日本IBMの苦悩と日本の特殊事情 2

斎藤昌義(さいとう まさのり) 2014-03-29 11:20:00

「IBMのサーバー、検討していたのですが、やめることにしました。」

ある中堅製造業の情報システム部門長から、こんな話を聞かされました。

「レノボになっちゃうからですか?」

「そうなんですよ。別に変わらないとは思うんですが、いろいろと心配ですからねぇ。それに、IBMだからということで、上の人間には話も通しやすかったんですが、レノボじぁねえ・・・。」

このような話がどのくらいあるかは分かりませんが、何人かの方から同様の話を伺いました。改めて、IBMというブランドの大きさを実感しています。

IBMがレノボにx86サーバー事業の売却を決めたことは、ビジネス合理的に考えれば、道理にかなった話です。

IBMの2013年第4四半期の決算を見るとx86サーバーは、前年同期比で16%減少しています。ハードウェア全体の売上高は前年同期比26%減の43億ドル、営業利益は79%減の2億600万ドルでした。

これに対してソフトウエアやサービスは堅調に推移しており、特にソフトウエアは2013年度の粗利益率は88.8%という高水準を維持しています。それにもかかわらず、7四半期連続で減収減益を続けているのは、ハードウェアが大きく足を引っ張ったからです。

ハイエンドのサーバーであるSystem/zやPower Systemsも好調とはいえませんが、他社にない独自技術を駆使したものであり、高い利益率が期待できる商品です。これに対して、競争の激しいx86サーバー市場は利益の出ない価格競争の様相を呈しています。また、クラウドの台頭により市場規模の縮小は避けられません。

このような市場環境を考えれば、x86サーバー事業を売却し、その売却益を機械学習・人工知能やクラウドの事業へ投資するという判断は、極めてビジネス合理的です。

しかし、営業の現場、特に日本の市場に限って考えれば、これは極めて大きな影響を与えることになるでしょう。

冒頭にも述べたように、IBMというブランド力は我が国では圧倒的なものがあります。IBMだからという理由で、難しい説明をする必要もなく、経営者に安心感を与えることができました。ところが、それができないことは、情報システム部門としては、面倒な話です。厳しいコスト圧力にさらされている情報システム部門にとっては、IBMであることの後ろ盾を失うわけですから、他社という選択肢を提示せざるをえなくなるでしょう。

これは、大手に限ったことではありません。むしろ中小企業顧客へのビジネスが相当影響を受けるのではないでしょうか。

日本IBMは2012年7月に大幅な営業組織の改革を行いました。その目的は、伸びしろの少なくなった大企業から日本IBMがシェアを取れていない地方の中小企業の新規顧客を獲得することへ営業力をシフトさせ、事業の拡大を図ろうというものです。そのために地方拠点に支社を設置し直販体制を強化してきました。しかし、それが必ずしも十分な成果を上げていないことは、以前のブログ「日本IBMの苦悩と日本の特殊事情」でも紹介の通りです。

「いや、そんなことはない。地方でも成果がでている。」というご批判もあるかもしれませんが、日本IBMがこれまで大企業として区分してきた既存顧客を、中小企業を担当する営業部門に担当させて、そこに直販で力を注いできたからであり、地方の中小企業を新規に獲得しシェアが拡大している訳ではないだろうと私は推測しています。

それでも何とか地方の中小企業をつなぎ止めておけたのは、日本IBMのビジネス・パートナー企業の存在です。日本IBMが、かつて地方の中小企業ビジネスを地場のビジネス・パートナーに移管し、彼等が長期にわたってお客様との関係を築いてきたからこそ、日本IBMが地方でも一定のシェアを維持できていたともいえます。

