クラウド時代のSIビジネス:3つのシナリオ

斎藤昌義(さいとう まさのり) 2013-05-11 10:00:00

「SIビジネスはなくなる」


これまでもこのブログ、何度も取り上げてきたテーマです。ただここでいうSIビジネスとは、人工単価の積算を売上と考える労働集約型のビジネスのことです。「テクノロジーやプロセスを組み合わせ、お客様に最適なシステムを提供する」本来の意味でのSIの必要性が、無くなるわけではありません。


これまでのSIビジネスの問題は、人月で見積もりする一方で、納期と完成の責任を負わせることにあります。SI事業者は、これを「瑕疵担保」という形で保証させられ、リスクを背負わされています。


これに対して、SI事業者は、そのリスク分を上乗せした見積や納期を提示することで、これを少しでも回避しようとします。


こういう相互不信が前提となっているところに、SIビジネスの本質的な問題があるのではないでしょうか。


この相互不信を解消し、「成果の価値をお互いが正当に認められるビジネスへの転換」を図る道を模索すべきなのです。


ただ、そのような取り組みは、収益構造を大きく変えるでしょう。求められる手段やスキルも変わるでしょう。その変化を享受しない限り、これからの時代を乗り切ることはできません。ではどうすればいいか。ここでは、本来の意味でのSIをどのように変えてゆけばいいのか、その3つのシナリオについて考えることにします。


【シナリオ1】ビジネス・サイクルを短縮し利益率を拡大する


クラウドの真価は、必要に応じてリソースを自由に伸縮できる「スケール」、変更や変化に柔軟・俊敏に対応できる「アジリティ」、調達や構築を迅速に行える「スピード」です。しかし、従来のウオーターフォール型の開発では、この3つの価値を引き出すことはできません。どうすればいいのでしょうか。


高速開発への対応

RAD(Rapid Application Development)BRMS(Business Rule Management System)などのツールの活用、スクラムやエクストリーム・プログラミングなどのアジャイル型の開発などのスキルが求められるようになるでしょう。jQueryなどの開発フレームワークを活用することも考えられます。


バックエンド・サービスの活用

クラウドは、iPhoneAndoroidなどのモバイル・デバイスと一体として利用されることが一般的になるでしょう。そのモバイル・アプリケーションに必要な、クラウドとの連携機能を提供するサービスが、BaaSBackend as a Serviceです。 BaaSを使えば、モバイル・デバイスとクラウドの連携に必要とされるプッシュ通信、データストア、ユーザー管理、認証管理、ソーシャル・メディア連係、ロケーション・データ連係などを、モバイル・デバイスで動くアプリケーションからAPIで呼び出すことができます。サーバ側のコードを書かなくてもクラウドと連携させることができます。アプリケーション開発者は、モバイル・アプリケーションの開発に専念できますので、開発効率を大幅に高めることができます。 BaaSの登場によって、サーバ側の開発の手間は大きく削減されます。一方、様々な機種が台頭してきているスマートフォンやタブレットのアプリ開発は、機能の違いや解像度の違いなどを考慮した、機種固有の開発をしなくてはなりません。この問題を解決してくれるのが、MEAPMobile Enterprise Application Platform)です。  MEAPは、iPhoneiPhoneiOSAndroidWindows PhoneWebアプリなどに対応し、MEAP上で開発すれば、複数プラットフォームに対応するための以下の機能を提供してくれます。²  アプリケーション設計²  ビルド²  バックエンドとの接続/データ交換²  配布²  ランタイムエンジンなどの実行環境の提供²  アプリケーションの配布、更新、利用期限の管理)²  利用状況のログ取得 企業内で利用することを想定したもので、各社より多くのソフトウェアが提供されています。MEAPを使えば、アプリケーション・プログラムは一度作ればいいわけですから、開発の生産性向上に役立ちます。


DevOps環境の整備

開発は常によりよい機能を提供しようとプログラムの改善を繰り返します。一方、運用は、システムの安定を維持したいと考えますから、頻繁に変更することには抵抗があります。ここに、両者の価値観の隔たりがあり、「壁」がうまれてしまうのでしよう。この壁を取り払い「Dev(開発)とOps(運用)が協力してよりよいサービスを提供しよう」という取り組みが「DevOps」です。 仕事の仕方を変えてゆかなければなりません。それを支えるChefなどの運用自動化ツールを活用すれば、開発されたアプリケーションの本番移行の時間を大幅に短縮することができます。この点については、「第五章 内製化への期待、その背景と対応」に詳しく述べましたので、そちらを参照してください。 以上のような手段を駆使することで、開発・保守・運用のサイクルは、大幅に短縮されます。その結果、案件単価は低下します。ただ、SOAやフレームワークをうまく使えば、モジュールの再利用効率は高まりますから、利益率の拡大につなげることは可能です。このサイクルを効率よく回し、回転数を上げることで売上と利益を拡大することができそうです。


【シナリオ2】フローからストックに転換する(サブスクリプション・モデル)


クラウドの時代は、オープンの時代でもあります。従来のオンプレミスで、プロプライエタリ(proprietaryソフトウェアの使用、改変、複製を法的・技術的な手法を用いて制限しているソフトウェア)ソフトウェアを導入するやり方は、少なくなるでしょう。


