情報システムは「必要悪」、だから情報システム部門もいらない

斎藤昌義(さいとう まさのり) 2013-12-07 14:00:00

「情報システム部門は、もういらなくなるのでしょうか。」

こういう質問を頂くことがあります。ほんとうにそうなのでしょうか。

私は、いまのままでは、いずれはそうなるだろうと思っています。しかし、そのことは、情報システム部門の存亡といった組織や人材に関わる問題として捉えるだけでは不十分だと考えています。むしろ、企業の成長や競争力にも関わる問題として、捉える必要があると思っています。

情報システムは『必要悪』である」とする認識が、未だ我が国の企業経営者には根強くあるように思います。「業務で必要なことは理解できるが、必要最低限であればそれでいい。技術が進歩しているんだから、工夫次第でもっと安くなるはず。」そんな意識があるのかもしれません。その証拠に、情報システム予算は常に削減の対象です。

情報システム部門は、常にコスト削減の圧力にさらされ、その努力を強いられています。一方で、情報システムはなくてはならない業務のインフラとして、安定稼働は当然の前提条件となっています。ひとたびトラブルなど起きようものなら、手抜きや怠慢と言われかねません。

このような状況であるにもかかわらず、グローバル化、ビジネス・スピードの加速、法律や規制の変更など、これまでにも増して情報システムの需要は拡大し迅速な対応が求められるようになってきています。ただ、その予算は、アプリケーション開発費をユーザーが負担する場合はありますが、インフラ構築や運用は、共通の費用として情報システム部門の予算でやりくりしなければならない場合も少なくありません。

彼等は、残業や休出も厭わず働いています。また、増えない予算の中でコストを切り詰め、浮いたお金を使って、このような経営や業務のニーズに応えるべく血のにじむ自助努力を重ねているのが現状です。

経営者は口をそろえてIT活用の重要性を語ります。そして、情報システム部門のより一層の経営への貢献を期待する旨の発言をしています。しかし、このような状況では、情報システム部門のモチベーションを高めるどころか、維持することさえ難しい状況へと追い込んでいます。

経営と情報システム部門の間に横たわるこのような意識の乖離の根底には、「情報システムは高すぎるのではないか」という疑心暗鬼が、あるからかもしれません。

ユーザーに見えるのは結果として提供される無形のサービスです。その背後にある情報システムの実態に、どのようなお金がかかっているかが見えません。それが理解されないままに、「なぜこんなに高い経費をかけなければならないのか。もっと工夫すれば安くできるのではないか。」といった疑問が払拭されないことが、問題の本質があるように思っています。

理解する努力をしない経営や業務部門が悪いのか、うまく説明できない情報システム部門が悪いのか・・・結局は、お互いがお互いを理解しようとせずに、経営や業務部門は、「ITのことは難しいので専門家である情報システムにまかせているから」といい、情報システム部門は「経営や業務のことはかれらの責任であり、我々は彼等からの要求にきちんと応えるだけ」と、自分たちの領域を出ようとしません。

情報システム部門が、業務や経営に関わる発言をすると、経営や業務の管理者から、こちらの話に余計な口をはさむなと言われ、あるいは、ならばいまの予算の範囲で、何とかやってくれと求められることになりますから、ますます内向き思考を深めてゆくことになるのです。このような内向きかつ縮小均衡の関係が果たしていつまで続けられるのでしょうか。

今年3月、世界規模でCIOの課題を調査したガートナーのレポートが発表されています。これを見ると、我が国の現状は、グローバルな競争に取り残される可能性を示唆しています。次のような一節があります。

「世界のCIOが重視するIT戦略は、1位が「ビジネス・ソリューションを提供する」・・・中略・・・となっています。なお、「ビジネス・ソリューションを提供する」は、日本では10位以下のランキング圏外となり、世界と日本の差が見られます。」

ここでいう「ビジネス・ソリューション」とは、情報システム施策を意味するものではないでしょう。売上や利益に貢献するためのソリューション、すなわち、ビジネス・モデルや業務・経営のプロセスに関わる戦略や施策を意味しています。つまり、日本では情報システム部門が関与してはいけない(?)領域に積極的に関与してゆくことを、世界のCIOは強く意識しているということになります。

世界の企業は経営や業務の課題を、ITを使って解決するだけではなく、事業の拡大や市場の創出にITを積極的に活用することで、自らの成長と競争力を高めてゆこうとしています。一方で、日本の企業は、コスト削減を努力し、業務や経営に余計な口出しをしないことで、自らの存在を縮小均衡で維持しようとしています。

このようなことが今後も続くとすれば、ビジネスのグローバル化が加速するなかで、日本の企業は国際的な競争力を失ってゆくことになるのではないかと危惧しています。

この変化に、経営や業務部門も、いずれは意識し始めるはずです。そのとき、その対応を情報システム部門に求めても、彼等にその意識がなく、スキルも体制も整っていなかったとすれば、「そんな情報システム部門はいらない」となるでしょう。もし彼等がそのことに気づくことなく、これまで通りのIT施策を続けようとするならば、事態はもっと深刻なことになるかもしれません。

この変化に情報システム部門は、どのように対処するかです。私は、インフラや企業個別の独自性の少ない領域を積極的にアウトソーシングし、企業の成長や競争力の強化に関わる人材を、情報システム部門の要員だけではなく、企業全体として増やしてゆくべきではないかと考えています。

