「そうなったらいいなぁ」が「事業戦略」と呼ばれる不思議

斎藤昌義(さいとう まさのり) 2013-04-07 15:30:00

「海外への進出を考えているんですが、まずは国内企業の海外進出を支援することからはじめようと思っています。」


「でも、同じようなことを考えている企業も少なくないと思いますよ。結局は地場の企業を顧客として取り込んでゆかなければ、海外事業は、頭打ちになるんじゃありませんか。」


「ええ、私達もそう考えています。でも当面は、仕方がないと思っています。まずは、進出して、走りながら考えて見ようと思っています。まあ、はじめてのことでもありますし、やってみなければ分かりませんよ。」


本当にそれでいいのでしょうか?


地の利も分からず、人脈がない状況にあっては、最初は仕方のないことだと思います。しかし、海外進出となれば、大きなリスクを冒しての先行投資です。それが、「当面」の戦略だけで、実行に移していいのでしょうか。いずれ訪れるであろう未来が分かっているにもかかわらず、当たって砕けるというようでは、なんとも心許ない話です。


「海外の顧客を取り込むためにこういうことをやる」という具体的イメージを仮説として持たなければ、本当にそのやり方が妥当かどうかは分かりません。情報も入ってこなければ、人のつながりも生まれないでしょう。何が必要なのかも見えてこないはずです。


  • 当面は日本企業の海外進出を支援し、3年後は地元企業の顧客比率を3割りまで引き上げる
  • 現在のパッケージ・ビジネスから、3年後には、SaaSビジネスへの転換を図る
  • 現在、グループ内企業の売上比率が8割りだが、5年後にグループ外の比率を8割に引き上げる



どのように実現するのですか?


担当者曰く「そうでも言わなければ、上も納得しませんしねぇ。」

経営者曰く「それぐらいの高いハードルを掲げておかないと、何もやりませんよ。まあ、正直なところ、本当にできるとは思っていませんけどね・・・」


なんて、本音が聞こえてきそうです。


  • 海外顧客を取り込むための訴求点はなんですか。どのような価値を地元企業に提供できるのでしょうか。なにが地元企業や他社にはない強みなんでしょうか。どのようにチャネルを開拓し顧客ベースを拡げるべきなのでしょうか。
  • SaaSシステムの具体的な機能やサービス内容のイメージは描けているんですか。 SaaSとなれば、顧客ベースも収益構造も変わります。ではどうなるのでしょうか。現行のパッケージ・ビジネスから移行するシナリオは描けているのでしょうか。SaaSへの移行は、ひとつのプログラムをマルチテナント対応させなくてはなりませんが、それに伴う変更点や運用上のリスクを明確にできているのですか。
  • 今はない顧客ベースを新規に開拓しなければなりません。これまでそういうことに取り組んだ経験は少なく人材もスキルも不足しています。それをどうやって補うのですか。自分たちにできないとすれば、外部との協業を模索しなければなりませんが、かれらが協業することにメリットを感じてくれなければうまくゆくはずなどありません。どのような協業のスキームを実現するのですか。



「何をすべきか」


あるべき論の追求がないままに、「そうなったらいいなぁ」という「期待表明」が、いつの間にか事業戦略や事業計画という名前にすり替わっていることはないでしょうか。


戦略や計画は、まず「何をすべきか」を描くことからはじめるべきです。つまり、何をゴールにするか、また、そこへ至る筋道を具体的に、鮮明に描いてみることです。


「そんなことを言われても、新しいことですからねぇ。事業部としては収支が問われますし、無い袖はふれません。「何をすべきか」と言われても、現状を無視するわけにはゆきませんよ。」


現状の積み上げだけで、新しく掲げた事業戦略を本当に実現できるのでしょうか。正解のない問題に挑戦し、現実との妥協を積み上げ、気がつけば、できなかった理由で武装する、なんてことになりませんか。


現状を前提として、今の自分たちは「何ができるか」を議論すれば、発想は縮まり、お客様が求めるものからは、どんどんと遠ざかってゆくような気がします。


じゃあ、どうすればいいのでしょうか。まずは現状を棚に上げ、理想のあるべき姿を描くことからはじめなくてはなりません。その上で、現状を棚から下ろし、そのフィット・アンド・ギャップを明らかにします。そこには、いろいろな課題があるはずです。これをどうすればこれを埋められるかを実行計画として描き出します。たぶん、こういう手順が基本なのでしょう。


走りながらゴールを求めるのではなく、仮のゴールを地図の一点に定め、そちらに向けて走り出すことです。そうすれば、その過程で様々な情報が手に入ります。そして、目の前にあらわれた課題を解決すること、あるいは、ゴールそのものを変更しなくてはならないこともあるはずです。それらは全て、ゴールに向かうからこそ、できることなのでしょう。


変化のない時代など、過去にはなく、未来にも訪れることなどありません。だから私達は、常に変革してゆかなければなりません。


ただ、そんな時代の流れの中でも、時に「時代の節目」と言われる大きな転換点が訪れることがあります。ITビジネスで考えるならば、クラウドやグローバルが時代の流れとなっている現在は、大きな節目のひとつだと、私は考えています。


「時代の節目」への対応は、これまでの常識の延長線上に求めることはできません。単なる改善では限界があります。大きな変革、すなわちイノベーションが必要なのです。


お客様の価値観、事業構造、収益モデル、テクノロジー、求められるスキルなど様々なビジネスの構成要素が、これまでの常識を大きく変えてしまいます。


経営者は、こういう時代の節目に気付き、危機感を持てと言います。しかし、その議論は精神論に終始し、現場にしてみれば、「そんなこと、わかってますよ。でもね・・・」と、現実感のないもやもやとしたフラストレーションだけが溜まってゆくなんてことには、なっていませんか。


危機感を持つとは、あるべき論を明確にし、次に現状を直視する。そして、両者のフィット・アンド・ギャップを具体的に描くことからはじめます。そして、そのギャップを埋めようと計画を練ると、それが容易に解決のできないことに気付くはずです。このような過程を経て、危機感は、はじめて現実感となるのです。


変革を、お経のように唱えても実現することはありません。ここに紹介したような行動があって、はじめて危機感は醸成され、行動を促します。それでも、行動が起こせないとすれば、これはかなり深刻な事態だと、考えなくてはならないでしょう。


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