そこで、パブリックかつオープンなクラウド環境でSIビジネスを展開するというシナリオが考えられます。


まず、パブリック・クラウドを使えば、開発・検証に関わるシステム資源の調達コストを大幅に抑制することができます。時間単位の従量課金サービスを利用すれば、変動費として開発原価に組み入れることができますから、資産を持つ必要はありません。


あるSI事業者の方から聞いた話ですが、Haddopを使ったビッグ・データに関わるシステム検証に100台のサーバを使わなくてはらなかったそうです。彼等は、それをAmazonのクラウドサービスを使い、断続的ではあったそうですが、3日間でわずか数万円しかかからなかったそうです。


オープン・ソース・ソフトウェアは、基本的には無償ですから、本番で使用する前に試してみることができます。従来のように、開発のためにライセンスを購入する必要はありませんから、様々な組み合わせを容易に試すことができます。このような使い方をすれば、コストをかけずシステムの完成度を高めることができます。また、これまでに無い組み合わせを試し、イノベーションを加速することもできます。


SIとして請負開発したシステムを、パブリック・クラウド基盤で本番稼働させ、その運用とあわせて、一括して引き受けるサービスを展開することもできます。


従来であれば、運用環境の構築に一定の初期投資が必要でした。しかし、いまでは従量課金で使えますから、お客様への月次の請求に載せて請求できます。


場合によっては開発費を請求せず、全てを月額使用料方式(サブスクリプション)にすることも考えられます。開発規模の上限を定め、その範囲で料金を固定すれば成り立つでしょう。仕様がすぐには定まらないが早急に立ち上げなくてはならい、あるいは変更が頻繁に起こるかもしれないシステムであれば、アジャイル開発の手法を取り入れ、開発の優先順位をユーザーと確認しながら、継続的にシステムの完成度を高めてゆくこともできます。


このような方法を使えば、従来であれば、フロー・ビジネスでしかなかったSIビジネスをストック・ビジネスへと転換することができます。また。お客様にとっては、資産を持つ必要はなく、全て経費化できることもメリットとなるでしょう。なによりも、あらかじめ仕様を固定する必要が無く、業務ニーズの変化に追従できることで、エンド・ユーザーの満足度も得やすいはずです。


【シナリオ3】レベニュー・シェアで利益率を拡大する


人月単価の積み上げが見積金額となる従来のSIビジネスは、付加価値を上乗せしにくく、利益率を上げることは容易ではありません。もし請負契約で、見積もりミスやトラブルなどあろうものなら、赤字になることも覚悟しなければなりません。この課題に対処できるひとつの方法が、レベニュー・シェアです。


このやり方では、原則として初期開発費は受け取りません。その代わり、このシステムでお客様が提供するサービスの売上に対して、一定の割合で報酬をうけ取る方法です。ECサービス、SaaSなど、開発したシステムと売上が直結する場合には適しています。一定の売上が期待できるサービスであれば、初期投資はリスクとして負担しなければなりませんが、継続的に収入となることから、利益の拡大を期待できます。


この方式のもうひとつのメリットは、お客様とITベンダーがゴールを共有できることにあります。従来であれば、まず仕様を固め、その仕様を満たすプログラム・コードを確実に仕上げることが、SI事業者のゴールとなります。しかし、お客様のゴールはプログラム完成ではありません。売上の継続的拡大です。この断絶が、これまでも様々なトラブルを引き起こしてきました。


しかし、レベニュー・シェア方式であれば、お客様もSI事業者も売上を継続的に拡大することがゴールになります。両者は対等な立場に立ち、同じゴールを共有することができます。そして、同じゴールを目指して、共同で改善を重ね、完成度を高めてゆかなくてはなりません。


開発者の少ないユーザー企業にとっては、ゴールが共有できるパートナーの存在は、心強いはずです。SI事業者にとっては、お客様との信頼関係を深め、他社を排除し、囲い込むための手段ともなるはずです。


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どのような案件が、どのシナリオに当てはまるかは、個別に考えなくてはなりません。ただ、従来のように、人月単価の積算だけではない収益の考え方もあるのだということです。そして、それらがクラウドの普及により容易になってきたのです。


これまでの収益モデルに固執すべきではありません。クラウドや様々な技術のトレンドに関心を払い、新しいシナリオにチャレンジすることで、収益構造の多様化を図っていってはいかがでしょうか。



■ そろそろ締め切ります・・・ITソリューション塾・第13期 ■


ITビジネスの前戦に立つ人間が、ITの今の常識を語れなくてどうするの!」そんな思いからはじめました。



企業の研修担当者に話をすると、


ITのトレンドなんてインターネットのニュースを見てれば分かりますよ。研修まですることはないのでは・・・」


というコメントを頂いたこともあります。


しかし、現実には、日常の業務に追われてそういう整理ができていないし、そもそも、トレンドを理解する"フレームワーク"みたいなものがないと、情報も知識としては定着してゆきません。


※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

1件のコメント
  •  ななし

    > 証に100台のサーバを使わなくてはらなかったそうです。彼等は、それをAmazonのクラウドサービスを使

    なんていうか・・・
    AWS上で破壊実験なんてWEB系では当たり前ですよ?
    SIは勉強不足なんじゃ・・・

    2013年05月11日

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