羊飼いのシステムに翻弄される哀れな農耕民族

斎藤昌義(さいとう まさのり) 2011-03-06 01:00:00

 「営業効率の向上や現場力の強化を考えて、SFAを導入したのですが、いっこうに効果が上がりません。どうしたものでしょうか?」
 
 先日、あるソリューション・ベンダーの営業本部長が、そんな愚痴をこぼしていた。かなりの費用をかけ、いろいろと検討も重ねて導入したにもかかわらず、こんな結果となってしまったことに、本人も少なからず責任を感じているようだった。
 
 そんな彼に、失礼を承知で、私は次のようなことを申し上げた。
 
 「SFAは、本来、営業の効率化や現場力強化のための道具なんかじゃありませんよ。そもそも、その目的や前提が、間違っていたんじゃありませんか。」彼は、納得いかないという顔をして、「じゃあ、なんのためのSFAなんですか?」と質問を返してきた。
 
 「SFAとは、経営者や管理者が、営業の進捗状況や売上げの見通しを、タイムリーに把握するための道具です。言い換えれば、営業組織やその活動を管理統制するための道具であって、現場のための道具ではないと言うことです。」
 
 ソフトウェア・パッケージに限った話しではないが、製品には、必ずその製品を開発する前提となるビジネス・プロセスや思想、目的がある。当然、それを使う人たちの習慣や文化、ビジネス・スタイルに大きく依存している。その本質を理解しないままに、表面的な機能性能だけを見て、使える使えないの議論をしても、適切な答えを見いだすことはできない。
 
 例えば、ある業務の効率を上げるために、ソフトウェア・パッケージの選定するとしよう。○×△をつけて、使えそうな機能が、他社の製品に比べて多いからという理由で、そのシステムを導入する。しかし、その前提となるビジネスプロセスや思想が、その業務とかけ離れていたとすれば・・・
 最初はカスタマイズで何とかつじつまを合わせることができたとしても、そのパッケージは、その思想でどんどんとバージョン・アップや機能の強化を進める。一方、適用した業務もそれとは関係なく変わってゆき、両者の乖離は、ますます大きなものとなってゆく。仕方がないので、その都度カスタマイズで対応する。
 そのうち、カスタマイズも限界となり、結局、そのシステムは「塩漬け」となる。そして、「使えないシステム」の烙印が押され、導入の責任者は、その失敗の責めを負うことになる。

 欧米の経営者と従業員の関係は、羊飼いと羊の関係に似ている。彼らは、伝統的に、膨大な数の人的資産を効率よく統制し、自分たちの事業目的の達成に向けて、確実に動かす仕組を構築してきた。当然、経営者は、現場の末端に至るまで、迅速正確に情報を収集する術を必要としていた。SFAとは、そのための道具なのである。
 
 そこに働く営業も、日本的には、個人事業主に近い独立した専門職である。従って、雇用者に対して、自分の成果を迅速正確に報告しなければ、報酬(コミッション)を得ることができない。従って、両者の利害は、完全に一致している。営業は、当然のことではあるが、効率化や現場力強化の道具などとは、考えていないのである。
 
 また、欧米では、「横へのキャリアパス」が、受け入れられており、むしろ高く評価される傾向にある。この「横へのキャリアパス」とは、ある会社で経験を積みスキルを身につければ、他の会社へ転職して、さらに高い地位を手に入れることは当然であり、評価するという社会的コンセンサスである。
 従って、営業は、高い報酬と地位を得るために会社に尽くす一方で、その機会が満たされなくなれば、いつでも他の会社に移り、さらに高い地位と報酬を求める。これは、何も悪いことではないと考えている。一方、経営者もそのことは承知しているわけだから、きめ細かく徹底した管理統制を行ない、適正に業務を行なっていること、併せて、会社への不正や不利益が生じないように、組織の末端まで、監視しなくてはならない。

 SFAとは、本来そんな思想の元で開発されたものである。これは、SFAだけではない。ERPも同じ思想の上に成り立っている。
 
 一方、日本はどうか。日本の組織は、伝統的に家族主義的である。社長は親父さんであり、従業員は家族である。経営者は従業員を信じ、彼らは、その信頼に応えようとする。これは、地域でお互いに助け合い、田畑を耕さなければ、生きてゆくことのできない農耕的文化が、背景にあるのかもしれない。
 
 従業員が、経営者について不満を語ることがある。そして、経営者もまた従業員について不満を述べる。そんな光景を目にすることがあるが、よくよく話を聞いてみると、「このまではこの会社がダメになる、何とかしなければ」と言う不満であり、その目的は共通していることが多い。これは、コミュニケーションの問題であり、経営者と従業員の本質的な対立とは言えないように思う。むしろ、経営者も従業員も、「自分の会社という意識」を持ち、その上で考えているのである。これは、単なる報酬のみの主従関係ではない。
 
