クラウドの都市伝説に思考停止している残念な人々

斎藤昌義(さいとう まさのり) 2012-12-01 10:30:00

「クラウドでビジネスを再発明する」


米Amazon Web Service(AWS)が、先日ラスベガスで開催したカンファレンス「AWS re:Invent」のタイトルには、このような思いが込められているそうです。クラウドは、まさにビジネスの新たな道筋を生みだしつつあります。


クラウドの当たり前が、わずか一、二年の間に大きく変わっています。それにもかかわらず、この変化に目を向けることなく、旧態依然としたビジネス・スタイルを踏襲している企業は少なくありません。


それは、決して、売る側だけではなく、ユーザー企業もまた、これまでのやり方の延長線上で物事を解釈しようとしていることにおいては、何も変わりはないように思います。

  • クラウドは信頼性が低いから
  • セキュリティが保証されないから
  • 運用管理が不透明で安心できないから

クラウドについて、こんな都市伝説が、未だまことしやかに語られています。そんな話を聞くと、勉強不足、新しいリスクを背負い込むことへの忌避、そして、これまで蓄積してきたスキルが使えなくなることへの不安であり、言い訳と聞こえてしまうのは、私の耳が遠くなったせいなのでしょうか。




以前にも紹介したクラウド・サービスのベンチマーク・サイト「Cloud Harmony / Availability Report for Last 90 Days」を見ると、主要なクラウド・サービスの多くが、uptime(最後にコンピューターが起動してからの経過時間) 100%を維持しています。


このベンチマーク・リストの上位には、我が国のクラウド・サービスも多数含まれています。また、大手SIerである新日鉄住金ソリューションズのクラウド・サービスであるabsonneのように、「99.999%保証する」としているサービスもあり、「クラウドの信頼性は低い」とは、もはや言い切れないでしょう。


また、Googleには、セキュリティ担当の専任技術者が300人いるそうです。それに比べて、我が国のユーザー企業の情報システム部門にセキュリティ専任のエンジニアは何人いるでしょうか。他の業務との兼任であり、専門的なことは、外部に任せているところも多いのではないでしょうか。


米国連邦政府のクラウド・ファースト・ポリシーやAWSが「金融機関等コンピュータシステムの安全対策基準」を満たしているとのレポートなどは、その裏付けとなるものです。


運用管理については、そもそも常識が違うことを念頭に置いて考えなくてはなりません。従来のように、専任の運用エンジニアを配置し、個々のアプリケーション毎に運用設計し、個別に運用管理するという常識は、クラウドにはありません。




あらかじめ用意された運用メニューから、運用パターンを選び、条件設定する。つまり、リソースとセットでパッケージングされた運用を調達するという考え方です。


運用はそれ自体パッケージングされた部品であり、機能の作り込みと品質保証がなされています。これを組み合わせて、運用を自ら組み立てるという発想が求められます。これは、運用管理をエンジニアの個人的なノウハウ、つまり暗黙知に頼るのではなく、高度に工業化された部品を組み合わせて利用することに相当します。従って、用意された運用内容や、サービス毎の運用思想を正しく理解しなければ、使いこなせません。その一方で、だれもが品質保証され、標準化された運用管理サービスを利用できることにもなるのです。


確かに、上記の要件を満たさないサービスもあることは確かです。だからこそ、それを見極める情報収集力と目利き力が必要になるのです。


「クラウド・サービスはエンタープライズ・プラットフォームとしての要件を満たしつつある」ことは、もはや常識です。


この現実に目を背けることなく、その得意不得意を見極め、最大限に活用することこそ、TCOの削減やITの戦略的活用を促すことになるのです。


ところで、SI事業者は、この現実をどのように受け止め、対処してゆけばいいのでしょうか。その戦略は、大手と中堅中小とは、異なると考えています。




大手は、自ら戦略的な取捨選択を行い、ミッション・クリティカルなSI案件と絡めつつ、その受け皿となるクラウド・サービスを提供する戦略で手堅く地歩を固めるか、Amazonに対抗する徹底したコモディティ戦略を推進するか、そのいずれかの選択ではないでしょうか。中途半端なSaaSや曖昧なポジショニングは、自らの存在感を放棄することに他なりません。


中堅中小は、コモディティ化されたクラウド・サービスを最大限に利用し、これまで大手しかできなかった大規模インフラを前提とした開発や、本番実行環境のITO(IT Outsourcing)を受託するストック・ビジネスへのシナリオが描けるように思います。


これまで積み上げてきた現場や業務のノウハウを特定の領域に特化しSaaSビジネスを展開することも可能です。従来のように自ら資産を持つ必要はなく、拡大も撤退も容易です。そのためには、改めて自分たちの強みを再定義し、その価値をどのようにサービス化するかを考えることが必要です。そして、ユーザー企業にダイレクトにアプローチすることを考えるべきでしょう。これまで同様に、大手SIerの配下で受託、派遣に甘んじ、自らのリスクを回避しづける限り、この先はないと思います。


時代が大きくシフトしていることに、私達は真摯に目を向けなくてはなりません。例えそれが、既存の収益基盤を脅かすものであっても、それが時代の流れであれば、対応しなければなりません。ただ、現実に目を向ければ、「ああ、大変だ。どうしよう・・・」で思考停止に陥っている人たちが実に多いことを残念に思います。


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※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

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