営業という仕事の価値

斎藤昌義(さいとう まさのり) 2011-10-22 07:30:00


先日、ある製造業の情報システム本部長と話しをしました。


「私達は、3つの圧力に苦しんでいます。ひとつは、TCOの圧力です。運用や保守に関わるコストが予算の8割近くですよ。何か新しいことをやろうにも限界があるんです。


もうひとつは、予算削減の圧力です。震災への対応や円高に伴うコスト削減要請と海外へのシフト、本業に関わるお金が増えている中で情報システムの予算は、これまで以上に絞られています。今でもぎりぎりのやりくりをしている中で、これ以上切り詰めろと言われてもどうしようもありませんよ。


三つ目はクラウドの圧力です。経営者には、クラウドはコスト削減の特効薬のように見えるようです。しかし、膨大な既存のシステム資産をクラウド化することはそんな簡単なことではありません。しかも、クラウド化は自分たちのこれまでの役割を根本的に変えてしまいます。いわば我々の雇用を脅かす存在でもあります。経営者から見れば、私達の意欲や能力を問われるわけですが、そんな簡単にできる話ではありませんよ。」


申し訳ないが、私にはできないことの言訳に聞こえてしまいました。確かにこれまでの歴史を背負った当事者にとっては、この現実に対処しなければならない責任があり、ご苦労もわかります。しかし、企業はビジネス合理性を追求する組織です。この現実に対処することが、この方の責任でもあるはずです。簡単ではないということと、できない、やらないは別の話です。そのあたりが、はっきりと切り分けられないままの話になってしまっていたのも、そんな印象を持った理由かもしれません。


営業であるあなたは、このようなお客様にどのような提案をしますか?今まで以上に低コストで運用できるマネージド・サービスやオフショアでの開発・保守を提案するというのはどうでしょう。「安い」という話しならば、まずは耳を傾けていただけるかもしれません。

クラウドはどうでしょう。業務システムの根本的な構造改革に手をつけず、できる範囲でサーバーを仮想化・集約し、経費削減の要請に対応するという提案であれば、きっと検討の俎上に載せてくれるはずです。


しかし、それで本当にいいのですか?確かに一時できにはお客様の事態を改善できるかもしれません。しかし、それが真の解決につながるのでしょうか。営業の仕事って、そんなものなんですか?


お客様の状況や立場を斟酌し、なんとか彼の力になりたいと思うかもしれません。しかし、それでこの会社は成功するでしょうか、この情報システム本部長は、自分の職責を果たせるでしょうか。

それよりも何よりも、そんな仕事で自分の成長や生き甲斐をあなたは感じることができますか?それが営業という仕事の価値なのでしょうか?


確に、お客様がして欲しいことに応えることができれば商売にはなるでしょう。売上と利益という数字を背負っている営業にとって、とても魅力的な選択です。「営業の人格は数字だ!」と私もかつては上司によく言われたものです。数字をあげられなければ、企業の経営は成り立ちません。営業は、数字という大きな責任を負っているのも事実です。


どうすれば、この両者を両立することができるのでしょうか。残念ながら、絶対的な解決策など無いように思います。ただ、私達は、このような現実、このようなお客様を相手に仕事をしているという自覚を持つべきであるとは、言い切れます。


もう一つ大切なことは、この会社の経営者と話しをすることでしょう。業務やシステムの当事者は、与えられた職責をこなすことに精一杯です。たとえあるべき論はわかっていても、日常の降ってくる様々な業務への対応で、大所高所をしっかりと考え対処することは容易なことではありません。その優先順位を切り替えさせることができるのは経営者しかいないのです。


営業は、情報システム部門の方に対しては、ITの専門家として、その良き相談相手にならなくてはなりません。そして、経営者に対しては、情報システム部門の良き理解者として、そして経営という視点から情報システムのあるべき姿を客観的に語れるアドバイザーであるべきです。


営業のプロフェッショナリティとはそういうことなのだろうと思います。私達は、意思決定者でもなければ実務の当事者でもありません。その判断と行動に責任を負うことはできません。ただ、彼らが成功するためにはどうすればいいかを一緒に考える役割は果たせるでしょう。


自社の製品について詳しく語り、他社との違いもはっきりと伝えることができる・・・それもまた営業力の大切な要素です。しかし、そのことだけで、お客様はあなたに仕事を任せてくれるでしょうか。競合他社もきっと精鋭を繰り出してくるでしょう。我が社の商品が如何にすばらしいかをあなた以上にうまく話しているかもしれません。あなたは、そんな低次元の戦いに満足していいのでしょうか。


営業の仕事に「これしかない」はありません。それぞれにスタイルがあり、理想があると思います。ただ、ひとつはっきりと言えることがあります。「営業の仕事とは、モノやサービスを売ることではなく、お客様の価値を高めて対価を頂く仕事です。モノやサービスは手段である」ということです。


数字に追われる日々ですが、ここだけは忘れないようにしたいですね。



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先週は、コレ一枚シリーズに「HTML5」と「オープン化の歴史」の2枚追加しました。

自分としては、なかなかうまくまとめられたんじゃないかと、軽く握り拳しています(笑)

よろしければ、ご覧ください。 

※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

1件のコメント
  • FAE

    登場する「情報システム本部長」は、単なる情報機器購買担当ですよね?自分の会社の情報法システムに対してのポリシー、戦略が全くない。ただコスト削減、トレンドの導入という日経新聞に書いてある情シス部門の永遠の課題を繰り返しているだけ。本当の情シスの責任者なら、これだけは譲れない!そのためなら少々金はかかっても良い!っていうところがありますよね?まさか、紙面作るためのフィクション?

    2011年10月23日