「システム・インテグレーション崩壊」のすすめ

斎藤昌義(さいとう まさのり) 2013-07-20 12:00:00

「システム・インテグレーション崩壊」は、時間の問題です。むしろ積極的にSI事業者自らが、この創造的破壊に取り組んでゆくことが、最良の生き残りの選択肢ではないかと考えています。


SIビジネスの課題は、Pay for Time (人月単価の積算で金額が決定するビジネス)であるにも関わらず、成果保証(瑕疵担保責任)を負わされることです。


ですから、ユーザー企業にしてみれば、金額を一旦固定し、請負契約にしてしまえば、後は納得いくまでいくらでも作り直しをさせることができます。これでは、人月の積算で金額を決めた意味がありません。


偏見を交えて申し上げれば、ユーザー企業、つまり仕事を発注する情報システム部門は、金額に形式的かつ客観的な根拠が欲しいのです。それがなければ、社内を説得できないからです。


本来、提示された見積もり金額の妥当性は、開発や運用などの実践的なスキルなくして評価できるものではありません。しかし、現場から遠ざかってしまった情報システム部門の担当者には、そういったスキルに裏打ちされた勘が働きません。そこで、客観的な根拠としての人月単価の積算を求めるのです。


見積もりを複数の企業に提示させ、似たような積算になれば妥当と判断し、その中で一番安いところ、あるいは自社の業務に長年携わっていて、細かいことを言わなくてもツーカーで話が通じるところ、などの評価基準で発注先を選定することになります。SI事業者の業務遂行能力や創意工夫などという数字に表しにくい価値は考慮されません。


当然、SI事業者は自分たちの価値を上乗せしたいところですが、他社に負けたくないので、結局はぎりぎりで金額を提示します。当然、十分な利益は得られませんので、エンジニアのサービス残業は前提です。そうなると、彼等は忙しさに封殺され、新しい技術を学ぶ意欲も、時間も生まれません。当然、会社としても少ない利益の中で教育にお金を回す余裕はありません。


SI事業者は発注を請けると要求仕様に忠実であることで無駄な時間を使わないように努力します。つまり、エンド・ユーザーの使い勝手や満足ではなく、情報システム部門からの要求仕様を満たすことが目的となります。ここに、現場のユーザーとSI事業者のゴールの不一致が生まれることになります。ここにこそ、SIビジネスの本質的な問題があるのです。


情報システム部門も業務の現場を十分に斟酌することなく仕様をまとめてしまいますから、できあがったシステムはユーザーの使い勝手を満たしたものではありません。また、ウォーターフォールですから、仕様を決めてから開発に着手するので開発をしている期間に業務が変わり、要求仕様も変わることを想定していません。当然、できあがったシステムはユーザーの要求を満たしたものではなくなっています。


使い勝手が悪い、この機能はもう必要ない、こんな機能が新たに必要になった・・・といって改修を求めます。情報システム部門の担当者は、瑕疵担保を根拠に現場が納得いくまで改修を求めます。支払いが人質に取られているわけですから、SI事業者はそれに従わざるを得ません。


ユーザー企業の情報システム部門は、とにかく作らせてみて、問題があれば瑕疵担保の範囲で何とかすればいいと考えています。SI事業者はそんなユーザー企業の情報システム部門を信頼できません。


SI事業者もまた、業務の現場を知らないので、強いことがいえません。また、情報システム部門の担当者をいらだたせることは得策ではありません。結局は発注者の言いなりになり、利用する現場の満足に気が及ばないままに物事が決まってしまうのです。


そんな、お互いの努力不足と相互不信の構図が、今のSIビジネスに内在していると思っています。このやり方をどう変えるかです。この関係を変えなければ、SIビジネスに未来ははありません。




ところが、こういった旧態依然としたやり方で閉塞感を感じているといいながらも、新しいことに踏み出すことを恐れている、いや、未だこのままでも何とかなると思っているSI事業者の経営者やマネージメントが少なからずいる現実。そろそろヤバいのではないかと気付いて欲しいのですが・・・。


当然、そういう取り組みには、優秀な人間を投入しなければ、ことが進みません。しかし、それをやらないのです。


そういう企業の言い訳は、「あいつは優秀だから現場から抜けない。お客様に迷惑をかけるから(=彼で個人力でもっているので、お客様の現場から抜くと仕事を切られるから)」という決まり文句。ならば、若手の未熟ながら志の高い人を出せないかというと、それもそこそこ優秀で単価も安く、文句も言わず残業もしてくれるので現場からは抜けないという・・・そうこうしているうちに、そういう優秀な若手は、結局会社を辞めちゃうんですよね。


じゃあ、どうすればいいのかと言うことですが、残念ながら絶対といえる正解はありません。ただ、以前、このブログでも取り上げた、「収益モデルとしてのSI」と「顧客価値としてのSI」という視点を持ってみてはどうでしょうか。


また、次の図にもあるように、人月単価の積算だけではない収益モデルもあるように思っています。




開発の手法もウォーターフォールに固執するのではなく「現物実証主義と徹底した顧客志向」を目指すアジャイル開発に現状を打開する突破口を見出してはいかがでしょうか。事実、「アジャイル型請負ビジネス」で成功を収めている企業もあります。


とにかく、そういうチャレンジを片手間ではなく、事業プロジェクトとして、投資してやっていくべきです。アベノミクスで一時的に仕事が増えても、SIビジネスの本質的な構造を自ら破壊し、変えていかない限りその次はないのです。


「分かっているけど、簡単にはできませんよ。」


そういう発言をする人たちは、過去の成功体験に引きずられている人たちです。過去の成功法則が通用しない今、その基準でこれからの戦略を考え、善し悪しを判断すること自体無理があることを自覚すべきです。


若い人たちはもっと柔軟です。そして、真剣に会社や自分の将来を憂いています。そういう人たちに自分たちの将来を、自分の責任で描かせてみてはどうでしょうか。どうせ彼等の時代が来るのですから・・・


偏見や過去の栄光を棚上げし素直な気持ちで彼等にチャンスを与えてみてはどうでしょう。それは、会社の未来のためであり、そして、彼等自身の成長のための投資なのです。


過去の成功の延長線上に未来の成功はありません。この現実を素直に受け入れ、真剣に向き合うべき時期なのかもしれません。



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