日本IBMの苦悩と日本の特殊事情

斎藤昌義(さいとう まさのり) 2013-11-30 14:30:00

「IBMの存在感、最近は小さくなりましたね・・・」

私がファシリテーションしたセミナーの席で、地方企業の情報システム部門長から、しみじみと言われました。

日本アイ・ビー・エム(以下、日本IBM)の地方ビジネスが振るいません。今に始まったことではありませんが、最近の元気のなさは、これまでにも増して厳しさを感じています。

昨年7月、日本IBMは営業体制を大きく見直し、地方の営業力強化のために東北(仙台)・中部(名古屋)・関西(大阪)・西日本(福岡)の4支社を設置、これまでのパートナーに任せっきりの地方営業を大きく見直しました。この詳細については、こちらの記事に詳しく書きましたので、よろしければご覧ください。

この背景には、日本における中小企業400万社の圧倒的存在感があります。大企業からの大幅な収益拡大が期待できないなかで、地方の中小企業を新規開拓し、顧客ベースを拡大することで、事業の拡大を図ろうというものです。これは、日本IBMの長年の悲願でもあり、これまでもいろいろと施策が打たれてきたのですが、必ずしも成功してきたとはいえません。この施策もそんな試行錯誤の一環と言えるかもしれません。

詳しく調査したわけではありませんので、偏った見方かもしれません。ただ、地方の日本IBMパートナーやユーザー企業の方から話を聞くと、そこには一貫した課題が見えてきます。

まず、地方の中堅中小ユーザーから耳にするのは、日本IBMに対して中長期にわたって継続して任せられる信頼感と安心感がないと言うことです。

かつては、日本IBMも地方に営業拠点を持ってお客様に直接関わっていた時代もありました。その後、ビジネス・パートナーに地方を任せ、日本IBMは首都圏および大都市圏の大手を担う役割分担へと変えてゆきました。その結果、日本IBMは地方顧客との直接的係わりを無くしていったのです。

中堅中小のユーザー企業にとって、情報システムを自ら企画し、構築や運用する能力や体力を持つところは多くありません。そのため、地元密着のITベンダーに全てを任せきっています。それができるのは、地元に密着し、いつでも相談できる存在としての信頼感や安心感があるからです。

「どうせまた2年くらいしたら営業政策も変わるんじゃないですか・・・」

ある地方ITベンダーの方から伺った言葉です。

地方支社の日本IBM営業の役割は、OI(Opportunity Identifier )です。見込み案件を開拓することが役割です。大規模な案件であれば、日本IBMのOO(Opportunity Owner)と言われる案件の受注に責任を持つ営業が担当します。ただ、大半は小規模案件であり、地場のビジネス・パートナーに任せています。また、見込み案件といっても十分に絞り込まれたものとは限らず、具体的な提案に結びつかないものも多く、結局は、直接やったほうが早いと煙たがられることもあるようです。

日本IBMは地方の開拓を掲げつつも、結局は、営業効率のいい地方の既存大手の守りを受け持ち、中小の新規開拓はそこそこに、これまで通りパートナーに任せる体制が維持されているだけのようにも見えます。

このような状況で地場のユーザー企業に信任を得ることは難しく、パートナーからも煙たがられるようでは、地方の中小企業ビジネスを大きくすることはできないでしょう。

この地方支社体制に転換したことに意味がないものと断じるものではありません。日本の特殊性を鑑みたMartin Jetter社長の熟慮があったものと思っています。しかし、売上や利益が優先され、日本の企業文化や歴史にまで踏み込んだ「お客様やパートナーとの信頼関係」を築くための長期的な視点を欠いているように感じています。

長年つづいてきた三角カレンダー、手帳、ダイアリー、A4フラットカレンダーが2014年度より廃止になりました。私が日本IBMに入社した1982年には既にあったように記憶しています。実用性も高く、長年愛用されているお客様も少なくないでしょう。これを楽しみにしていたお客様にとっては、ますます日本IBMを遠くに感じられるのではないでしょうか。

