ソリューションの本当の意味とカタチ

斎藤昌義(さいとう まさのり) 2012-04-22 11:00:00


「ソリューションとはどういう商品ですか?それはどんな形をしているのでしょうか?」


今から20年ほど前、メインフレーム全盛に陰りが見え始めていた頃です。ミニコンやオフコン、パーソナルコンピューターへのダウンサイジングが、大きな潮流となっていました。


高価なメインフレームに対する安価な小型のコンピューターの出現は、情報システム部門に頼ることなく、業務部門個別のニーズに短期間で対応できる魅力からどんどん普及してゆきました。その結果、ひとつの会社が、様々なメーカーのコンピューターを多数所有するようになったのです。


確かに、コンピューター単体の購入コスト(TCA: Total Cost of Acquisition)は劇的に下がりました。しかし、その一方で、データの互換性を保つことやネットワーク接続によるシステム間の連携、トラブルへの対応、システム間の整合性を保証した上でのバージョン・アップやパッチ対応などは、メーカー個別に対応しなければならなくなりました。メインフレーム時代は、メインフレーム・メーカーが保証してくれていた「組合わせ」は、マルチベンダー化によって、ユーザー企業側に大きな負担を強いることになったのです。


また、分散するコンピューター・システムのバックアップ・リカバリー、ライセンス管理、トラブル対応などの運用管理はメインフレームのように集中で行なうことができません。そのため、会社全体のコンピューターを所有することに伴うコスト(TCO: Total Cost of Ownership)が急増することになったのです。


それでも、業務ニーズへの迅速な対応が優先された結果、マルチベンダー化は急速に拡大、部門最適化された個別システムが増殖することとなったのです。


そんな時代、世界最大のメインフレーム・メーカーであるIBMの業績が伸び悩んでいた1993年4月、IBM初となる外部招請の会長兼最高経営責任者(CEO)に就任したのが、ルイス・ガースナー(Louis V. Gerstner, Jr.)でした。


かれは、マルチベンダーシステムの組合わせが、お客さまの大きな負担になっている現実に直面し、これまでのIBM純血主義を転換して、マルチベンダー・システムの組合わせを一括してサポートすることを表明したのです。当時、私はIBMで現役の営業をしていました。そのころの私は、「他社製品との組合わせを保証できませんからIBM製品で統一しましょう」と売り込んでいたわけですから、これはもう青天の霹靂です。


彼は、「マルチベンダー製品も含むお客さまのシステム全体を一括してサポートする」ことを「ソリューション」と表現しました。そして、このソリューションを提供するサービースを「システム・インテグレーション」と説明したのです。


「ソリューション」という言葉は、既に1980年代頃から使われていた言葉です。当時のソリューションは、「プロダクトよりレベルの高い仕事をしていますよ」というための言葉であり、各社各様の定義のもと、キャッチフレーズ的に使われてきた言葉でした。また、「我が社のソリューションは・・・」というので話を聞くとパッケージソフトウェアやハードウェアであったりすることも少なからずありました。


ソリューションという言葉が各社各様に使われていた当時、IBMが示したこの定義は、時代の要請に応えるものでした。そして、この考え方が、IBMをハードウェア・メーカーからサービス事業者へという事業構造の転換を促す礎となったのです。


つまり、ソリューションという商品は、特定の商品を意味する言葉ではなく、「お客さまの課題を解決することであり、それはマルチベンダーを前提とした手段の組合わせの提供を含むものである」ということになるのでしょう。


では、このソリューションという商品は、どんな形をしているのでしょうか。


答えは、「提案書」という形です。


ソリューションには形がないという人がいます。しかし、形のないものに人はどうやって対価を支払えばいいのでしょうか。お客さまが稟議の手続きを進めようとされるとき、何を対象として検討し、判断すれば良いのでしょうか。


形のないものは売れません。形にしなければならないのです。つまり、ソリューションという商品の形は、提案書なのです。そこには、お客さまが意志決定するために必要な様々な情報が必要十分に盛り込まれていなければなりません。なぜ必要なのか、目的は、手段や体制は、費用や期間は・・・それを見て、なるほどこれは欲しいと思わせることができなければ、お客さまに買って頂くことはできません。


当然、商品である提案書は美しくなくてはなりません。誰が、汚い商品を買いたいと思うでしょうか。


内容がよければそれで十分という人がいます。私は、そうとは思いません。美しいとは、人にわかりやすく、確実に伝えたいという「思い遣り」のカタチです。コミュニケーション能力の高さを表しているとも云えるでしょう。ビジネスはコミュニケーションの産物であり、そこが確実にできないとうまくゆきません。提案書が汚いと言うことは、その能力の欠如していることを示しています。そんな会社とはつきあわない方が良いと思います。


提案書を受け取った相手は、どう思うでしょうか。自分の伝えたいことは書き込みました。それで満足し、相手の知りたいことや相手がどう見てくれるかといったことへの気遣いがない。相手の思考フロセスを想像することもなく、ただ伝えたい内容を満たしたことに満足する。


伝えたという自分の満足ではなく、伝わったという相手の真実が大切なのです。それを突き詰めれば、提案書は結果として、美しくなるのです。


ソリューションという商品は、お客さまの課題を解決することであり、自社の商品やサービスのことではありません。ソリューションという商品の形は、美しい提案書です。ソリューション・ビジネスとは、この当たり前の上に成り立っていることを忘れないようにしたいものです。



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※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

1件のコメント
  • FAE

    >答えは、「提案書」という形です。
    提案書からどうやってお金を絞り出すんでしょか?その提案書がお客様経由でコンペに渡り、より易い金額で受注されたらこちらとしてはただ働きってことですよね?
    ネットの有料チャンネルじゃぁないんですから「つづきはこちらから」というわけにもいきませんよね?

    2012年06月25日

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