情報サービス産業は斜陽なのか?

斎藤昌義(さいとう まさのり) 2013-09-28 16:00:00

「我が国の情報サービス産業は、斜陽産業なのかでしょうか?」

私は、この言葉に真摯に向き合う必要があると思っています。

ITそのものの需要が衰えることはないでしょう。むしろこれまでにも増して、IT利用のニーズは高まり、そこに求められるシステム資源やデータ量は、飛躍的に増大することを疑う人はいないでしょう。

しかし、そのことが、我が国の情報サービス産業の成長に結びつくとは限らないと言うことです。その証拠に、多くの調査会社の市場予測を見れば、ここ数年は、1%にも満たない成長率です。その理由として、次のことが考えられます。

  • テクノロジーの進歩の速度がデータ量や処理能力の増大を吸収してゆくから。
  • テクノロジーの進化が、テクノロジーの難しさを隠蔽化し、生産性の向上や技術的専門性を必要とする機会が少なくするから。
  • 情報サービス産業の前提が「所有」から「使用」に移管することで、情報サービス産業の寡占化と海外シフトが進むから。

・テクノロジーの進歩の速度がデータ量や処理能力の増大を吸収してゆくから。

先日iPhone5Sが発売されました。そこで使われているCPUの能力は、初代iPhoneが発売された2007年からわずか6年で40倍に向上しています。グラフィックスの処理能力は56倍です。ストレージ、ネットワークなども同様にその性能を著しく向上させてきました。このチャートは、その事実を物語っています。

このようなハードウェアの性能向上に加え、ITの能力を飛躍的に向上させたものがソフトウエア・アルゴリズムです。NoSQL、Hadoopなどの大規模処理を効率よく行う技術だけではなく、様々なアプリケーションやシステム・レベルでのアルゴリズムのイノベーションが、ハードウェアの処理能力向上とのかけ算で向上しているという事実です。

その結果、拡大する処理能力やデータ量への需要を吸収してしまうため、需要の増大が、そのままビジネスの拡大に結びつかないのです。

・テクノロジーの進化が、テクノロジーの難しさを隠蔽化し、生産性の向上や技術的専門性を必要とする機会が少なくするから。

1990年代前半までのPCは、DOSプロンプトが分かっていなければ使いこなすことはできませんでした。しかし、昨今のスマホやPCは、技術的な専門知識を必要としません。その結果、利用者の裾野を拡げることに成功しています。

アプリケーションの開発においても同じことがいえます。開発のためのフレームワークが普及し、システムを構築するための様々な「部品」が、ネット上広く公開されています。しかもそれらの多くは、無償で手に入れることができます。

その結果、レゴブロックを組み合わせるようにシステムを開発できる時代を迎えています。このようなマッシュアップ開発では、プログラミング言語を駆使する機会は大幅に減り、開発の生産性も著しく向上します。また、自動化や自律化の進化は、高度な専門技術を必要とする機会を減らしてゆくでしょう。

「作らないシステム開発」が、益々広がることとなれば、開発工数=人月の増大は見込めません。当然、これを前提とする収益モデルは縮小せざるを得ないのです。

・情報サービス産業の前提が「所有」から「使用」に移管することで、情報サービス産業の寡占化と海外シフトが進むから。

ハードウェアやソフトウェアを販売する。商用パッケージの導入を支援し、カスタマイズや保守の作業を請負う。運用要員を派遣する。クラウドはこのような作業の一部を取り込んでゆくことになるでしょう。

どこの企業でもクラウド・サービスを手がけられるわけではありません。それは、技術的問題ばかりでなく、コストパフォーマンスが重要な競争要因となるためる規模のメリットも追求しなくてはなりません。自ずと、サービス提供者の寡占化が進むことになります。

クラウドは、国境という壁を持ちません。そのため、グローバルな競争に対抗できなければ、自らクラウド・サービスを手がけたとしても収益を確保できる保証はないのです。

また、クラウドに関わる基幹的テクノロジーは、その多くが米国から持たされています。しかも、その多くがオープン・ソースとして無償で手に入れることができます。そうなると、構築や販売といったビジネス領域は限られてきます。製品やサービスで競争優位を築くことも難しいでしょう。

このような状況が、今後の情報サービス産業の将来にのしかかってくるのです。

我が国の情報サービス産業は、斜陽産業なのかでしょうか?

少なくとも、これまでの収益構造を前提とする限りにおいては、「イエス」と言わなければなりません。産業構造を変えてゆかなければならないことは明白です。

スクリーンショット 2013-09-28 12.10.20

 ではどうすればいいのでしょうか。正解はひとつではないでしょう。それぞれの企業が持つ人材や顧客によっても答えは異なります。ただ、その答えを見出す上で、カナダの経営学者であるヘンリー・ミンツバーグ(Henry Mintzberg)教授の教えが役に立つかもしれません。

新たな事業に参入するとき、一般的には、市場を調査し計画を策定します。しかし、思い描いたとおりの結果が得られる保証はなく、むしろうまくいかないことの方が多いのが現実です。これは、予期せぬ事態や問題が生じるからだけではありません。事業を始めるに当たり、経営者を説得できる計画を作ろうと、調査を都合良く解釈し魅力的な事業計画を作り上げてしまことも、理由と考えられます。

どちらにしても、このように特定の状況を想定して作り上げた「意図的戦略」は、その実行段階でいろいろな障害につまずくことになります。その障害を切っ掛けに、新たな気付きを得て戦略をどんどんと修正してゆき、結果として、その時々の最適解を見出してゆく取り組みが必要なのです。

新たな気付きから生みだされた戦略は「創発的戦略」と呼ばれています。この「創発的戦略」は、雑草のようなもので、常にわき起こってくるのです。これをくみ取りながら、「創発的戦略」は、やがて「意図的戦略」へと置き換わってゆく。これを不断に繰り返してゆくことが、戦略を成功させることであると、ミンツバーグは説いています。

社会やテクノロジーの不確実性が、これまでにも増して高まる中、「意図的戦略」に固執することは、現実的でありません。むしろ、積極的に障害に直面する機会を増やし、「創発的戦略」へと変化させてゆく柔軟性が必要です。

だからこそ、積極的に「意図的戦略」をまずは組み立て、実践してみるべきなのです。その一歩を踏み出さない限り、新しい収益の基盤を手に入れることはできないのです。

スクリーンショット 2013-09-28 12.09.50

■ 関連する記事

■ BCNセミナー(9月19日)講演でつかったスライドを公開しました。

■ Facebookで、是非ご意見をお聞かせください。

※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。