日本IBMの元気のなさは、地方に留まりません。首都圏においても残念な現実に直面することがあります。

ある中堅のユーザー企業で日本IBMから新しいサービスや製品の説明を受けたときのことです。ユーザー側からは私を含めて4名、これに対して、日本IBMからは説明に関係する製品やサービスを担当する10名を越える営業やエンジニアが同席していました。だれが本件の責任者なのかよく分かりませんでした。自分の担当外の説明はしないように、気を遣っていることもよく分かりました。

私が現役の頃の大昔には考えられないことでした。当時は、お客様を担当する営業とSEが二人で出向き決着をつけてくるのが普通でした。今とはビジネス環境が違いますから、単純に比較することはできませんが、少なくと、お客様担当として「私にお任せください」と言い切る自負と自信はあったように思います。そのことが、お客様との信頼関係の根底にあったように思います。

お客様の期待は自分の課題を解決することです。製品やサービスの個別の説明をばらばらにされても困ってしまいます。しかし、その席では、「組合せは、自分で判断してください」と言わんばかりでした。

このようなやり方は、米国のようにユーザーが自らの責任で製品やサービスを選別しインテグレーションするといった企業文化を前提とするならば、成り立つ話かもしれません。しかし、そうはなっていない日本の企業に米国流のやり方を持ち込まれても、ユーザー企業は戸惑うばかりです(この点については、先週のブログで詳述していますので、よろしければご覧ください)。

日本IBMの友人に話したところ、「日本IBMはお客様が真にグローバル化して頂くことをお手伝いしたいと考えている。だからこそ、このやり方をお客様との関係でも根付かせていきたいと考えているんだよ。」

なるほど、壮大な理想ではありますが、現実とのギャップはあまりにも大きく、ついてゆくことは容易なことではありません。

お客様は、このような現状を「顧客を担当する営業の自覚の欠如」であり「営業の個人力の低下」と受け止めてしまっているようです。

もちろん全ての日本IBMの営業を同じに見ることはできません。様々な制約がありながらも、お客様をしっかりとつなぎ止めている営業を私は何人も知っています。しかし、そういう営業は、日本IBMの施策と日本の現実とのギャップを理解し、個人の力量でこれを埋めるべく努力しているようにもみえます。

このような状況を生みだしている根底には、IBMのGIE戦略があるのではないでしょうか。GIEについて、日本IBMのホームページに次のような説明が掲載されています。

「IBMでは、事業や地域を横断して経営資源を一元化し、真に統合されたグローバル企業を「Globally Integrated Enterprise(GIE)」と定義しました。GIEとは、世界中に展開する活動拠点を一つのインスタンス(Global One)で、統合・最適化することで、あたかも一つの会社と見なし、明確なガバナンスによる迅速な意思決定、事業展開を可能とします。」

「世界中に展開する企業拠点を、あたかも一つの会社と見なし・・・分散化された経営資源を常に最適化した状態に保ち、地球規模での需要予測、供給管理、最適生産を可能とする21世紀型グローバル企業のあるべき姿といえます。」

端的に言えば、「全世界のIBMが全社一丸となって、お客様に最適で最高のサービスや商品を提供します。」と言うことになるのでしょう。一方、地域の特殊性に配慮した個別の施策は行いにくくなるということでもあります。

2001年度の日本IBMの売上高は1兆7075億円、営業利益は1809億円でした。これが、2012年度には、売上高は8499億円、営業利益は966億円と共に半減しています。

この原因がGIE戦略だけだと、単純に言い切ることはできません。しかし、無関係ともいえないだろうと考えています。

卒業生として、古巣の日本IBMの存在感が日増しに小さくなっていることに、寂しい気持ちを禁じ得ません。優れた技術力、優秀な人材を抱えているにもかかわらずです。

日本IBMの苦悩を想い、日本という国が米国の企業文化とは違う土俵であるという現実に改めて気づかされました。

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