感動を与えるプレゼンテーションの本質

斎藤昌義(さいとう まさのり) 2011-10-08 08:30:00

50人ほどの聴取を前に、前を見ることもなく、ただうつむき加減にマイクに向かっている20代と思われるマーケティング担当の女性。まるで今日初めて手にした教科書を、突然教師に当てられ朗読するように促された小学生のように中身もわからないままに平板に、そして朗々と読み上げていました。



彼女の後ろでは、パワーポイントのデフォルト書式に整理された文字が繰り出されます。ページごとに文字量にばらつきがあり、小さな文字や大きな文字がページが替わるたびにランダムに映し出されていました。クリップ・アートも様々なデザインが使われ、統一性がありません。なんとも「とっちらかった」という印象でした。


話しの内容も機能・性能の解説に終始し、如何にこの製品がすばらしいかを語っているようなのですが、いったいどこが凄いがよくわかりませんでした。それよりも何よりも、いったいこちらの何を解決してくれるのかの課題設定が最後まで曖昧なままで、いったいこの製品の魅力は何だろうかと、こちらで一生懸命考えさせられました。そしてついに「これだ!」と自分なりに答えを見つけたときには、ちょっと興奮し軽く握り拳・・・しかし、彼女の話の中には、その説明は一切なし。おいおい、そうじゃないでしょ、僕が説明してあげますよ・・・そう言いたい気持ちを抑えながら、20分の話しが終わったときには、なんだか拷問から解放されたような開放感を味わうことができました。


久々に凄い?プレゼンテーションを聞きました。


プレゼンテーションとは、相手の心を動かすことが目的です。そういう意味では、私の心は「いらいら」と大いに揺れ動いたわけなので大成功だったかもしれませんが、この製品の魅力に感動し、心を動かされることはありませんでした。


先日、あるSI事業者の研究所長をされている方のプレゼンテーションを拝聴しました。正直申し上げてドキュメンテーションはそれほど美しいとはいえませんでした(このブログをご覧になっていたらすみませんm(_ _)m)。しかし、ほんとうに感動し、彼の見識の深さと洞察力、そして何よりも、この人はこういうことが大好きなんだなぁと、彼の人となりがはっきりとわかるすばらしいスピーチでした。そして、それがお客様にどのような価値をもたらし、私達のビジネスがどう変わるかもしっかりと伝わってきました。


この二人の最大の違いは、間違えなく「愛情」の深さです。


自分の語る対象への深い愛情。そして、大好きだからこそ徹底的にその本質に迫ろうとしているパッション。本質を知っているが故に、最終的に何を伝えればいいかのゴールを明確にしっているので、ストーリーが簡潔です。修飾語をいっぱいつけて着飾らなくても、その本質が明快で美しいから人の心にしっかりと突き刺さるんですね。


確かにきれいな資料やわかりやすい話し方ができたほうが伝わりやすいでしょう。しかし、何よりも自分が語ろうとするものへの深い愛情と理解がなければ、相手の心を動かすことはできません。


Jobsが亡くなりました。彼のプレゼンテーションを見ると、彼の製品への愛情の深さを感じざるを得ません。その愛情は決して独りよがりのものではなく、美しさが人を豊にすること、この新しいライフスタイルがもっとすばらしい人生をもたらしてくれることを彼はいつも語っているのです。そんな他人への愛情もまた、彼のスピーチの魅力でした。


もちろんスピーチのテクニックもすばらしいものです。しかし、それだけでは、あれだけ多くの人の心を動かし、時代の流れを作り出すことはできなかったように思います。


私の研修で、プレゼンテーションの技巧で悩んでいるという話をよく聞きます。しかし、技巧よりも何よりも、自分たちの商品についての徹底した理解と愛情、そしてそれがもたらすお客様の幸せをあなたは理解していますかと申し上げることがあります。そのパッションがあれば、技巧は多少稚拙でも十分に相手の心を動かすことができるはずです。


プレゼンテーションの本質は愛情だと言うこと。これもまたJobsの残してくれたもののひとつだと思っています[合掌]。




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