「全ての道はクラウドに通ず」それは、SIビジネス衰退への道?

斎藤昌義(さいとう まさのり) 2012-12-22 15:00:00

「全ての道はローマに通ず」という言葉があります。たとえ手段は違っても、物事が中心に向かって集中することのたとえとして使われる言葉です。


古代ローマ帝国が全盛を極めた時代、世界各地から帝国の首都ローマに通じる道が整備されたことを誇り語られたものと言われています。


そして、今、「全ての道はクラウドに通ず」と言っても過言ではないほどに、クラウド・コンピューティングはITを語る上で大きな存在となっています。


しかし、クラウドが米国のビジネス文化や価値観のもとで生まれたこと、つまり、クラウドという帝国の首都が米国にあることを、私達は理解しておかなくてはなりません。つまり、米国におけるクラウドの価値は、日本における価値と同じではないのです。


SIビジネスを考える上で、この違いは大きな意味を持っています。そして、この違いを踏まえ、クラウドをSIビジネスの武器としてゆくためには、どのようなシナリオを描けばいいのでしょうか。今日はこの点について整理することにします。


1.クラウドのもたらす生産性の向上はSIと利益相反の関係にある

日本では、調達や構成変更・運用管理における作業の多くがITベンダーに任され、その都度見積もりをとり発注するという手続きがとられています。そのため、ものの調達や作業の開始が、数週間、あるいは数ヶ月先になることもあります。

一方、クラウド・コンピューティングでは、「セルフ・サービス・ポータル」と言われる構成や設定を行うメニュー画面から行うことができます。つまり、システムの利用者自身が、この画面を介して設定するだけで、必要とするリソースを即座に調達することや構成の変更ができるのです。この仕組みによりエンジニアの生産性は著しく向上します。

エンジニアの生産性向上は、米国においては、ユーザーに直接的な価値をもたらします。それは、ITエンジニアの72%がユーザー側に属しているからです。

一方、日本においては、ITエンジニアの75%ITベンダー側に属しています。そのため、このような仕組みはITベンダーの生産性向上になります。しかし、これは、ビジネス的に見れば案件規模の縮小です。また、米国のように、お客様自身がリスクテイクするのではなく、ベンダーにリスクを負わせる構図が定着している我が国においては、ベンダーから見れば利益相反の関係となります(詳しくは、こちらの記事をご参照ください)

また、ユーザーも自身のリスク負わずベンダーに任せることが、これまでは当たり前でした。結果としてユーザーとベンダーは相互に利害が一致しています。このような意識が、我が国におけるクラウドの普及の足かせとなっているのではないでしょうか。

2.「オープン」とは「プロプライエタリ」へのレジスタンス活動

エンジニアの多くがユーザー企業側に籍を置く米国において、オーブン・ソース・ソフトウエア(OSS)のコミュニティには、ユーザー企業のエンジニアが積極的に関与し、ユーザーの立場から影響力を行使しています。

このような取り組みは、プロプライエタリに握られた主導権を、ユーザー自身の手に取り戻そうとするレジスタンス活動ということができるのです。

ベンダー・ロックインを嫌い、真にユーザーにとって必要な仕組みを構築する自由を手に入れる。それが「オープン」の旗印なのです。

OpenStackCloudStackなどのオープン・クラウド基盤に関わる活動もまた、vmwareMicrosoftなどのビッグ・ベンダーにクラウドの主導権を握られることへのレジスタンスとして生まれた活動なのです。このような動機付けは、結果としてオープン・クラウドの普及を促す強い原動力となっています。

このような考えが広く受け入れられている米国においては、プロプライエタリ側も「オープン」を無視することができません。そのため、vmwareが自身の対抗としてはじめられたOpenStackコミュニティのスポンサーとして参加していることや、Microsoftが新しいWindows Azure Platformにおいて、Hyper-Vをサポートし、Linuxへの対応などオープンに積極的にコミットしていることをアピールしているのは、このような背景があるからです。