 また、日本では、「横へのキャリアパス」は、あまり快く思われない。昔ほどではないにしても、あまりよろしくないという空気が、未だ大勢を占めている。従って、日本の企業では、「縦へのキャリアパス」が重視される。つまり、同じ会社の中で、出世してゆくことが唯一のキャリアパスと考える風潮である。従業員は、会社を我が家と考え、会社のために貢献することを当然と考える。だから、失敗は許されない。何事も「ミニマム・スタート」でリスクを最小限に抑え、失敗を許さず、確実にキャリアを重ねて行くことを大切に考える。経営者は、そんな社員を信頼している。だから、現場が使えないというものを、経営者は、無理矢理使わせることができない。「現場の判断にまかせる」ことを大切にする。
 
 このような思想的背景にある日本の経営者も欧米の経営者と同様に組織の動きを迅速、的確把握したいのは、同じである。従って、SFAやERPを導入し、これに対処しようとする。しかし、欧米方式の製品をそのまま持ってゆくと、「こんなインターフェイスや機能じゃあ使えない現場の業務に合わない」と現場の反発に遭う。家族思いの経営者は、ならば現場に使えるようにと、現場の業務プロセスに対応させるべく、徹底したカスタマイズを許容する。
 
 先日、ある大手欧米系ERPベンダーの営業部長から聞いた話では、日本ではパッケージ導入に当たり、膨大なカスタマイズを要求されるのが一般的だが、欧米では、それがほとんどないという。これは、現場の主体性に大きく依存し現場を信頼する日本と、現場は、統制・管理の対象と考える欧米との文化・思想的な違いが、根底にあると考えるべきだろう。欧米では、管理統制の道具なので、経営者にとって都合がよい機能があれば十分である。従業員は、被雇用者であり、主従の関係は歴然としている。従って、いちいち現場にお伺を立てる必要はなく、宛てがい扶持を強制的に使わせるだけのことだ。現場もそれを当然のこととして受け入れている。
 
 これは優劣の問題ではない。質的な違いなのだ。この違いを理解せず、システムの選定を進めることは、結果として大きな失敗を招くことになる。
 
 冒頭の話しに戻るが、件の営業本部長は、「現場に使ってもらうためにユーザー・インターフェイスを徹底的にカスタマイズをしたのだが・・・」と話しをしていた。やはり、本質的なところを検討していなかったようだ。
 
 昨今、欧米の有名SFAを導入したがうまく活かされていないという話しに、リッチなユーザーインターフェイスやモバイルからの利用など、「使いやすさ」を売りにしてSFA製品を出している企業がある。しかし、これだけでは、問題の本質を解決することにはならない。
 
 むしろ、正直に「これは、現場に負担を強いるが、経営判断の迅速化や効率化のためには不可欠なものであり、会社としての体質を強化してゆくために、是非とも協力して欲しい」と現場に説明し、納得の上で使ってもらうべきなのである。
 
 現場をだまして・・・とまでは言わないが、現場に阿(おもね)るあまり、その本質を議論せず、膨大なカスタマイズで現場に合わせるものの、結局は役に立たない。しかし、導入した以上は、その責任もあり、無理にでも使わせようとする。そのために、「SFA活用委員会」のようなものを作り議論するも、前提が違うままにすすめても解決することはないだろう。なんと無駄なことだろうか。
 
 だからといって、現場の生産性や現場力の強化について、何もしなくていいと申し上げているわけではない。私が、申し上げたいのは、SFAやERPの導入と現場の生産性や現場力の強化は、別の次元で議論すべきではないかということである。もちろん、SFAやERPが、それに使えないわけではない。しかし、製品に依存するだけでは、解決することはできないだろう。
 
 また、このような製品を提案する営業も、製品の持つ思想的、文化的背景を考えもせず、ただ採用してもらいたいがために、この製品を導入すれば、現場力の強化や生産性が向上するなど、本来の目的ではない話しをし、その機能や性能の自慢話をするのは、やめてもらいたい。結果として、お客さまに大きな迷惑をかけることになる。率直に、目的や思想の話しをすべきである。
 
 たびたび申し上げているが、この議論は、日本と欧米のどちらが優れているかというものではない。私たちは、それぞれの文化や社会的コンセンサスの違いを冷静に理解し、うまく使いこなしてゆく必要がある。表面的な機能や性能で、判断するのではなく、その背景にあるビジネスの習慣や文化、思想の違いを学び、うまく活かしてゆくためには、どうすればいいのか。そのガイドをするのが、ITベンダーの責任ではないかと思う。
 
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