「どうすればこれまでの事業を守れるだろうか?」という愚問

斎藤昌義(さいとう まさのり) 2013-10-12 05:00:00

「どうすればこれまでの事業を守れるだろうか?」

多くのSI事業者にとって、大きな問題です。特に中小のSI事業者にとっては、死活問題です。

クラウドの出現が原因ではありません。「相互不信」と「ゴールの不一致」というSIビジネスに内在する「構造的不幸」が、根本的な原因なのです。この点については、「システムインテグレーション崩壊のすすめ」で詳しく書かせていただきましたのでそちらをご覧ください。

換言すれば、クラウドが出現したから大変なことになろうとしているのではありません。SIビジネスに内在する「構造的不幸」がまず先にあり、クラウドを使えばうまく解決できるのではないかという想いが、クラウド・シフトという動きの原動力となっているのです。その動きが、これまでの人月単価の積算を前提とするビジネス・モデルを浸食し始めているのです。

この「構造的不幸」が、SIというビジネス・モデルに起因するのでれば、それを変えることで、この事態を解消することができます。

しかし、現実には、その動きは緩慢です。その理由のひとつは、SI事業者にとって、クラウドが既存事業と利益相反になってしまうからです。

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このチャートにもあるように、個別受託開発、ハードウェア・ソフトウェアの販売、商用パッケージの導入支援、運用管理業務などが、クラウドに置き換えられるからです。自らクラウド・サービスの提供を手がけるSI事業者であっても、一時的な売上や利益の減少は避けられません。ましてや地方の中小事業者にとっては、大きな痛手になります。

中堅中小のユーザー企業はクラウドに消極的だという調査レポートをよく目にしますが、その理由は、自社の情報システムを丸々任せられているSI事業者が、自分たちにとって利益相反になるような提案をしようとはしないからです。そのため、システムを任せ切っているユーザー企業は、クラウドに消極的にならざるを得ないのです。

大手ユーザー企業でも根底にあるメカニズムは変わりません。例え情報システム部門に専任者がいて、戦略や施策を企画し推進できる体制があっても、開発や運用の実態は、SI事業者に大きく依存しています。彼等が、自分たちにとって利益相反になるクラウドについて、快い提案をするはずはありません。そんなクラウドを積極的に採用しようという気にはならないでしょう。

このようにSI事業者が抱える既存事業との兼ね合いの難しさが、クラウドへの取り組みを消極的にしているとも考えられます。

また、ユーザー企業の情報システム部門にとっても、クラウドに積極的になれない理由があります。

クラウドの採用は、システムの構築や運用に関わるこれまでの自分たちのスペシャリティの必要性を低減させることになります。自分たちの仕事を奪うのではないかという懸念を生みだしているのです。

このような事情からSI事業者と情報システム部門の利害が、クラウド対抗で一致していると考えるのは、考えすぎでしょうか。

しかし、その一方で、スピードやコストを求めるユーザーが、情報システム部門の介在無しにクラウドを利用する動きも広まっています。そうなれば、情報システム部門の役割はどんどんなくなってゆくことになります。情報システム部門にとっては、自分たちの仕事の領分が侵されていくことになるのです。

経営的に見ても、クラウドの利用には大きなメリットがあります。ひとつは、TCO削減への期待です。下の図をご覧ください。

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また、資産を減らすことは、ROIやROAの改善にも寄与するはずです。

この現実に真摯に向き合うことでしか、この事態に対処することはできません。キーワードは、 “「攻めのIT」へのシフト”です。

「攻めのIT」へのシフトとは、システム・インフラやその運用、購買、財務会計、電子メールなどの基盤となるシステム、すなわち「守りのIT」をクラウドにシフトさせ、CRM、PLM、SCM、マーケティングなどの競合優位の原動力となるコア業務領域へ予算や人材をシフトさせることです。

もちろん、スキルの育成は大きな課題です。しかし、経営が求めるのは、攻めのITです。そういう分野で情報システム部門が提案力や対応力を磨けば、情報システム部門の存在価値を高めることができるはずです。そのための痛みと苦労を避けることはできません。情報システム部門長は、その方針を明確に打ち立て、経営や部下にコミットすることが大切です。

SI事業者は、そんな情報システム部門を支援し、「攻めのIT」に貢献する存在を目指すべきなのです。

クラウドに「守りのIT」をシフトし、自分たちの予算や人材を「攻めのIT」にシフトさせる。この取り組みにより、情報システム部門もSI事業者も大切な役割を担うこととなり、ITの存在価値は高まります。このようなユーザー企業とSI事業者の共通の利害を追求してはどうでしょう。

「どうすればこれまでの事業を守れるだろうか?」という発想を一旦棚上げし、「もし既存事業がなければ、何をすべきだろうか?」という発想をしてみてはどうでしょう。

そこに描かれた「あるべき姿」と現実には大きなギャップがあるかもしれません。しかし、そのギャップを「見える化」しない限り、対処の方法は見いだせません。

「どうすればいいのだろう?」と今の航路を進み続けるだけでは、いずれ嵐の大海に沈み行く船となることは、もはや明白なのです。

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※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

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