「汚い提案書」を平然と提出できる残念な人たち

斎藤昌義(さいとう まさのり) 2011-02-06 09:16:31

 ある自治体の新庁舎建設に関連し、LANシステムの提案コンペがあり、私は、その審査のお手伝いをさせていだくことになりました。
 
 各社、それぞれに自信作を出してくるものと期待したのですが、「なんだ、これは?」と思うものも少なからず混じっていたのです。中には、システム構成図と見積書に表紙をつけただけというものもありました。「貴方の強みはなんですか?どこが他社と違うのですか?貴方の会社を選ぶ理由はどこにあるのですか?」そんなメッセージは、どこにも見当たりません。
 
 そして、意外と多かったのが、「汚い提案書」です。文字のサイズやフォントの不統一。ぐちゃぐちゃと描かれたシステム構成図。ページ毎に異なるレイアウトや相手の思考過程を無視した資料の順序。せっかく、まともそう(?ボリュームだけは・・・)な内容なのに、相手にわかりやすく伝えようという配慮をまったく欠いています。いろいろと資料を作ったので、もったいないとでも思ったのでしょうか、とにかく、ありとあらゆる資料を詰め込んだというようなものもありました。
 
 公共施設のコンペですから、内容をしっかりと理解し、評価しなければならないとは分かっているのですが、これはもう実にストレス以外の何者でもありません。
 
 結局、最後に残った3社で、最終選考となりました。さすがに、ここまでくると、内容的には各社甲乙つけ難しです。システム構成や金額、構築の手順も大差はありません。結局最後に判断の基準としたのは、提案書そのものの「美しさ」でした。こんなことを書くと、「それは違うだろう。中身じゃないの?」とおっしゃる方もいらっしゃるでしょうが、だから「美しさ」なのです。
 
 「美しさ」とは、決して装飾やイラストなどの技巧ではありません。もっと本質的なものなのです。
 
 「美しさ」というものは、「綺麗」であることだけでは、成り立ちません。「存在感」がなくては、人は美しいとは感じないものです。つまり、中身に魅力がないものは、美しくないのです。もう一つ大切な要素は、相手への気遣いです。どうやったら、相手にストレスを与えず、伝えたい本質を即座に分かってもらえるだろうか。そんなことを追求してゆくと、結果として美しくなってしまうのです。
 
 「美しさ」とは、内容の存在感と相手への気遣いを追求した結果です。そういうことを追求できる提案者は、きっといい仕事をしてくれるだろうと思うのは、そんなに間違ったことではないと思っています。

 会社の力量とは、決して技術力だけではありません。ビジネスは、常に相手があって初めて成り立つわけで、意思疎通を図る力も、大切な能力です。それができない相手と仕事をしても、うまく仕事が進むとは思えません。
 
 まだ整理はついていない、しかし、とにかく、今の気持や状況を伝えたい。そんな相手の話に耳を傾け、これをバラバラに要素分解して、改めて考えてみる。そこにどんなつながりがあり、何が重要で、何が枝葉末節なのかと。そして、その要素を再び自分なりの解釈で組み立て直す。このような論理的思考力が、まずは必要です。
 
 しかし、これだけでは不十分です。そうやって組み立て直した思考の産物を、相手にわかりやすく伝える工夫をしなければなりません。どんなに自分が分かったつもりになっていても、相手に分からせる力がなければ、円滑な意思疎通を図ることはできません。
 
 ある写真のノウハウ本にこんな一節がありました。
 
 「はじめのうちは、前から後ろまで全部きれいに写っている写真がいいだろうと思ってしまいます(このような写真は)ピンボケにならない代わりに −中略− ごちゃごちゃしてしまうのです。見る人がどこを見ていいのか分かりません。「ピントを合わせる」という言葉がありますが、ピントをあわせるところがまさに見てほしいところなのです。写真を見たとき、誰もがピントが合っているところに目を向けます。だからそれだけにピントが合っていて、他のところが全部ぼけていれば、そこがすごく強調されます。(「デジタル一眼上達の極意・米本昌英 著/P19-20」)」
 
 「表現とは、捨てることである」という先達の言葉にもあるとおり、相手の言ったことの本質や核心をうまく際立たせなければ、伝えたいことも伝えられません。「ところで、要点はなんなの?」と聞き返されるだけの話です。これでは、ビジネスの効率は上がりません。
 
