営業力を強化することに、本当に意味があるのでしょうか?

斎藤昌義(さいとう まさのり) 2013-09-21 12:00:00

9月19日に開催された「SIer向けビジネスセミナー」の冒頭、SI事業者へのアンケート調査の結果として、「営業力の強化」、「営業人材の育成」が、最も重要な課題であることが報告されていました。 しかし、本当にそれで業績を伸ばすことができるのでしょうか。

この報告を聞きながら、「それ以外に思いつかなかったから・・・」という本音が、裏に隠れているのではないかと考えてしまいました。

昨今の調査会社各社のレポートを見ていると、どれもここ数年の情報サービス産業の市場規模は、年平均1%にも満たない成長率です。このような市場で成長を維持してゆくためには、競合他社の市場を侵食し、取り込んでゆかなければなりません。 しかし、どこも横並びのサービスしか提供できないのであれば、喰いつ喰われつを繰り返すだけであり、事業の拡大は期待できません。むしろ、コストのたたき合いで体力勝負を強いられ、お互いに疲弊してゆくだけのことです。

特に地方では、お客様とSI事業者とは強い相互依存の関係にあり、シェアも固定化しています。多少のプレーヤーの交代はあっても、全体としては大きく変わらない状態が続いています。 また、地方の市場規模では事業が成り立たず、都市部の大手SI事業者の下請けとして受託していることも少なくはありません。しかし、オフショアとの競合は避けられず、例え仕事はあっても十分な利益の確保は、ますます難しくなってゆくでしょう。

このような構造をそのままにして、営業力を強化することに、どれほどの効果が期待できるのでしょうか。

クラウドの普及が、これまでの事業構造を大きく変えてゆくことについても、目を向ける必要があります。 3年前であれば、リース更改の次の選択肢は、同様の機器を購入し改めてリースにかけることでした。しかし、クラウドのサービス品質が大幅に向上し、今では、購入・リースに代わる有力な選択肢となりました。そうなれば、システムの販売・構築・運用の多くは、クラウドに置き換わることになります。

基幹システムの実績とエコシステムが強みに加わったAWS(大谷イビサ/TECH.ASCII.jp)

この記事には、そんな変化の様子が端的に示されています。

ユーザー企業の情報システム部門は、ビジネス・サイクルの短期化やグローバル対応など、市場や経営から迅速な対応を強いられています。その一方で、IT予算は厳しく押さえられています。 クラウドのサービス品質向上と普及は、ユーザー企業に、これまで同様の自社所有を前提とした情報システムのあり方を変えることことへの現実的な選択肢を与えようとしています。

また、クラウド、モバイル、インターネットの広がりは、技術的な難しさを隠蔽しつつITの利活用の裾野を大きく拡げています。その結果、IT利用に関わる意志決定を業務部門ができるようになり、ITの専門集団、あるいは、システムを管理、開発、運用するための組織である情報システム部門の存在意義も問われ始めています。これまで同様に情報システム部門を、唯一のお客様としてきたSI事業者にとっては、お客様を失うことにもなるのです。

「変化は感じています。何とかしなければいけないことは分かっています。」とSI事業者の方は語られますが、その対策が、「営業力の強化」、「営業人材」の育成であるとすれば、まったくコトの本質を見誤っていると言わざるを得ません。

人月単価の積算を前提とした収益モデルを変えるべきです。営業ではなくエンジニアのあり方を変えるべきです。「まだ何とかなる」という経営者の意識を変えるべきです。

人月単価の積算を前提とした収益モデルをどのように変えるべきかについては、「システム・インテグレーション崩壊のすすめ」 に詳しく書きましたので、そちらをご覧ください。

エンジニアの育成については、次の図をご覧ください。

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「作らないシステム・インテグレーション」つまり、マッシュアップ、高速開発ツール、アジャイル開発など、業務現場のニーズを短期間で確実に開発し、本番に移行するための手段が整いつつあります。それが、お客様の幸せであれば、当然その流れを押しとどめることはできません。そこに求められるエンジニア像は、複合スキルを持つ「多能工エンジニア」と「テクノロジー・スペシャリスト」に二分されます。