3.日本的SIerという業務形態の特殊性

我が国においては、システムのインテグレーションの実務をSIerが担っています。しかし、米国ではユーザー自身がその役割を担っています。これは先に述べたエンジニアの人数比率の違いもあるのですが、CIOITのスペシャリストであることも大きな理由としてあげられます(詳しくは、こちらの記事をご参照ください)

我が国の場合、CIOの多くが財務や経理、総務などの役員と兼務であり、ITについての経験がなく、ITに関する知識やスキルが乏しいということは珍しいことではありません。そのため、ITの実務は配下の情報システム部門に任せています。つまり、ITのイニシアティブを経営のトップラインが掌握しておらず、戦略的な活用を育む環境が整っていないのです。

そのためシステムの構築を自ら主導する力が乏しく、クラウドに限ったことではありませんが、ITを戦略的につかうというメカニズムが、ユーザー主導では起こりにくい構図ができあがってしまっています。

一方、米国におけるCIOは専任のITスペシャリストであり、経営のトップラインとしてIT活用のリーダーシップを発揮します。経営のトップラインに居ることは、組織の人事やルールにも関与できる立場にあり、ITと経営を融合した戦略的な情報とシステム活用の陣頭指揮に立てる立場にあるのです。従って、先に説明したクラウドのユーザーにとってのメリットについても良く理解しており、これを積極的に活用していこうというモチベーションも高く、それを主導する権限も持っています。

米国において、クラウドが積極的に活用される背景には、このようなCIOのイニシアティブがあるのです。


米国発クラウドが、どのような背景のもとに生まれ、それが、日米において異なる価値に結びついていることが、おわかり頂けたのではないでしょうか。


では、我が国のSIビジネスにおいて、どのようにクラウドを活用してゆけばいいのでしょうか。これは、上記のようなビジネス文化の違いを、むしろチャンスとして積極的に活用するという発想が必要であるように思います。




フローのSIをストックのITOに拡げるビジネス基盤」と捉えて見てはどうかと、私は考えています。


ITO(IT Outsourcing)基盤としてクラウドを考えると、オンプレミスにはない高い柔軟性と生産性が期待できます。また、初期投資コスト(CapEx)を抑えることができます。さらに、従量課金を前提にすれは、運用・維持に関わるコスト(OpEx)ITOサービスの利用料金の中に変動費として組み込むことができます。


つまり、構築だけのSIから本番実行のための基盤と運用管理業務を一体化したサービス提供が容易になるのです。


従来であれば、このようなサービスは、資金余力のある大手SIerが自ら設備を持って提供する以外、方法はありませんでした。しかし、クラウドを使えば、システム資源を初期投資リスクなしに、しかも従量課金で外部から調達することが可能となり、中小のSIerでも十分にサービス提供が可能になるのです。


ITエンジニアの構図が日米で大きく異なっていること、その前提の上で生みだされたクラウド・コンピューティング。この違いを今更変えられるものでありません。しかし、この違いは、正しく理解すれば、クラウドはSIerにとってビジネスの強力な武器になり得るのです。


SIビジネスの「全てはクラウドに通ず」る』と考えれば、逆転のシナリオを描くことが可能になるかもしれません。


参加者募集■ 2013年1月22日(火) 企業の変革をITで実現する大会議 ■


ユーザー企業の変革の流れを感じて、どう動くか? 


そんなことを本気で考えるIT企業の「イノベーター」たちのための大会議です。 


2012年7月5日。ユーザー企業、IT企業のビジネスパーソン 100名が集まって両者の接点である『IT』の活用を進めていくために、それぞれの立場でどのようにあるべきかを3時間議論し続けました。そして、参加者の心の中で課題が明確になりました。 


そして、2013年1月21日。ユーザー企業のCIO、情報システム部門、その他ITユーザー部門の方々が集まって、「ユーザー」としてどのようにイノベーションに取り組んでいくかを大会議で議論した結果を受けて、翌日のこの1月22日にその変革の意識にITを提供する側として、どのような姿勢で向き合っていくかを大会議で議論しています。


IT企業の皆さん、是非ご参加ください m(_ _)m 


詳しくは、こちらをご覧ください。


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