海外からの逆流に呑み込まれるSIビジネスの未来

斎藤昌義(さいとう まさのり) 2013-12-21 14:30:00

 「いずれ、海外からの逆流で、日本のSI事業者は、苦境に立たされることになるでしょうね。」

ある大手製造業の情報システム部門長から、伺った話です。

日本企業の海外進出は、今に始まった話ではありませんが、ここにきて、改めて海外展開におけるITに求められる期待が変化してきていると言うのです。それは、「業務への対応や効率化」から、「ガバナンスの確保」を重視した仕組み作りへの期待です。

為替や政治的リスクの変動は、マーケットの不透明感を高めさせています。加えて、ビジネス・スピードは、これまでにも増して加速しています。グローバルにビジネスを展開する企業は、この変化に機敏に対応しなければなりません。

日本や先進国への供給基地として海外拠点を考えると、拠点をまたがるリソースの最適配置や移動を迅速に判断し実践しなければなりません。一方、進出国を市場と捉え、ビジネス拡大の前線基地として海外拠点を考えると、それぞれの市場に最適化されたビジネス・プロセスを実現しつつも、正確な業績の収集が欠かせません。

しかし、現実には、習慣や価値観の異なる国々で、日本では当たり前のことがが、通用しないことも少なくありません。このような異なる民族を束ねて、組織を動かし事業目的を達成するためには、ガバナンスが重要な役割を果たすことになります。

「ガバナンス」という言葉は、経営や事業の目的を達成するために組織や個人を自律的に機能させるための仕組みを意味する言葉です。指示や命令によらず日常の業務を適正に行うことで自然と実現される業務プロセスを実現することと解釈することができます。

しかし、これまで日本の企業は、伝統的に現場最適な業務プロセスを追求してきました。現地、現場主義を徹底して貫き、改善によって生産性や品質を高めてきた歴史があります。そのことが、日本の競争力の源泉でもあったわけです。ところが、それぞれの個別の現場に最適化されすぎたあまり、他の現場では適用できない業務プロセスが、現場現場に存在しているという事態を招いているのです。このような過度に現場に最適化されたプロセスは、迅速な海外への進出やダイナミックなリソースの移動、再編の足かせになってしまうのです。

一方、欧米のグローバル企業は、現場がプロセスの責任を負うのではなく、事業部門のトップが「プロセス・オーナー」となり、グローバルな観点でプロセスの標準化に責任を担っています。その標準化されたプロセスを各国の拠点にそのまま適用してゆくことで、迅速な海外進出、臨機応変な撤退や再編を実現しているのです。

どちらのやり方にも一長一短はあります。しかし、グローバル展開を進めるのならば、欧米流の標準化の取り組みを取り込んでゆかなくてはならないでしょう。

このような取り組みを支えるのがITです。これまでの現地・現場に応じ個別最適にカスタマイズされたシステムではなく、標準パッケージあるいは標準システムを提供し、拠点毎の差異を最小化し展開できる仕組みを実現しなければなりません。

  • 購買や業績、決算などの情報が本社から見えるようにすることで、不正を牽制すると共に、正確な情報をタイムリーに入手できる仕組みを実現する。
  • 海外拠点の起ち上げを迅速に行えるようにする。
  • 市場の変化に対応して資源のダイムミックな配置・移動を実現する。

ガバナンスを維持するために海外拠点に日本から人材を送り込むことも必要ではあります。しかし、語学ができ管理スキルのある人材の確保は容易ではなく、コスト負担も大きくのしかかってきます。そのことが、グローバル展開のスピードを鈍らせることにもなります。

結局は、標準化されたシステムを展開し、ITでガバナンスを確保するしかないのです。ただ、そのために情報システムを現地で導入し、維持、運用することは、大きな負担になります。セキュリティや運用に関わるITガバナンスを維持することも容易ではありません。クラウドは、この事態に対処する有効な手段となります。

このように事業展開のグローバル化を進める上で、ITの役割が、ますます重要になってきました。しかし、これまで、我が国のユーザー企業は、ITベンダーやSI事業者に多く依存してきました。そのため、ユーザー企業が単独で、情報システムの標準化やグローバル展開を進めることができません。ところが、我が国のITベンダーやSI事業者は、このような事態への対処を先取りした積極的な施策を、十分に打ち出しているとはいえません。

確かに、SI事業者も海外への進出を進めているところはあります。しかし、その多くは、低コストの開発リソース確保が目的であって、業務プロセスの上流に関わるサポートができる要員を置いている企業はわずかです。

ユーザー企業の事業基盤の比重が、今後益々国内から海外へと大きくシフトしてゆくでしょう。そうなれば、海外の標準化されたシステムを国内に展開する方が、結局は効率的となります。

  • 国内のしがらみにとらわれないグローバル標準。
  • 低廉で高品質な海外の開発・保守や運用リソースの活用。
  • クラウドによるシステム利用の技術的な障壁の消失。

国内にしか対応できず、グローバルなリソースを活用できないITベンダーやSI事業者は、淘汰されてゆくことになるかもしれません。まさに、情報システムの逆流が起ころうとしているのです。

SAPやOracleなど、欧米のERPベンダーはクラウドを基盤としたサービスの展開を加速しています。標準化されたシステムを展開し、グローバルなリソースを活用してコストを抑えながら、運用、管理、保守のサービスをグローバルに展開する取り組みを始めています。もちろん、ユーザー企業にダイレクトにサービスを展開することを前提にしていることは、言うまでもありません。

大企業ばかりでなく、中堅、中小の海外進出も進みつつあります。この変化は、避けて通ることはできないのです。

標準化されたシステムによるグローバル対応とクラウドを基盤としたサービスを提供できる能力は、ITベンダーやSI事業者を選定する上で、これまでにも増して重視されるようになるでしょう。そうなれば、これまでのように、パッケージの導入やカスタマイズで工数を稼ぐことは期待できません。自らがサービスの提供者として役割を果たして行く道を模索しなければならなくなるでしょう。

アベノミクス効果は、日本経済に勢いを与えているように見えます。この勢いは、従来の延長線上での仕事の需要を増やしています。しかし、根底に流れる構造変化の波は留まることはなく、むしろ加速されてゆくでしょう。そのための備えはできているでしょうか。

以前にも紹介したように、「新規事業に成功した企業の最初の企画は、そのほとんどが失敗するといわれています。それでも成功したのは、試行錯誤を繰り返し、失敗を重ね成功するまで資金が続いたから」だそうです。まさに余裕があるうちに、対処してゆくことが必要なのです。

景気の波にただただ漂うだけでいいのでしょうか。自分では将来を決められないビジネスのままでいいのでしょうか。今こそ、将来に備えるべき時なのではないでしょうか。

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※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

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