未来への筋道を描けない事業戦略でいいのだろうか

斎藤昌義(さいとう まさのり) 2013-08-10 14:00:00

「以前コンサルタントに入ってもらい、次期事業計画を部長や本部長クラスの人たちと議論したことがあるのですが、うまくできませんでした。一般的というか常識的というか、インパクトに欠けるものだったんです。」


ある大手SI事業者の事業企画をご担当の方から伺った話です。実は、このような話は、他でもいくつか伺ったことがあります。


私は、そのひとつの理由として、「ITトレンド」を追求しないままに議論したためではなかったかと想像しています。


例えば、昨今の「ITトレンド」として、まず引き合いに出されるのは「クラウド」です。このクラウドの普及がITビジネスに大きな変化をもたらしつつあるという論が広く語られていますが、それだけでは片手落ちです。なぜ、クラウドがITトレンドとして注目されるようになったのでしょうか。そこに、トレンドを生みだすエネルギーの源泉があるのです。ビジネスは、これに応えなくてはなりません。手段であるクラウドにどう向き合うかだけでは、ビジネスのイニシアティブを取ることはできないのです。


テクノロジーがすばらしいのではなく、そのテクノロジーを必要とするユーザー・ニーズがあったからこそ、クラウドという手段への関心が高まっているのです。


クラウドという手段に関心が持たれ、先駆的な企業により採用されるようになった結果、さらにクラウドを進化させようとするモチベーションが高まりました。その結果、さらによりよいものが生みだされ、ユーザーの関心も一層高まり普及してきました。このサイクルこそが、クラウドのITトレンドなのです。




では、何がクラウドへの関心を高める切っ掛けとなったのでしょうか。私は、リーマンショックと東日本大震災だったと考えています。このふたつの出来事が、ユーザー企業のIT投資への意識や戦略を大きく変えました。


振り返れば、ITバブル崩壊以降の低迷期を脱し、何とか明るい兆しを取り戻しつつあったまさにそんなときにリーマンショックが起こりました。プロジェクトの延期や中止が相次ぎました。


その後、リーマンショックのほとぼりも冷め、景気は持ち直しはじめました。しかし、一旦財布の紐を絞めてしまった以上、そう簡単に元に戻すことはできません。


ITは業務の効率化やコスト削減の手段ではあっても、直接的な収益の手段ではないと考える企業も少なくありません。そういう企業にとってITは、コストであり削減の対象でしかないのです。リーマンショックで緊縮財政が定着した企業にとっては、例え景気が回復したからといって、すぐに元に戻すなど、許されるはずはありません。


そして、東日本大震災。再びプロジェクトは先送りされます。このようなIT投資の不連続な凍結や先送りのため、ユーザー企業の情報システム戦略は混乱し、適切な投資のタイミングを失ってしまったとも言えます。


業務部門から見れば、ビジネス・サイクルの短期化により、要求仕様を確定してもすぐ変わってしまい、長期間の開発を前提とするシステム開発や大規模なインフラ投資のリスクは、これまでになく高まっています。その結果、当面必要となる最低限の業務や機能に限定したシステムを構築することが常識となったのです。また、東日本大震災は、情報システムの災害対策(DR)の必要性を強く意識させる切っ掛けともなりました。

  • 必要なとき必要なだけを調達し、いつでも手放すことができる。
  • 長期固定化される資産を保有する必要がない。
  • 開発や運用の負担を軽減できる。

クラウドはこのような変化に対応する手段として注目されるようになったと考えられます。


クラウドに限らず、新しいテクノロジーやビジネス・モデルの出現は、ユーザー・ニーズの変化の裏返しです。テクノロジーの進化は、この変化を加速させるものです。この関係こそが、「ITトレンド」なのです。


「クラウドの普及に対応して、どのようなビジネスを考えるべきか」ではなく、「顧客のニーズの変化にどう対応するか」を考えることが優先されるべきでしょう。クラウドは、そのひとつの手段です。


ITトレンドを知る」とは、「新しいテクノロジーの仕組みを知ること」と同義ではありません。お客様のビジネス環境やニーズにどのような変化が生じているのかを知り、新しいテクノロジーが求められる理由やもたらされる価値を理解することです。次にそのテクノロジーが、お客様のニーズにさらなる影響を与え変化を促してゆくといった、大きなサイクルを理解することなのです。


冒頭で常識的な内容に留まってしまった理由としてITトレンド」を追求しないままに議論したためと申し上げたのは、このトレンドのサイクルについての議論を深めることなく、一般的な経営論や計画策定の方法論に沿って作業を進めっていったためなのではないかと考えたからです。


リーマンショックや東日本大震災は、ユーザーのビジネス・ニーズに大きな変化をもたらしました。クラウドはこの変化への対応手段として注目を浴びることになりました。そこにモバイル・デバイスの普及が相まって、クラウドのトレンドは台風の渦のように急速に拡大しています。


この渦の内側からその内部構造であるテクノロジーを理解する必要があります。同時に、台風の遥か上空から、大きな構造と進路を見極める必要があります。そして、これから何を巻き込み、どのような影響を私達の日常に与えようとしているのかを俯瞰する必要があります。


事業戦略は、こういう視点を持つことから始めなくてはならないのでしょう。


ITトレンドは、クラウドだけではありません。ストレージやストレージ、セキュリティや開発手法など、昨今注目すべきITトレントは多岐にわたり、しかもお互いに影響し合いながら変化しています。


それらを知ることなくして、未来への筋道を描くことは、できないように思います。


■【ITソリューション塾・第14期】日程と内容が決まりました!


開始は10月2日(水)から、

毎週水曜日18:30-20:30

全10回です。


今回もこれまで同様、テクノロジーやビジネスの最新トレンドを抑えつつも、表層的なキーワードを追いかけるのではなく、トレンドが生みだされた歴史的背景や顧客価値など、トレンドの本質を抑えることを力点に置くつもりです。


新たたテーマや改善点としては・・・

  • 仮想化をSDxの視点で捉え直しそのビジネス価値を整理する。
  • SIビジネスに危機感が漂う中、現場価値の徹底追求と現物主義により、顧客満足と高い利益を実現している「アジャイル型請負開発」の実践事例の紹介。
  • ストレージとデータベースのテクノロジーの大きな変化がITのプラットフォームやアプリケーションの開発をどう変えるのか。
  • ビッグデータの本質と新しい動きを踏まえたビジネスの可能性。
  • セキュリティやガバナンスの原理原則とクラウド・ファーストに向けた取り組み。
  • システム・インテグレーション崩壊とポストSI時代のビジネス戦略。

・・・など、これからの変化を先読みしつつ、その次の手を考えるヒントを提供したいと考えています。


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※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

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