 「守りのIT」をアウトソーシング

サーバーやストレージ、ネットワークなどのインフラ、企業の独自性を求められないコミュニケーシュンやコラボレーション、経費精算や財務会計などのアプリケーションといった「守りのIT」をクラウド・サービスやマネージド・サービスへアウトソーシングすることで、そこにこれまで関わってきた人材を減らすことだと思っています。

デスクトップPCをVDI(Virtual Desk-top Infrastructure)やDaaS(Desk-top as a Service : 仮想デスクトップのクラウド・サービス)に切り替えれば、PCの調達や運用管理に関わる人材を大幅に減らすことができるはずです。VDIのコストはPCを購入することに比べて高くつくことは否めません。しかし、コモディティの領域で人材を減らすことができるのであるとすれば、そこに投資することの価値は十分にあると考えています。

クラウドへの移行を考えるとき、これまで自社で保有していたシステムをそのままに引っ越すだけでは、クラウドという名前のプライベート・システムをホスティングするだけのことであり、システムの柔軟性やコストの削減に貢献も限定的となるはずです。一度には無理にしてもユーザーにも割り切って頂き、世の中の標準を積極的に受け入れることで、クラウドの提供するアジリティやスピード、スケールといったメリットを享受すべきではないでしょうか。

「攻めのIT」に人材をシフト

次に人材の再教育です。米国であれば、人材の流動性は高いので、これまでの人材を解雇して、必要なスキルを持つ人材を改めて雇用するという方法もあります。しかし、日本ではそれができません。そこで、再教育が必要となります。

ただ、ここで言う再教育とは、情報システム部門の人材だけを再教育するという発想ではなく、ユーザー部門も含めた人材のローテーションも含めて、情報システムと業務を融合させる組織対応とあわせて行う必要があるように思っています。大きな企業であればあるほど、これは容易なことではありません。経営者の強い意志と業務部門の理解がなくてはできないことです。

では、何を再教育するかです。私は、企業としての競争力や成長に直結するアプリケーシュン・システムを企画、設計、開発できるスキル、テクノロジーやサービスを評価し目利きできるスキル、プロジェクトを管理運営できるスキルなどが、重要になると考えています。

例えば、PLMやSCM などは製造業にとっては競争力を左右する戦略的領域です。マーケティングなども自らが担うべき領域でしょう。また、それらシステムからのデータを活用し経営や業務の意志決定が迅速に行えるようにするためのBIなども対象とすべきでしょう。

このような「攻めのIT」は、これまでにも増して変化へのスピード対応を求められます。アジャイル開発や超高速開発ツール、目利きを活かしてSaaSなども利用することで、ユーザー部門とインタラクティブな関係を維持しながら、常に最適なサービスを提供できる人材を育てることが目標となるはずです。

 評価基準の最適化

情報システムを「必要悪」と捉え、コストが少ないことを評価する価値観を変えてゆかなければなりません。売上や利益に貢献するサービスの生産財であり、戦略投資として情報システムを捉え、投資対効果の大きさを評価する対象にしてゆくことが必要となるでしょう。

また、情報システム部門の要員を間接要員と考えることから、利益を生みだす直接要員として考え、その視点から人材の育成を考えることが大切となります。

このような考え方を持たなければ、経営や事業と情報システムの戦略的融合や人材のローテーションを実現することは難しいのではないかと考えています。未だ多くの企業で情報システム部門が、経理部門や総務部門の配下にあります。これは、とりもなおさず、コストの削減や効率的運用を評価の対象としているということです。この組織体制も考え直す必要があるでしょう。

経営や業務部門と情報システム部門、双方にとって大きな意識の改革を迫られることになるでしょう。しかし、情報システムを「ビジネス・ソリューション」に貢献させてゆくには、このような変革が必要になると考えています。

「全ての予算はIT予算になってゆく」

昨年10月にガートナーは、こんなレポートを公開しています。これは、経営や業務はIT無しには今後考えられず、業務のための予算はITを活用するための予算になってゆくだろうという予測です。このレポートを参考にまとめたのが以下のチャートです。

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世界が、このような方向に向かいつつある中、我が国の情報システムのあり方が従来のままでいいはずはありません。経営や業務とITの融合は、もはや待ったなしの状況にあります。

正直なところ、情報システム部門がなくなることは、本質的な問題ではないと考えています。問題なのは、経営や業務部門が、情報システムの価値を評価し活用できず、グローバルな競争から取り残されてしまうことです。

そのことを経営や業務に遡及できず、縮小均衡のままで旧態依然とした組織を維持することにしかできない情報システム部門であるとすれば、むしろない方がいいでしよう。業務部門が独自にITに長けた要員を抱え、取り組んでゆく方が、業務とITについて組織目標が一致するわけですから、よほど健全かもしれません。

しかし、テクノロジーの高度化と多様化が加速する中、このような個別最適な取り組みでうまくゆくとも思えません。まず、情報システム部門が、このような問題意識を経営や業務部門に勇気を持って発信し、自ら進んで改革してゆくことが必要なのだと思います。

それが結果として、情報システム部門の存続につながるのではないでしょうか。ただし、それは、もはやこれまでの狭い範疇の組織ではなく、「ビジネス・ソリューション」を提供する新しい組織として、役割を果たすことになるのでしょう。

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