自分たちの製品については話せても、世の中の常識を語れない営業を信頼できますか?

斎藤昌義(さいとう まさのり) 2011-05-07 11:00:00

 「自分たちの製品については話せても、世の中の常識を知らない営業を信頼して、相談できると思いますか。」
 
 IBMに入社して、まだ数年の頃でしょうか、お客さまである某製造業のシステム部門長から、こんなことを言われました。この言葉は、未だに頭を離れません。
 
 当時IBMは、メインフレームからクライアント・サーバーへのダウンサイジングの流れの中で、厳しい競争に晒されていました。また、PCの普及により、エンド・ユーザー・コンピューティングなどの言葉が流行となり、お客さまの意志決定も情報システム部門だけではすまなくなっていました。
 
 それ以前は、「コンピューター=IBM」の時代でした。しかし、もはやそういう時代ではなくなりつつあったのです。当時、電気電子関連の製造業のお客さまを担当していたのですが、DEC、SUN、HPなど、それまでのIBMとはまったく毛色の違う製品が、お客さまに広く受け入れられ、ここに食い込むことは、容易なことではなかったのです。
 
 そんな頃だったと思います。私は、いつものようにIBMの製品が、如何に優れているかを、お客さまに自信を持って説明していました。機能や性能は他社に卓越していること、その技術力や開発、サポート体制が、どれほどすばらしいかを、お客さまに蕩々と語っていたときだったと思います。
 
 私は言葉に詰まりました。私は、自分の製品には自信がありましたが、なるほど、そう言われてみると、他社と何がどう違うのかを説明することができませんでした。また、世の中の大きな動きや全体の中での自分たちの位置づけを何も知らなかったのです。

 それが、お客さまの業務にどう関わり、どのような価値を生み出しているかも、感覚的には分かっていても、具体的な事実として理解していなかったのです。また、自社の限界や課題はどこにあるかもわかっていませんでした。
 
 当時は、インターネットもない時代です。勉強すると言ってもそんなことを効率的に学べる教科書もありません。結局は、図々しくも、お客さまの机の横にどかっと座り込み質問をしたり、現場を見せていただいたりしながら、仕事や他社製品について教えていだいたことを記憶しています。お客さまも、よくつきあってくれたなぁと思います(笑)。
 
 今思うと、お客さまには、迷惑な話だったと思います。しかし、まだその時代は、セキュリティも甘く、余裕もあったのだと思います。今なら、お客さまの執務室に入ることなど許されません。

 私が現役の時代は、まだまだ、IBMなど一部の企業がITのトレンドを握っていた時代ですから情報も限られ、それなりに整理されていました。インターネットなどという便利な道具もありませんから、情報の流通手段も限定されていました。ですから、お客さまにとっては、営業の説明やセミナーが貴重な情報源だったわけです。しかし、もはやそんな時代ではないのです。

 お客さまも自分たちも情報の量では、差がありません。むしろ現場を知っているお客さまの方が、ある意味、情報量は多いわけです。そういうお客さまと対等に話しをするためには、こちらもしっかりと、情報を持ち、知識として整理しておくことが必要です。そういうことができない営業から、お客さまは、話しを聞いてくれるでしょうか。
 
 情報は、氾濫しています。ですから、多くの営業は、言葉を知っています。しかし、その意味や関係、言葉の背後にある思想や歴史を理解できていないのです。

 例えば、クラウド・コンピューティングという言葉を知らない人はいないでしょうが、仮想化との違いをわかりやすく説明できるでしょうか。あるいは、AjaxとSOAとの関係を説明できるでしょうか。また、Google、Microsoft、Salesfoce.comの各社の戦略や立ち位置の違いを説明できるでしょうか。

 国際会計基準(IFRS)もよく聞く言葉です。では、お客さまの業務やシステムにどのような影響を与えることになるのでしょうか。そして、それは、いつからなんですか?

 BIが注目されています・・・というと、そうなんですよ・・・という人は多いのですが、そもそも、BIとはなんですか?あるいは、SAP、ORACLE、IBMが、BIで大きく勝負をかけてきているのですが、それはなぜですか?

 仮想化には、様々な種類があります。また、vmware、Citrix、Microsoft、ORACLEなど様々なプレーヤーがいるわけですが、彼らの戦略や機能の差異はどこになるのでしょうか?
 
 このようなことが分からないで、お客さまと会話をしても、お客さまの信頼など得られません。これが全てだと言うつもりはありませんが、営業力の大切な要素であることに間違えはないと思います。
  
 営業の育成や組織力強化の仕事に関わりながら、この現実に直面しています。この当たり前を営業が自信を持ってお客さまに語れないのです。それ以前に、お客さまの話しをこのような常識に当てはめて整理し、理解できないのです。

 営業の仕事の起点は、ここにあるわけですが、これがなかなかできないのです。営業自身も自信をなくすし、お客さまも、どうしたものかと困ってしまいます。
 
 常識を知らず、自分の製品やサービスしか語れない。そんな営業をお客様は、頼りにしないでしょう。これは、いつの時代も同じことです。
 
 もちろん、そんな人ばかりではありません。しかし、残念ながら、それができるひとは、限られています。そういう人は、自分の力で何とかしてきているわけで、組織的に、計画的に、育成されてきたわけではない場合が多いようです。
 
 経営者が、自助努力を促すこと、それは、いいことだと思います。しかし、同時に、その筋道を示し、切っ掛けを提供できなければ、成果は、本人任せであり、運を天にまかせるだけではないでしょうか。これでは、計画的な育成はかないません。

 営業にとっての常識とは、プログラミングができることでもなければ、システムの仕様書を書くことでもありません。世の中で語られる様々な言葉を体系的に整理し、その意味や関係を整理できることだろうと思います。

 営業の仕事とは、このような技術やビジネスの動きを正しく読み取り、お客様の課題を解決するための適切な筋道をガイドすることです。そのための常識が、必要なのだろうと思っています。

 そんな現場をお手伝いできないかと始めたのが、ITソリューション塾です。三年前に始めたこの取り組みに、大手、中小にかかわらず、営業もエンジニアも経営者も…様々な方にご参加いただきました。どなたも、本当に志の高い方ばかりです。だから、こちらも手が抜けません(笑)。

 まもなく、第7期が、始まります。さて、こんどは、どんな説明をすれば、わかりやすいだろうか。どんな資料を作れば、あっと言わせられるだろうか・・・そんな思いを巡らせながら、楽しく準備をしているところです。

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※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

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