「営業プロセス」と「営業活動プロセス」

斎藤昌義(さいとう まさのり)

2013-08-24 07:00

SFAは導入したけど、営業力の強化に結びついていません。」


こんな話を伺うことがあります。しかし、これはもっともな話で、本来SFAは、営業個々人の営業力を強化するための手段ではありません。営業管理者が、達成目標の予実や進捗状況を把握するための手段です。


確かに、SFAを利用すれば、目標予算に対する現状や見通し、進捗段階毎の案件数や数字の動きを「見える化」することで、課題の存在を顕在化させてくれます。その課題への迅速、適切な対応ができれば、営業活動の生産性や勝率は高まります。その意味においては、「営業力強化のツール」と言う説明も間違えではありません。


しかし、その役割を果たすためには、次の2つの前提がクリアされなくてはなりません。

  • 営業担当者が、案件状況が変化するたびに即座にデータを入力してくれること。
  • 進捗段階の判断に主観を交えず、客観的事実に基づいて判断できること。


 前者についてですが、「SFAは、“営業管理者”が案件の進捗段階と予実を管理するツール」でしかなければ、営業担当者とっては、「SFAは、管理者への報告手段」でしかなく、「やらされ感」を抱いてしまいます。結局、「報告のための報告」となり、月末「集計」の前に駆け込みで入力するようなことになってしまいます。これでは、SFAにタイムリーな状況把握の役割を期待することはできません。


また後者ですが、各案件が、進捗段階の境界線のどちらに位置するのかの判断を主観に頼ってしまうと、報告者ごとに判断基準のばらつきが生じ、報告の精度が落ちてしまいます。


あくまで個人的な経験によるものですが、一般的に営業担当者は、案件の進捗状況をポジティブに評価する傾向が強い気がします。実際、案件毎のやるべきこと、確認すべきことができているかどうかを個別に聞いてみると、「あとで何とかするつもりでした」、「まあ、なんとかなりますよ」、「わすれてました」といった話も多く、到底その段階の案件ではないということも少なくありません。


営業管理者が、営業担当者の報告を鵜呑みにし、そのまま集計してしまうと予実の乖離が大きくなりすぎてしまいます。そこで、営業管理者は、SFAのデータを一旦EXCELに移し替え、案件毎、あるいは、営業担当者の個別の“事情”を考慮しつつ、主観でフォーキャストを調整し、報告をまとめている場合も少なくないようです。


SFAが生まれた米国では、営業は、「会社の看板を背負った個人事業主」のような存在であり、コミッションが稼ぎの大半を占めることも珍しくありません。そのため、管理者への報告は、自分の収入に直結しており、当然の仕事であるという意識が定着しています。また、報告の精度が低ければ、営業としての資質を問われます。個人事業主としてのプロ意識とでもいうべきでしょうか、精度の高い報告が集まりやすい状況でもあります。


このようなコミッション型、個人責任型のビジネス文化を背景に、彼等の報告業務の生産性を上げるためのツールとしてSFAは普及してきました。管理者は、その結果を集計することで、組織全体の予算の達成状況や見通しを精度良く把握することが可能になっているのです。


しかし、我が国においてそのような文化はありませんでした。確かに営業目標はありますが、それは個人単位ではなく組織単位であり、数字が直接個人の収入と連動しない固定給が一般的です。


「ちゃんと報告しなければいけないことは分かってはいるんですが・・・」という意識はあっても、「ちゃんと」報告するモチベーションを生みだせない現実があるといえます。


SFAは導入したけど、営業力の強化に結びついていません。」という言葉には、このような背景があるものと、私は考えています。


「だからSFAを導入する意味はない」などと申し上げるつもりはありません。むしろ、IT市場が成熟期に入り、案件獲得がこれまでにも増して難しくなりつつある中、営業活動の生産性と勝率の向上は、これまでにも増して求められています。そのためには、案件の発掘から受注までの「営業プロセス」の進捗段階きめ細かく見える化し、タイムリーな対応を確実に行えなくてはなりません。


