ポストSI時代を生き残るふたつのシナリオ

斎藤昌義(さいとう まさのり) 2014-02-22 10:00:00

「開発プロジェクトの短期化、カスタマイズを極力減らしたパッケージやSaaSの利用、システム基盤統合が進むだろう」

ガートナーは先日発表した「2014年以降の日本におけるエンタプライズ・アプリケーションに関する展望」の中で、このような予測を掲載しています。

これは、裏を返せば、工数積算の収益モデルが成り立たなくなることへの警告とも読み取ることができます。

ユーザー企業にとっては、プロジェクト期間は短縮しても実装する機能を減らしたいわけではありません。開発生産性の追求やパッケージにあわせた業務プロセスの変更で、この事態に対処しなくてはならなくなるはずです。一方、このことは、ITベンダーにとっては、案件規模の縮小と収益確保の機会を減少させることでもあります。これまで、工数を増やすことが収益の拡大であったITベンダーにとって、開発の生産性を高めることやカスタマイズを減らすことは、利益相反です。

変更への柔軟性についても、ユーザー企業とITベンダーは利益相反の関係にあります。一般にSIビジネスでは、まずは、お客様の要求を整理し、「要件定義書」として開発内容についての合意を取り付けます。しかし、この「要件定義書」は、見方を変えれば、ユーザーの要求事項を固定し、合意した以降の要件変更を受け付けないようにするための方便でもあるのです。

ビジネス環境も変われば、想定していない事態に遭遇することは避けられません。要件が変わらないという前提には、そもそも無理があるのです。ビジネス・スピードが加速する中、ますます深刻な問題となってゆくでしょう。

確かに内製化すれば、この問題には対処できるかもしれません。しかし、アウトソーシングを進めてきた情報システム部門にその体力も実践スキルもありません。ITベンダーに頼らざるを得ないのです。

一方、ITベンダーにしてみれば、要件定義書は、リスクを減らすための有効な手段です。要件定義書と異なる要求は断ることができます。どうしても必要であれば、見積のやり直しや追加費用を要求する根拠にもなります。このやり方を変えることは、自らリスクを背負い込むことになるわけですから、そう簡単に受け入れることはできません。

要求の変化に柔軟に対応して欲しいユーザー企業、それを受け入れてしまうとリスクを増やしてしまうと抵抗するITベンダーの間に利害の一致は見いだせません。

パッケージのカスタマイズを極力避けようという動きもますます加速することになるでしょう。それはバージョンアップのたびに多大な工数を必要とするためというだけではありません。グローバル展開を考えたとき、特定の地域や拠点に最適化されたカスタマイズは、展開のスピードを阻害するだけではなく、ガバナンスの確保を難しくします。これもまた、ITベンダーにとっては、工数積算のビジネスを難しくする要因です。

ガートナーのレポートにもあるようにビジネス・スピードが加速する中で、このようなシステム開発のあり方が、耐えられるはずはなく、ユーザー企業は、その対処を模索し始めていることも確かです。

そんなユーザー企業の変革への取り組みに積極的に関わってゆくことこそ、生き残るための唯一の方策ではないでしょうか。あえて「生き残る」という言葉を使わせていただいたのは、工数積算型の市場規模が今後どんどん縮小し、そこに留まる限り、生き残ることは難しいと考えるからです。

それでは、どのような対処があるのでしょうか。「クラウドを活用したサービス・ビジネス」と「顧客価値を追求した新しいSIビジネス」というふたつのシナリオについて考えて見ようと思います。

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 クラウドを活用したサービス・ビジネス

 クラウド基盤の上で、独自のサービスを構築し、自分達のサービスとしてお客様に直接提供するシナリオです。

 これまでは、新しいサービスを始めようにも、サーバーやソフトウェア・ライセンスなどの初期投資や、それらの運用管理負担が重たくのしかかり、容易に決断できるものではありませんでした。この状況が、クラウドの出現で大きく変わりました。

 ひとつは、サーバーやストレージなどのシステム資源の初期投資を抑えられることです。また、運用管理負担の多くをクラウドに任せられますので、そのための人材を抱える必要がありません。

 また、OSSを使えば、ライセンス費用の負担を気にする必要はありません。アプリケーションやその部品となるモジュールもOSSとして提供されています。これらをうまく使えば、ソフトウエアに関わる初期投資を抑え開発のスピードを加速することができます。

