SIerのクラウドは、生き残ることができるのか?

斎藤昌義(さいとう まさのり) 2013-11-24 06:00:00

「SI事業者が提供するクラウド・サービスは、生き残っていけるのでしょうか?」

ある講義の中でこんな質問を頂きました。私は、次のように答えました。

「これまでのユーザー企業との関係を踏襲したままでのクラウド・サービスは、長続きするとは思えません。」

「イノベーションのジレンマ」の中で、著者であるクリスチャンセンは次のようなことを述べています。

新技術のほとんどは、既存製品の性能を高めてゆくものです。各社はそれを競い、完成度を高めてゆきます。その行き着くところは、市場の求める要求を越えるものとなり、それ以上の性能の向上は、もはや競争力を生みだすことはなくなります。そうなると今度は価格競争となり、市場は拡大しつつも収益を上げることが難しくなります。

時として、同じ市場のニーズをカバーする全く新しい技術が生まれることがあります。この技術は、短期的には既に市場に存在する技術に比べて性能の劣るものでしかありません。しかし、コストが安く、手軽に使え、利便性が高ければ、あまり高い要求を持たないユーザーにとっては、大変魅力的に感じるでしょう。それまでは、必要以上に高機能で高価なものを使わされてきた訳ですから、徐々に新しい技術へと移行してゆくことになります。

新しい技術は、需要の拡大と共に、完成度を高めてゆきます。その結果、既存市場を置き換えるまでに成長し、既存市場が衰退してゆくというものです。

このような技術を「破壊的技術」と言い、この変化がイノベーションであると、彼は述べています。

この法則に照らし合わせれば、まさにクラウドは、従来のITビジネスを置き換えてゆく「破壊的技術」といえるでしょう。

歴史を振り返れば、メインフレームがミニコンやオフコン、PCに置き換わったこともこの法則で説明できます。また、PCがスマートフォンやタブレットに置き換わってゆく流れもうまく説明できます。

新しい技術は、それ以前の技術とは異なる価値観や思想で作られていますから、当然それ以前の価値基準で評価しても「劣っている」、「使えない」、「判断できない」となります。言い換えれば、新しい技術の価値を正当に評価できません。従来の価値体系で仕組みを作り、そこで仕事をしてきた人たちにとっては、それは受け入れがたいものです。

一方で、新しい技術は着々と進化し、もはや従来の技術をも凌ぐ領域へと機能や性能を持つようになるとともに、新しい価値体系のもとで新たな市場やニーズを生みだし、従来の市場を置き換えてゆくことになります。

私たちは、今そんな現実に直面しているのです。

クラウドがもたらすイノベーションを考える時、前提に置かなければならないことがあります。それは、日米におけるITビジネス環境の違いです。

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まず根本的に異なることが、ITエンジニアの所属の違いです。米国では、ITエンジニア300万人の内、72%がユーザー企業に所属しています。一方、日本では、100万人の内、75%がITベンダーやSI事業者に所属しています。米国には、日本のような全てを丸抱えで任せられるSI事業者は存在せず、ユーザー企業が自らリスクを負ってシステム・インテグレーションを行っているのです。

クラウドは、システム資源の調達や構築の生産性を劇的に改善してくれるイノベーションです。いちいちベンダーと交渉して見積もりを取り、発注し、納期を調整し、導入・構築作業や運用のための体制を準備する必要はありません。ECサイトで商品を注文するようにウエブ画面「セルフサービス・ポータル」から必要とするシステムの構成、バックアップやセキュリティなどの運用サービス・メニューを選択し、注文ボタンを押すだけです。手間のかかるキャパシティ・プランも必要ありません。必要なときにオンデマンドで追加、変更ができるからです。

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つまり、米国においては、クラウドはユーザー企業の生産性を大きく改善してくれることになります。一方、日本では、このような業務はITベンダーに任されていることも少なくありません。クラウドの普及はITベンダーの生産性を高めてはくれますが、それは売上や利益の減少をもたらすと共に、リスクはこれまで通り背負わされることになります。明らかに利益相反の関係にあるといえるでしょう。日本で米国ほどにクラウドの普及に弾みがつかない背景には、このようなビジネス文化の違いがあるからです。