 本質、あるいは、骨格というものだけを残し、あとはぼかす、あるいは捨て去ってしまってこそ、伝えたいところだけを浮き彫りにすることができます。それができれば、相手はストレスを感じることなくスッと理解できるのです。
 
 ものごとを分析的にとらえ、要素分解したものを論理的に再構成する。そんなものごとの考え方を「ロジカル・シンキング(Logical Thinking)」ということは、既にご存じの方も多いと思います。ロジックツリーやフレームワークは、そんな思考のための道具です。
 
 しかし、これだけでは不十分です。たとえ物事を整然と整理できても、ではいったい、どれが核心であり、自分は何を伝えたいのかをはっきりさせる必要があります。つまり、論理的に整理したものの中から、核心となるものを際立たせなければ、相手にうまく伝えることはできません。そこで、出番となるのが「美しさ」です。
 
 「美しさ」は相手を気持ちよくさせてくれます。そして、心に訴えかけ、ものごとを理解しようとする心の扉を開いてくれるのです。全部ではなく、伝えたい内容の骨格や本質にのみピントを合わせ、それのみを浮かび上がらせる。それは、論理的な思考だけでは無理なのです。ビジュアルにものごとを考え、表現する力が必要になります。
 
 ロジカル・シンキングで整理したもの。その構造を支えている骨格を、言葉による説明ではなく、今度は、視覚的表現を借りてレントゲン写真のように描き出す。周りを覆っている肉や皮膚そぎ落とし、伝えたいことの本質を浮かび上がらせる。そうやって描かれた絵や図表は、感性の力を助け、優しく、抵抗なく、もとの論理構造を相手の脳の中に送り届けてくれるのです。
 
 このようなものごとの考え方を普及させようと取り組んでいる友人がいます。その友人こと櫻田さんは、これを「ビジュアル・シンキング(Visual Thinking)」と名付け、その普及に命をかけています(笑)。是非、彼のサイトを見てあげてください。その追求は、半端じゃありません。
 
 私たちは、ビジネスの現場にあって、「ロジカル・シンキング」を求められています。しかし、このような左脳の働きだけではなく、論理を相手に優しく、わかりやすく伝える「ビジュアル・シンキング」もまた、大切なビジネスの道具になるのではないかと思うのです。これは、きっと右脳の力なのかもしれません。
 
 人は、相手の話を聞き、考え、整理し、表現し、伝える。コミュニケーションはこのプロセスの繰り返しです。なるほど、人間とは、やはりうまくできているんですね。こうやって、右脳と左脳が、支え合ってい、ひとつの役割を果たしているのかもしれません。
 
■おまけ■ 櫻田流とは、異なる流儀ですが、私なりのビジュアル・シンキングに挑戦してみました。タイトルは、「これ一枚で分かるBI(ビジネス・インテリジェンス)」。さて、いかがでしょうか?


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※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

4件のコメント
  • y

    Appleでいう「ユーザーエクスペリエンス」みたいなことでしょうか
    まあ、なんていうか
    スーツ族乙

    2011年02月08日

  • ShiBUさん
    コメントありがとうございます。よろしければ、是非、このブログのFacebookページへ参加されませんか。思いを共有できるかたが、いっぱいいらっしゃると思いますよ。
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    2011年02月07日

  • ShiBU

    まったくもって、そのとおりです。
    理解されるためには どうしたら良いか… と工夫することが大事なこと。
    結果、読みやすく、順序を考えることが必要になってくるものです。
    自分の周囲では こうした考え方をきちんと持っている人が少ないのですが、
    今までの自分のスタンスの正当性や重要性証明された気がして、うれしいです。

    2011年02月07日

  • bee

    単に力関係があなたサイドのほうが強いだけの話でしょう。
    需要と供給のバランスのみで説明できます。
    残った2社についてはむしろ感謝の意を示すべきだと思います。

    てか、こういうので1つの資料作るのに何度も何度も見直してる人いますが
    正直言って止めてもらいたいです。時間の無駄なので。
    そんなに不満なら校正などにかけてもらえばいいと思いますし、
    プレゼン関係でよりよく見せるため外注のサービスは現在ではかなり充実してます。

    上記コメントの反論で「住民の血税」というのがよくありますが、
    小さな問題にはエネルギーを過剰に注いでしまうのに
    大きな問題をほっとくほうが困るんですよね。

    2011年02月06日

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