 認証や課金、SNSとの連携など、クラウド・サービスとして必要となる標準的なユーティリティ機能を提供するBaaS(Backend as a Service)を使えば、やっかいなサーバー・アプリケーション開発から解放されアプリケーションの作り込みに専念することができます。

 また、従量課金制のクラウド・サービスを利用すれば、ユーザーの増減に応じて使用料を支払えばいいわけですから、固定を抑制することができます。

 このように、サービス・ビジネスを新しく始める上でのハードルは、高いものではなくなってきました。

 もちろん、魅力的なサービスとは何かを定義し、成功のシナリオを描くマーケティング活動をしっかりと行うことが前提であることは言うまでもありません。この時、ITの世界だけで完結させる必要はありません。付帯する業務処理の代行などもセットにして、サービス全体の魅力を高めることも考えて見てはどうでしょう。

 サービス・ビジネスの運営が、SIビジネスとは根本的に異なることも念頭に置いて取り組む必要があります。サービス・ビジネスは、開発と運用が同時一体で進んでゆきます。新規機能の追加や改修、設定変更などは、本番運用と同時に進行しなければなりません。また、A/Bテストでユーザーの反応を検証することや、顧客行動モニターして、即座に対策を施さなくてはなりません。SIで行っていたウォーターフォール型の開発とはまったく異なる行動を求められます。状況の変化に即応できるアジャイル型の開発に取り組んでみてはどうでしょう。

 開発と運用が分離した運営体制も現実的ではありません。DevOps(開発と運用が一体となってサービスとしてのシステムを維持する取り組み)の実現にもあわせて取り組む必要があるでしょう。

 顧客価値を追求した新しいSIビジネス

 開発プロジェクトの進行中であっても柔軟に変更要求に対応してくれることや、本番移行後、個別に見積をしなくても、一定の範囲で柔軟に改修に応じてくれるとすれば、ユーザーは大いに助かるはずです。

 要求の変化に迅速に対応できる「アジャイル型請負開発」や「サブスクリプション型受託開発」などが考えられます。

 「アジャイル型請負開発」については、以前ポストした記事で詳しく紹介しましたのでそちらご覧ください。

 「サブスクリプション型受託開発」とは、お客様から開発を請負ったシステムを、パブリック・クラウド基盤で本番稼働させ、その運用・保守とあわせて、一括して引き受けるサービスです。

 従来であれば、運用環境の構築に一定の初期投資が必要でした。しかし、いまでは従量課金で使えますから、お客様への月次の請求に載せて請求できます。

 開発費を請求せず、全てを月額使用料方式にするという考え方です。開発規模の上限を定め、その範囲で料金を固定します。これをアジャイル開発の手法により、開発の優先順位をユーザーと確認しながら、継続的にシステムの完成度を高めてゆく方法です。

 このような方法を使えば、従来であれば、一時的な収益しか期待できなかったSIビジネスを長期継続的なストック・ビジネスへと転換することができます。また。お客様にとっては、資産を持つ必要はなく、全て経費化できることもメリットとなるでしょう。なによりも、あらかじめ全ての仕様を固定化する必要が無く、業務ニーズの変化に追従できることで、エンド・ユーザーの満足度も得やすいはずです。

 ソニックガーデンの「納品のない受託開発」は、このシナリオの先駆けとなる取り組みではないでしょうか。

 

先日、ある地方のSIベンダーの経営者が、「今、ひとり1.5人月働いてもらっているのだけど、それでも仕事がこなせない」と嘆かれていました。しかし、それは見方を変えれば、現場に負担を強いらなければ収益を確保できない人月積算型ビジネスの限界を示しているとも見て取れます。

アベノミクスも、いずれ効き目がなくなってくるでしょう。2015年問題も重くのしかかってきます。そのときの備えができるのは、キャッシュフローが回っている今の間かもしれません。ビジネスが低迷すれば、成果を速く求めたくなるでしょう。予算も限られ、試行錯誤の余裕も与えられなければ、新しい取り組みなど成功するはずはありません。

「まだ何とかなる」と先送りしても先は見えています。だからこそ、「工数積算の収益モデルを前提とするSIビジネスは崩壊する」という割り切りで、これからの取り組みを考えて行くべきではないでしょうか。

 

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※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

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