それら企業もかつてはAS/400(現System i)という極めて信頼性が高く手間もかからないIBMエクスクルーシブな商品を持っていたわけですが、その数は徐々に減少し、x86サーバーであるSystem xに置き換わってゆきました。それがIBMと地方の中小企業をつないできたのです。このようなことができたのは、パートナー企業が、長期にわたりお客様との信頼関係を築いてきたからに他なりません。また、IBMを長年使ってこられたユーザー企業は、IBMというブランドが大好きだということもあり、パートナー企業は、それに支えられてきたことも大きかったでしょう。

ところが、IBMがx86サーバーをやめるとなると、そういうビジネス・パートナーが売れるIBM製品がなくなってしまいます。また、日本IBMが地方での直販を強化すると言うことは、これまで地方でのIBMビジネスを支えてきたパートナー企業との競合も避けられなくなります。このことは、地方の中小企業ビジネスの拡大を目指す日本IBMにとっては、大きな痛手になるのではないでしょうか。

IBMがx86サーバー売却を発表して以降、HPのx86サーバーを扱いたいというIBMパートナー企業が急増しているそうです。また、あるIBMパートナー企業の全国的なコミュニティ団体の解散が検討されているそうです。

確かに、x86サーバーはコモディティ製品であり、それだけを見れば、大きな収益は期待できません。今後、この市場はパブリック・クラウド市場へと置き換わってゆくでしょう。従って、これは一時的な問題と受け取られるかもしれません。

しかし、その製品を通じてIBMのブランドとお客様がつながっていたのです。そう考えれば、IBMがクラウド・サービスへのシフトし、お客様に勧めようとしても、それを支えるIBMファンのユーザー企業やパートナー企業がいなくなれば、ビジネスの拡大は容易なことではありません。

だからIBM直販を強化しなければということになるのでしょう。しかし、地方の中小企業は、情報システム部門のないところが大半であり、情報システムに関わる業務を地場のITベンダーに大きく依存しています。そのため、ITベンダーの選定は、地場に密着し中長期に渡って継続して任せられるところというのが、重要な基準となります。そうなると、日本IBMが地方で直販を拡大しようとしても、そういう安心感をお客様に根付かせるには、相当な時間がかかるわけですから、なかなか大変ではないでしょうか。

日本IBMの最近の営業施策を見るにつけ、日本ならではのハイコンテクストな関係を軽視しているように感じます。何十年と続いてきた手帳やテーブル・カレンダーの廃止、ユーザー組織やパートナー組織を支援する人員や予算の削減などは、確かに売上に直結するものではありません。しかし、こういう濃密な人のつながりやブランド価値を浸透させるための取り組みが、日本IBMのビジネスを支えてきたとも云えるでしょう。

IBM-Japan-Hakozaki-Facility

こういうことを書くと、「また、斎藤はIBMのことを批判している」と言われそうです(笑)。しかし、全く逆です。日本IBMで社員として多くのことを学ばせて頂きました。だからこそ、今の社会人としての自分があると思っています。IBMにはとても感謝しています。先日もある会合の席で、「元IBMの人はみんなIBMを辞めても大好きなんですね。変わった会社ですね。」と言われましたが、本当にその通りだと思いました。

ある大手サービス・ベンダーの事業企画の方から、「日本IBMのユーザー研究会のような組織を作りたいんです。お客様からそんなご要望を頂いていて、相談に乗ってもらえませんか。」という話を頂きました。日本IBMは、日本というハイコンテクストな社会の中で、しっかりと根付いてきたのだなぁと嬉しくなりました。

IBMは、グローバール・インテグレーテッド・エンタープライズという戦略を打ち出しています。「全世界のIBMが全社一丸となって、お客様に最適で最高のサービスや商品を提供します。」ということなのでしょう。このこと自体は、グローバル化を志向する日本の企業にとっても、大いに参考になるでしょう。しかし、その結果として、それぞれの国の諸事情や空気感のようなものが配慮されないとすれば、それではうまくゆきません。

さて、これから日本IBMはどんな施策を打ち出してくるのでしょうか。IBMに恩のあるもののひとりとして、見守ってゆきたいと思います。

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