我が国では、SI事業者がクラウド・サービスを自ら提供しているところも少なくありません。しかし、そういうクラウドの多くは、「企業個別システムのホスティング・サービス」という性格が強いようです。

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クラウド・サービスと称しながらも「セルフサービス・ポータル」はなく、必要なシステムの組合せや構築、運用は、ユーザー毎にSI事業者が個別に対応しているからです。NISTの定義に従えば、「オンデマンド・セルフサービス」や「迅速な拡張性」という「必須の特徴」を満たしていないものもあります。

だからダメだと言うのではありません。日本のユーザー企業は、これまで構築や運用をSI事業者に任せてきたわけですから、そのような機能は必要ないのです。必要とされないものをSI事業者が提供する意味はなく、それによって生産性が上がれば、案件規模の縮小につながりますから積極的になれないのは当然のことです。

「クラウド」は、本来、持たざるシステムです。必要なときに、必要な資源をオンデマンドで利用してこそ、クラウドの真価が発揮されます。しかし、SI事業者の提供するクラウド・サービスは、自分専用の「クラウド」を占有させるわけです。時には、物理的な資源を固定的に割り当てる場合もあります。これをプライベート・クラウドと称しているわけですが、NISTの定義とは異なるものであり、むしろ「ホスティング」に近いサービスといえるでしょう。つまり、このようなクラウド・サービスは、オンプレミスと同じ価値基準の延長にあるといえます。ユーザー企業とSI事業者が、これまでと同じ関係にあるとすれば、十分に成り立つといえるでしょう。

「クラウド移行に際して、サイオスがユーザー企業をアセスメントすると、移行対象となるアプリケーションは実は4割にとどまるとのこと。残りの6割は、重複しているか、利用頻度や重要度がきわめて低く、捨てるか、並行利用することになるという。PaaSで業務アプリケーションを開発する例も実際は5%程度で、ほとんどは出来合いのサービスや簡単なスクリプトでスピーディにクラウド移行が実現する(サイオスが生々しく語る「クラウドがもたらすSIの終焉)」

こういう現実が、広く受け入れられるようになれば、いずれは従来型ビジネスの構図は成り立たなくなるはずです。また、従来のやり方にこだわる情報システム部門とSI事業者に代わり、エンド・ユーザー部門とクラウドで新しいビジネスを展開するIT事業者が直接関わりを持ち、ビジネスのやり方を変えてゆくことになるでしょう。まさに、新しい価値基準に置き換わり、既存の事業が新しい事業に置き換わってゆく「創造的破壊」が展開されることになります。

クレイトンは、「破壊的技術は、従来とは全く異なる価値基準を市場にもたらす」と述べています。つまり、古い価値基準を持つ市場は衰退し、新しい価値基準を持つ市場が拡大してゆくとすれば、古い価値基準を持つ市場で優れた経営を行っても、いずれは立ちゆかなくなってしまいます。ミニコンで一世を風靡したエクセレント・カンパニーのDECがなくなってしまったことや、かつて世界を席巻した日本の家電メーカーが苦境に立たされていることも、同じ理由といえるのではないでしょうか。

「クラウドは、まだまだオンプレミスにはかなわない。セキュリティもまだまだ不安もあり、運用の自由度も低い・・・」

そんな声も少なくはありません。しかし、それこそが、破壊的技術の出現を意味するものであり、やがては創造的破壊をもたらすことを予見する言葉といえるのではないでしょうか。

「SI事業者が提供するクラウド・サービスは、生き残っていけるのでしょうか?」

ユーザー企業との関係が、従来のままであるとすれば、このビジネスは成り立つでしょう。

「クラウドは基幹業務じゃあ使えませんよ。」

このような考えは、古い価値基準に従った評価です。しかし、クラウドが、新たな価値基準をもたらすとすれば、既存ビジネスは創造的破壊の対象となるはずです。その可能性は、ますます高まってきていると、私は考えています。

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