信じています。

    jまた、製品を開発する部門やマーケティングの役割は、すばらしい製品を作り、それを広くお客間に訴求して、
    営業つまり「セールス」の活動を介さずとも売れるようにすることが、究極の目的です。
    従って、この視点は、当然であろうと思います。

    しかし、この究極というのは、なかなか難しいもので、やっぱり営業は必要だと思っています。

    2011年01月18日

  • まさぼう

    >「営業力とは、お客さまに売ってくださいと言わせる力」
    それには、大賛成です。

    ところが、本当に、営業の方達はそれを答えにしてしまってよいのでしょうか?
    実は、これを答えにしてしまうと、多くの営業の仕事がなくなってしまわないでしょうか?

    世の中では、比較サービスや見積もりサービスが横行しています。
    また、ホームページから直接電話してくる顧客もいます。
    これらからくる顧客はその顧客なりの「ほしい」をすでに伝えてしまっています。

    ここから、スタートするとなると、
    >IT知識に長けたエンジニアがいる。かれは、お客さまの質問に、何でも、即座に、理路整然と応えることができる。
    >では、彼が、案件を獲得できるだろうか。
    では、「できる」という答えが導かれてしまいます。

    Saas(ASP)や、パッケージ製品、ハードウェアなど「商品」として存在するものは、
    「ほしい」を表現した顧客を対象に相手にしていています。
    では、すでに「ほしい」を表現した顧客に対してもっといい提案するための安易な方法は、
    「機能」と「価格」、です。
    アフターフォローというのもありますが、これがまさに
    「IT知識に長けたエンジニア」が得意とする、営業スタイルです。

    となれば。「価格」で競争するためには、「営業」というフェーズがいらないという選択肢もあります。
    (つまり、ほしいと導くためのフェーズです。)

    このフェーズには非常に手間と労力、そして、スキルも求められますので、
    このフェーズをまったく持たないことで、大きな価格ダウンをすることができます。

    私はこのスタイルによってある程度の感触を得ています。
    ですが、本当に、営業は「聞き手」なのでしょうか?

    そこに疑問があり、その疑問が解けないうちは、

    「営業力とは、お客さまに売ってくださいと言わせる力」
    つまり、すでに売ってくださいといっている顧客を相手にする場合、
    「営業力」がいらない。

    という答え以外見つからなくなってしまっています。

    2011年01月17日

  • 斎藤昌義

    god_in_the_sunさん 
    コメントありがとうございます。「子育て」とはユニークな視点ですね。お客さまを子供と見るのは、ちょっと不遜(笑)かもしれませんが、親というか、プロであるという自覚は、持ちたいものです。
    確かに、子供を愛し、慈しむからこそ、子供の先回りをして、その行き先を示してあげる。そんな親の想いがあるからこそ、子供もまた信頼をおいてくれるのでしょう。お客さまとの関係の中にも、このような想いを持つべきかもしれませんね。きっと、お客さまとの信頼を深めてゆくことにもなるように思います。

    2011年01月17日

  • god_in_the_sun

    聖書の中で、”相手がしてほしいことを、してあげる。”とかの話があります。
    子育てもそうですが、子供の様子を観察して、先回りして、お世話をする・・。
    特に、赤ん坊は、自分からは、何も話してはくれません。
    そう考えれば、子育てに近いことかもしれません。

    2011年01月17日

  • 管理職

    だいぶ営業の実態を誤解してますね。総合ベンダーは、10年以上も前から、書かれているとおり、顧客ニーズの引き出しに腐心しています。ちなみに、製品ベンダーはニーズに関わらず自社の商品を売らないといけない (たとえば、不動産営業が、自動車が欲しいというニーズを引きだしても意味がない。不動産を売れるように説得&誘導しないといけない。会社に自動車売るように提案しなさいって言ったら、笑っちゃいますよ)。
    ついでに言えば、顧客サイドは、様々なテーマを抱えていて、悩んでいるんで、悩みを引きだすだけではダメで、悩みリストの最優先順位のところに、自社が得意とし利益率の高い商品を持ってきてもらえるように説得しなければいけないのです。
    机上の理論だけじゃなくて、少し、現場をみたほうがいいですよ。

    2011年01月16日

  • Nick Name

    「究極の営業力」の回と云わんとしている事は同じではないのでしょうか?
    また、’御用聞き営業に徹せよ!’という回もありましたが、今回の文中の「営業力とは、お客さまに売ってくださいと言わせる力」とはどのような位置関係に考えれば良いのでしょうか?対局ですか?本質は同じですか?新たな考え方ですか?
    ”法律や制度の改正は、頻繁に起きる話である。それを「こう変わります」と紹介するのではなく、「御社の仕事やシステムにこのような変更が必要になります」とお伝えしてはどうだろう。”お客様からのご依頼を頂かずに法律解釈をする事は弁護士法などにてらした場合問題ありませんか?
    以前は、コメントへのコメントを積極的に投稿されていましたが、最近はお忙しいのでしょうか?

    2011年01月16日

  • eneus

    >営業力とは“売る力”である
    >営業力とは、お客さまのほしいを引き出す力
    「売る力」 に 「ほしいを引き出すこと」 も含まれているので、言葉遊びの記事に感じます。
    それぞれの言葉の定義はなんですか?

    2011年01月15日

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