ITトレンドの変化に抵抗する残念なマネージメントのみなさんへ

斎藤昌義(さいとう まさのり) 2011-03-20 11:00:00

 このたびの震災は、お客様のITに関わる意志決定に、今後、様々な影響を与えることになるでしょう。
 
 先日、「デスクトップの仮想化」の事業推進をされている大手ITソリューション・ベンダーの方と話しをさせていただきました。いままでは、必要性を認めるもののコストが高くつくので逡巡されていたお客様も、コストを度外視してでも対応したいという意向を持たれるようになったそうです。
 
 また、前回のブログでも紹介しましたが、BCP(business continuity plan/事業継続計画 )への関心が高まる中、その視点からクラウドの採用を検討しようという動きも出てくるでしょう。
 
 さらに、この震災により、経済環境は大きく変化しています。例えば、急激な円高は、国内の生産や物流の拠点を海外に移す動きを加速するでしょう。また、ITリソースのグローバルな視点で再配置についても議論が活発になるでしょう。その結果、データセンターや開発拠点、あるいは、データのアーカイブのためののリソースを海外に求める動きも始まるものと考えられます。また、被害を受けた多くの企業は、投資の優先順位を変えることになるでしょう。
 
 震災だけではなく、IFRSへの対応、スマートフォンなどのクライアントの高機能化と多様化、HTML5などのweb標準の切り替えなど、かつてないほどに、変化を求めるドライブが、今、強くかかり始めているように思います。
 
 その一方で、多くの中堅中小のSI事業者が、この変化のトレンドに対応し切れていない、いや、対応をためらっているようにも見受けられます。
 
 ご存じの通り、ITサービス産業は、もはや成長市場ではなく、成熟市場へと移行しています。成熟市場の特徴は、市場規模の上限が限定されていることです。その一方で、プレーヤーも多く、受給コントロールの主導権は、お客様サイドにあります。
 
 結果として、従来型のスキルを前提とする受託開発業務では、単金は抑制され利益率の拡大は、期待できません。加えて、オフショアやクラウドの圧力が、この単金の上昇を抑える重石となっています。このような市場で案件を増やし、収益を拡大してゆくためには、もはやコモディティと化した人材力だけでは、競合優位を確保することはできません。
 
 「競合優位戦略」というと、「世の中にない新しいものを市場に提供すること」と、考えてしまいがちですが、決してそれだけではありません。むしろ、お客様が確実に求めているものであり、かつ、供給が不足している領域に、他社に先んじて参入することも、ひとつの戦略であり現実的なアプローチです。
 
 多くの大手ソリューション・ベンダーは、このようなITの最新動向を踏まえた事業戦略を積極的に展開しています。このような大手企業の下請けとして業務を行なっている多くの中堅中小のSI事業者にとって、このトレンドに追従できないということは、コモディティ化した技術スキルでしかサービスを提供できないということであり、結果として、単金競争に陥り、安い単金でしか受託できない状況となることは、避けられません。
 
 これまで、中堅中小のITベンダーの多くは、お客様との仕事を通してOJTとしてスキルを修得してきました。しかし、いまは多くの技術革新が、今まで自分たちが取り組んでいた業務の範囲外から、突然にやってきます。クラウドやOSSの普及、HTML5やモバイル対応への要請、サブスクリプションや従量課金などの収益形態変更への期待・・・これらを従来通り、OJTで学ぶことには、もはや限界があります。
 
 これまでの受託開発業で蓄積した「従来型スキルX誠実に働く人材」というストック(資産)をなんとか売りさばきたい。それが、多くのSI事業者の本音ではないでしょうか。そして、それを売るのが営業という従来型の常識にとらわれている企業は、これからの厳しい単金引き下げ競争と淘汰の嵐に立ち向かう覚悟をする必要があります。
 
 もし、このような状況を避け、今後とも収益を拡大してゆくためには、これからのお客様のニーズを先取りし、トレンドの変化がもたらす新たな需要に、積極的に対応してゆくべきではないかと思っています。
 
 このような話しをすると「うちにはそんな人材はいない」という嘆きが聞こえてきそうです。しかし、本当にそうでしょうか。このような嘆きの言葉を語られる方は、ベテラン、年配のマネージメントに多いようです。しかし、現場の若手は、お客様の現場でこの変化をひしひしと感じ取っています。また、新しい物好きの感性に秀でた人材は、どこにでも何人かは、いるものです。
 
 マネージメント諸氏に期待したいのは、そんなかれらを引き上げる度量です。もはやかつての自分の成功体験は、通用しないという自覚を持つことです。彼らを信じ、新しいIT技術戦略を策定するプロジェクトを立ち上げるというのはどうでしょうか。
 
 自分の基準に照らし合わせ、彼らを評価したところで、もはや世の中の基準が急激に変化している訳ですから、役に立たない、あるいは、あやまった判断をもたらすことになります。また、理解できない、自分の基準に合わないことを理由に、自分の考えややり方を押しつけることは、彼らの行動を萎縮させ、変化への対応の足を引っ張ることになります。
 
 マネージメントの役割は、彼らが誠実に、真剣に取り組める環境を提供することです。これは、マネージメントにしかできません。また、詳細はともかくとして、技術のトレンドつまり、世の中の常識を理解できる程度の勉強もしておくべきです。自分の無知を隠さんがために、その立場を利用して、今までの経験的常識を押しつけ、部下を押さえ込もうとすることだけは、是非やめていただきたいものです。
 
 変化の流れは、必ずしもカタストロフィカル(周期的な秩序だった現象の中から不意に発生する無秩序な現象)なものではありません。むしろ、ITの歴史を振り返るならば、これはひとつの必然と見ることができます。例えば、昨今話題のMVCモデル、データセンター集中型の運用(=クラウド・コンピューティング)、仮想化などは、1960年代のメインフレームの黎明期にも起こっているものです。
 
 昨今のテクノロジーの進化は、このような従来の考え方を一見違う形で表象しているだけのことです。
 
 つまり、ITトレンドをこの原点に立ち返って、捉え直してみる。そして、その本質を考えるならば、なにも目新しいものではありません。本質と表象を区別し、本質を見ることができれば、道を誤ることはありません。時代の表象である方法論としての技術トレンドは、若い人材にゆだねるべきなのです。
 
 これからの変化に求められるマネージメントの力量とは、そんなことかもしれません。
 
 少々、マネージメントのみなさんには、厳しことを申し上げました。しかし、だからこそ、こういう事態の変化に、時に無軌道になりがちな若手の人材を、うまく制御し、活かしてゆくことが、マネージャーのみなさんには、求められているのです。
 
 今回の震災を切っ掛けに、ITトレンドのベクトルは影響を受けることになるはずです。その変化の方向を読み取り、先んじて対応する。競合優位を確立するために、そんな取り組みが、必要なのではないかと考えています。

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