SIビジネスの変革を妨げる3つの壁

斎藤昌義(さいとう まさのり) 2013-12-28 15:00:00

「人月単価で金額を決めているにも関わらず、瑕疵担保で完成責任を求められ、工数に関わりなくユーザーが納得するまで改修を求められるSIビジネス。」

ユーザーは、SI事業者の策定仕様の不備や開発の不手際を理由にし、SI事業者は、ユーザーが、要件定義や仕様を適切に評価できなかったことを理由にして、お互いの不信感を募らせています。以前もこのブログで取り上げたように、SIビジネスのこのような「構造的不幸」を解消しない限り、ビジネスの健全な発展はありません。クラウドの普及は、この「構造的不幸」の存在を顕在化させ、新たな選択肢を提供しようとしています。

また、先週のブログで、グローバル化の流れは、日本の企業が国外へ出て行くことでだけではなく、国内のグローバル化を促進することになることを述べました。海外現地に拠点を持つSI事業者は増えつつありますが、その多くは、低廉な開発リソースの確保に留まっています。日本企業の海外進出を支援する目的で、海外に拠点を持つSI事業者も増えつつあることは確かですが、日本企業の事業基盤が大きく海外にシフトする中、海外の標準を国内に適用する国内のグローバルにまで踏み込んでいるところはわずかしかありません。海外のクラウド・プロバイダーやパッケージ・ベンダーが、グローバル標準を武器に日本流のSIビジネスを駆逐してゆくかもしれません。

「構造的不幸」と「海外からの逆流」に、何も手を打たなければ、従来型のSIビジネスは崩壊への道を歩むことになるでしょう。アベノミクスのおかげで、人月依存のビジネスは、上向いているようです。しかし、この本質的な課題は、解消されることはないのです。

景気の浮き沈みはいつの時代にもあります。その浮き沈みに翻弄されるがままに、気がつけば新たな常識が生まれていることになります。時代が新たな常識を得たとき、備えのない企業は居場所を失うことになるでしょう。

しかし、変革への取り組みは、容易なことではありません。そこには、3つの壁が、立ちはだかっています。

1.収益区分・事業区分の壁

「販売」、「開発」、「サービス」といった既存の収益区分が、新しいビジネスの創出を阻害することになります。例えば、クラウドは販売や開発の領域をサービスへと変えてしまいます。販売や開発の収益は減り、サービスへとシフトします。

一般的には、収益区分と事業区分は、一致していますから、新しいビジネスへの参入は、それぞれの事業区分ごとの責任者を競合関係にしてしまいます。本来ならば、新しいビジネスは、事業区分を越えた協力によって、これまでの常識を変えてゆくことが必要になるはずです。しかし、現実には、既存の収益区分や事業区分が、新しい取り組みへの阻害要因となってしまっているのです。

 2.経営資源の壁

成功している既存事業の存在が新規事業への参入を阻害することになります。既存事業の存続を優先するあまり、新事業への投資を怠れば、これからの時代の変化に生き残ることはできません。

経営者は、株主から継続的な収益の拡大を求められています。そのため、既存事業の競争力の強化に資源を集中させ、既存事業の継続的発展、拡大を優先させることは、経営合理的には適切な判断と見做されます。

しかし、新しいビジネスは、当初は、必ずしも既存市場の需要を置き換える収益をもたらすことはありません。そのため、ここに経営資源を割いても収益貢献は少ないと判断されることから、どうしても既存市場に優先して経営資源を配分することになります。

仮に、実験的先行投資が行われたとしても、本格的な事業展開に必要な投資判断は容易なことではありません。その理由は、市場予測の難しさにあります。未だ存在しない市場の予測はできないわけで、根拠のある合理的な事業計画が描けないのです。合理的な裏付けのない事業計画を承認することは経営にとって大きなリスクとなり判断は難しくなります。特に大企業の多くは、前例のない判断を避ける傾向にあり、より大きな困難を伴います。

余裕のあるときに新規事業に経営資源を投下できできないことも、新しいビジネスの創出を阻害することになります。既存業務が順調であれば、目先の業績拡大のために経営資源を使うことが優先されます。しかし、既存業務の業績が厳しくなると、新規事業への関心が高まり、対策を求められるようになります。ただ、その段階となると、資金的にも余裕がないままに、早期に成果を求められるため、試行錯誤を繰り返す資金的、時間的余裕が失われてしまいます。新規事業参入のための最初の企画は、そのほとんどが失敗するといわれています。それでも成功した企業が存在するのは、試行錯誤を繰り返し、失敗を重ね成功するまで資金が続いたからです。この原則が活かすことができず、新規事業の成功を阻害することになるのです。

 3.業績評価制度の壁

売上や利益のみが事業部門や営業の業績評価となってしまうと、新しいビジネスへのモチベーションを高めることはできません。

例えば、所有から使用へとビジネスの前提がシフトする中、ストック・ビジネスの拡大は必然であり、重要な経営戦略となります。一方、既存の評価制度では、ストック・ビジネスの拡大では売上や利益の拡大は期待できず、評価は低くなります。そのため事業部門や営業の第一線に関わる人たちのモチベーションは高まりません。このような経営戦略と事業部門のモチベーションの間に不一致を抱えたままでは、新しいビジネスへの参入、拡大に現場力を活かすことができないでしょう。

 

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この壁に梯子をかけることができるでしょうか。景気が上向きかけている今だからこそ、まさに経営者の力量が問われているのではないでしょうか。

 

「門松や 冥土の旅の 一里塚 めでたくもあり めでたくもなし」

頓智話で有名な一休禅師の読んだ歌だと言われています。

「一年経ったということは、それだけ冥土に近づいたということ。それのどこがおめでたいのか。」と皮肉っているわけです。

アベノミクスや東京オリンピックなど、明るい展望が、今年のまとめ記事では語られています。だからこそ、こんな皮肉な「まとめ(?)」もひとつぐらいあってもいいのではないでしょうか。

これが、今年最後の投稿です。年明けからは、この厳しい現実にどう対処してゆくべきかを、これまでにも増して発信してゆこうと思っています。

今年も一年、ご愛読いただきありがとうございました。そして、また来年も引き続きご覧頂ければ幸いです。

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※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

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