「多能工エンジニア」とは、技術が分かり、業務の言葉でユーザーと会話、交渉できるエンジニアです。あるいは開発が分かり運用が分かるエンジニアです。 JavaやDBMSのエキスパートだけでは、オフショアと勝負できないでしょう。運用だけしか分からないエンジニアは、クラウドに置き換えられることになるでしょう。 プログラミングできるスキルを持ち、オフショアやクラウドを目利きし、コストパフォーマンスの高いリソースを個別の業務や経営に最適な組み合わせとして提供する。そんなエンジニアを育ててゆくことが必要となるはずです。つまり、ITの専門家として、お客様の業務や経営の相談相手となり、お客様に最適化されたシステムを作り上げるプロデューサーとなることが、オフショアやクラウドとの決定的差別化になるのです。

案件規模が、小さくなる中で、このような多能工エンジニアが、小さなチームを作って、自己完結型で短期間に効率よく仕事をこなしてゆく、そんなアジャイル的アプローチが可能な人材の育成と運用の仕組みを作ってゆくことが必要となるでしょう。

「テクノロジー・スペシャリスト」は、そんな多能工が利用するフレームワークやマッシュアップ部品などのテクノロジーそのものを開発してゆくエンジニアです。高度な技術に精通し、技術面でのイニシアティブを提供してゆくエンジニアです。

経営者の意識については、もはや言うまでもありません。このような取り組みを進めてゆくには、経営者自身が、このビジネスの現実を避けることなく直視し、強い決意と意志で取り組むしかないのです。 「まだ大丈夫、未だ何とかなる」で対策を先送りにしてはいないでしょうか。あるいは、「対策をしているふり」をして、何の成果も上げていない・・・そんなことはしていないでしょうか。

『新規事業』という勝算なき愚行で会社をダメにする人たち」という記事にこのあたりは、詳しく書きましたので、よろしければご覧ください。

営業力とは、このような取り組みを前提としない限り、強化することなどできません。売るものに取り立てて魅力がないのに、営業の笑顔と押しの強さでビジネスを大きくできるほど、もはや、この市場は寛容ではありません。

「営業力の強化」、「営業人材の育成」が、意味のないことだとは思いません。優秀な営業がいなければ、ビジネスの効率やお客様の満足を高めることは難しいでしょう。しかし、「業績の拡大=営業力の強化=営業職の能力育成」ではないのです。 全社の戦略や施策の中で、営業力を位置付け、ふさわしい人材を育成することが、必要なのです。

■【ITソリューション塾・第14期】定員を増やしました!!!

【ITソリューション塾・第14期】が、10月2日より開催されます。既に当初予定した定員を超えるお申し込みを頂戴いたしましたが、会場を拡げることができました。ただ、こちらもすぐに定員になることが予想されますので、早々にご意向だけでもお知らせいただければ幸いです。

【ITソリューション塾・第14期】の内容

JUKU14

10月2日(水)から毎週水曜日18:30-20:30 全10回

今回もこれまで同様、テクノロジーやビジネスの最新トレンドを抑えつつも、
表層的なキーワードを追いかけるのではなく、トレンドが生みだされた歴史的背景や顧客価値など、
トレンドの本質を抑えることを力点に置くつもりです。

新たたテーマや改善点としては・・・

・仮想化をSDxの視点で捉え直しそのビジネス価値を整理する。
・SIビジネスに危機感が漂う中、現場価値の徹底追求と現物主義により、
顧客満足と高い利益を実現している「アジャイル型請負開発」の実践事例の紹介。
・ストレージとデータベースのテクノロジーの大きな変化が
ITのプラットフォームやアプリケーションの開発をどう変えるのか。
・ビッグデータの本質と新しい動きを踏まえたビジネスの可能性。
・セキュリティやガバナンスの原理原則とクラウド・ファーストに向けた取り組み。
・システム・インテグレーション崩壊とポストSI時代のビジネス戦略。

・・・など、これからの変化を先読みしつつ、その次の手を考えるヒントを提供したいと考えています。ご検討ください。

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