何ができるかではなく、何をすべきかを考える

斎藤昌義(さいとう まさのり) 2012-10-21 10:00:00

「皆さんの会社の複合機と競合会社の複合機では何が違うのでしょう。どこが競合優位なところなのでしょうか。」


オフィス製品をとりあつかう大手メーカーの営業研修で、こんな質問をしてみました。しかし、その違いを明確に説明できる人はいませんでした。


同じ質問をその競合会社の営業研修で行ってみました。しかし、ここでも営業の皆さんの答えは同じでした。


今年に入り、西東京地区でふたつの新しいデータセンターがオープンしました。どちらにもおじゃまして話をうがいましたが、セキュリティ面、災害強度、エネルギー効率など、「次世代型データセンター」と自称されるだけあって、すばらしい設備です。しかし、この両データセンターの違いはどこにあるのでしょうか。営業であれば、その違いを明確に説明できなければ、売り込むことはできないはずです。


複合機の場合も、次世代型データセンターの場合も、機能・性能は頂点に達し、その違いを説明することが困難なほどに、ともに高い完成度です。


もうこうなると、機能・性能の比較で競合することはできず、あとは価格競争しかありません。「コモディティ化」とは、まさにこのような状況を指す言葉です。


企業は切磋琢磨して高い完成度を目指します。しかし、それが行き着くところまで行き着いた先には、コモディティ化が待ち構えています。


モノで差別化が図れないのであれば、サービスで差別化を図るしかありません。ITビジネスの多くは、今この命題を抱えています。


モノがまだまだ過渡期にあるときは、モノの機能・性能が、価値を評価する基準となっていました。サービスはモノに付帯するおまけでしかなく、競合優位を左右するものでありません。モノが顧客価値を支配している段階です。


ところが、モノの性能や機能では差別化できない段階になると、差別化の基準はサービスに移行します。つまり、サービスが顧客価値を支配することになります。つまり、サービスに差別化可能な価値を作り込まなければ、競合優位を見出すことはできないことになります。


だからといってモノの機能・性能という価値が重要性を失うわけではありません。それは「前提」として不可欠な存在であり続けます。ですから、モノを提供するための高い技術力の必要性がなくなるわけではないのです。しかし、それ自身が、差別化の要件にはなりえないのです。


そうなると、モノとサービスを一体として、顧客価値の創造と差別化を図ってゆくことが必要となります。しかし、「モノを前提としたサービス」であっては、モノが顧客価値を支配することに変わりはなく、できる範囲も限定されることとなります。


モノを前提とせず、どのようなサービスがお客様の価値を創造できるのかを追求する。そして、どのようなサービスが、差別化を創造し、競合優位を確立し、収益につながるかをまず考え、その上で必要なモノを考える。そういう発想が必要となります。「サービスが顧客価値を支配する」とは、このような発想に立つことなのでしょう。


Appleが、iPhone/iPadとともに展開しているiTunesやApp storeは、サービス支配型ビジネスの典型と言えるケースです。


どこの会社もAppleと同じことができる訳ではありません。しかし、この視点は、これからのITビジネスを考える上で、不可欠な発想です。そして、Appleでなくてもできることはいろいろとあるはずです。


「お客様の課題は何か、何を必要としているのか、どすれば、そんなお客様の課題を解決し、ニーズを満たすことができるのか」。


何ができるかではなく、何をすべきか」を考えることです。そして、それに必要なモノやサービス・プロダクトの組み合わせを考えます。


全てが自社の商材でまかなえるとは限りません。しかし、「何をすべきか」の視点に立てば、それは致し方のないことです。


複合機やデータセンターのようなコモディティ化の現実に対処し、競合優位を見出すためには、「サービス支配」の視点に立って、ビジネスを捉えることが必要です。


お客様が必要としていることは、モノを手に入れることではなく課題を解決することです。あるいは、ニーズを満たすことです。そうであるとすれば、どんなサービスが魅力的であるのかと考えます。そして、それが十分に魅力的であるとすれば、その実現に必要な複合機やデータセンターは、それ自身が一定水準の機能や性能を備えているとすれば、結果として採用していただけるはずです。


クラウドのIaaSもそろそろそんな段階にさしかかったようです。


以前にもご紹介したIaaSの稼働状況をベンチマークしているサイトがあります。これを見ると、名だたるクラウド・サービス・プロバイダーは、いずれもエンタープライズ・ニーズを十分に満たす高いサービス・レベルであることが分かります。


IaaSもまたコモディティ化の段階に達していると言えるでしょう。その前提に立てば、IaaSを事業としている企業は、お客様の課題を解決するためのサービスは何かをまず考え、その基盤としてのIaaSという「サービス支配の戦略」で、競合優位を見出す必要があります。


あるいは、AmazonやGoogleのように、コモディティとしてのIaaS基盤を徹底的に追求し、コストパフォーマンスやサービスの安定性、自動化や自律化といった基盤としての顧客価値を追求すべきかもしれません。


後者は相当の体力を必要とします。それが、容易ではないとすれば、サービス支配の視点に立ち、競合優位を見出すしかありません。


先行逃げ切りでモノの付加価値を追求するビジネスを展開するか、それともコモディティを基盤としてサービス支配のビジネスを展開するか。いずれにしても、その位置づけを明確にしなければ、競合優位を確立することはできません。


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※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

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