ところで、SFAが前提としている「営業プロセス」とは何でしょうか。私は実は、ここに問題の本質があると考えています。


一般なSFAが前提とする「営業プロセス」は、組織の目標予算を達成することを目的に進捗段階を区分した枠組みで、次の観点を把握できるように作られています。

  • どこまで達成されているのか
  • 今後どれだけ達成する必要があるのか
  • 進捗段階(パイプライン)ごとの案件数と見込数字

しかし、先にも申し上げましたが、この「営業プロセス」を営業担当者の視点でみれば、管理のための枠組みでしかなく、それを自分で入力し報告することにメリットがありません。


そこで、視点を変えて営業活動における「受注までに必要なアクション」をひとつひとつのプロセスとして定義し、それを時間軸に沿って整理してみてはどうでしょうか。つまり、「営業が受注までに行うべきアクション」を一覧にまとめたものです。これが、先週のブログで紹介した「営業活動プロセス」です。




「営業活動プロセス」は、案件を受注するためのアクション一覧表であり、次の点を把握するために作られています。

  • 行うべきアクションがどこまで実行されているか
  • 今後どのようなアクションを行う必要があるのか
  • 行うべきアクションに抜けや漏れはないか

下の図に「営業プロセス」と「営業活動プロセス」の違いを整理してみました。




つまり、「営業活動プロセス」を確認すれば、案件獲得までのアクションの抜け漏れを知ることができ、手堅く確実に営業活動をすすめてゆく手助けとなるはずです。また、今なすべきことに気付かせてくれますので、タイムリーな判断と行動を促し、勝率を高めることにも役立つはずです。


進捗段階の境界線は、「このアクションができているかできていないか」という事実に基づいて客観的に判断できますから、主観によるばらつきも排除されます。


この「営業活動プロセス」をチェックリストの形にして、案件毎にこれをチェックするような仕組みにすれば、営業担当者にとってもメリットがあります。結果として、案件ごとの営業活動の状況が高い精度で入力されますので、それを集計すれば、精度の高いフォーキャストがまとまるのではないかと考えています。


下の図は、「営業プロセス」と「営業活動プロセス」の関係を表したものです。




「営業活動プロセス」での評価した結果は、「営業プロセス」に送られ集計されます。そこで見える化された結果をみて、管理者は、必要な指示を部下に下す。部下は、再び、「営業活動プロセス」に照らし合わせながら、自分の営業活動を進め、その結果確認のためにチェックリストに入力すると、案件の進捗状況が管理者にフィードバックされる。


このようなサイクルが実現できれば、管理者にも担当者にもメリットのある仕組みができあがるのではないかと考えています。


先週もご紹介したアプリ(9月末頃・リリース予定)は、このサイクルを実現するためのものです。まだまだ、試行錯誤を進めている最中ではありますが、日本のIT営業の実情に即した仕組みにできればと、楽しみながら鋭意努力中です。


■【ITソリューション塾・第14期】ご検討中の方はお知らせください m(_ _)m


ITソリューション塾・第14期】が、10月2日より開催されます。


今回も既に多くのお申し込みを頂いており定員に近づきつつあります。

本当にありがとうございます。


さて、お申し込み頂きお断りすると言うことがないように、

もしご参加をご検討の場合は、正式のお申し込みの前に、

ご意向だけでも事前にお知らせ頂ければ幸いです。


何卒よろしく御願いいたします。


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ITソリューション塾・第14期】の内容


10月2日(水)から毎週水曜日18:30-20:30  全10回


今回もこれまで同様、テクノロジーやビジネスの最新トレンドを抑えつつも、

表層的なキーワードを追いかけるのではなく、トレンドが生みだされた歴史的背景や顧客価値など、

トレンドの本質を抑えることを力点に置くつもりです。


新たたテーマや改善点としては・・・


・仮想化をSDxの視点で捉え直しそのビジネス価値を整理する。

・SIビジネスに危機感が漂う中、現場価値の徹底追求と現物主義により、

 顧客満足と高い利益を実現している「アジャイル型請負開発」の実践事例の紹介。

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 ITのプラットフォームやアプリケーションの開発をどう変えるのか。

・ビッグデータの本質と新しい動きを踏まえたビジネスの可能性。

・セキュリティやガバナンスの原理原則とクラウド・ファーストに向けた取り組み。

・システム・インテグレーション崩壊とポストSI時代のビジネス戦略。


・・・など、これからの変化を先読みしつつ、

   その次の手を考えるヒントを提供したいと考えています。


ご検討ください。


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※このエントリはZDNETブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNET編集部の見解・意向を示すものではありません。

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