「見猿・聞か猿・言わ猿」のSI事業者、いずれは歴史遺産へ

斎藤昌義(さいとう まさのり)

2014-04-26 11:00

ユーザー企業における情報システムが、“IT企業に発注して開発するもの”から“サービスを選択して利用するもの”へと変化しているのに対して、IT企業が必ずしもこの変化に対応していない

4月18日に発表された、IPAの「IT人材白書2014」のプレスリリースに掲載されていた言葉です。

  • ユーザー企業が今後新規/拡大を予定している事業(SaaSサービス、PaaSサービス、HaaS・IaaSサービス(開発・提供)、IDCサービス(ハウジング、ホスティング等))へのIT企業の関心は低く、また、IT企業が今後新規/拡大を予定している事業(開発、運用、SI)については、ユーザー企業の関心が低い。
  • 「従来型」の受託開発以外の事業実施を行っていない(検討していない)IT企業は、受託開発以外の事業の必要性を感じていない。
  •   IT企業における従来型受託開発以外の事業を実施する人材育成については、検討を行っていない。

変化には気付いていても、今やっていることを肯定し、変えようとしない。そんなITベンダーやSI事業者の姿が映し出されているようです。

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なぜ、こんなことになってしまったのでしょうか。私は、ITベンダーやSI事業者、特に、経営者や幹部が、世の中の新しい動きに対して、「見猿、聞か猿、言わ猿」を決め込んでしまっているからではないではないかと思っています。

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先日、私が主催するITソリューション塾で、10分間で2つのSaaSを同時に立ち上げるというデモを行いました。

ブラウザーからPaaS(ミドルウェアや開発基盤を提供するクラウドサービス)を使い、たった14行のコマンドを打つだけで作ってしまいました(これをやってくれた吉田雄哉さんが、詳細な方法を2時間のビデオで講義されています)。

従来のやり方であれば、何日もかかる作業をあっという間に終わらせてしまったことに、受講者の皆さんは、一様に驚かれていたようです。あるエンジニアは、「これまで自分が苦労してやってきたことが、なんだったのだろうかと、考えてしまいました・・・」とコメントされていました。

SI事業者にとっては、これは大変な脅威です。工数を少しでも多く積み上げることをビジネス目標に掲げてきた企業にとって、この新しい常識は聞きたくない話に違いありません。しかし、それ以前のところで、思考停止になっている人もいるようです。

「最近の新しいことについてゆくのはなかなか大変ですよ。まあ、そこは、うちの若い連中にいろいろとやらせています。何をすればいいのか、検討させていますよ。」

こんな話を伺うことがあります。でも、これは本末転倒です。確かに新しいテクノロジーの詳細を理解することは、大変かもしれません。しかし、その意味を学び、自分達のビジネスにどのような影響を与えるのかを考えることならできるはずです。そして、「若い連中」とともに、どう対処すべきかを追求し、彼等に方向を示すことから始めるべきではないでしょうか。

人は、だれしも自分のやっていることの意義や目標が分からなければ、モチベーションは上がりません。具体的な「何か」など、自然と出てくることはないのです。

方向も示さず、勉強させてます、検討させてますと、他人事のように考えているとすれば、“マジやばい”です。優秀な若い連中は、きっと転職先を探すでしょう。

これまでの我が国のITビジネスの歴史を振り返えれば、変化のなかった時代などありません。私たちは、その変化に向き合い、自分達を適応させてきました。しかし、今この業界で起きている変化は、これまでの変化とは大きく異なっています。それは、江戸幕府が崩壊して明治政府が生まれた時のように、あるいは、第二次世界大戦が終わり、戦後が始まったように、これまでの価値観や常識を変えてしまうほどの転換ではないかと思っています。

クラウドやIoT、人工知能やウェアラブル、ソーシャルやビッグデータ、これらが意味するところは、ITが人や社会の行動を丸裸にし、ネットと日常が融合した新しい社会や生活基盤の中で、広範で濃密なつながりを築きあげてゆこうとしていることです。私たちの生活や仕事の根本を揺さぶる大きな出来事が起きつつあるのです。

生活や仕事の根本が変われば求められることも変わり、ビジネスも変わるのは当然です。私たちは、この現実を受け入れなければなりません。

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しかし、これまでの常識とは大きく異なる新しい常識に向き合うことは、実に大変なことです。過去の成功体験や常識が通用しない経営者や幹部にとっては、自らの存在意義の否定でもあります。だから、怖いものには蓋をし「見猿・聞か猿・言わ猿」でこの時代の変化を乗り切ろうとしていると考えるのは、少し言い過ぎでしょうか。幸いにも、SI界隈はいま好景気に沸いています。取りあえず今のままでもなんとかやっていける状況にあります。しかし、常識の転換=パラダイムシフトは、このような状況の裏側で確実に進行しているのです。

「金融機関で従来手法による大型のシステム開発案件が続いていることや、マイナンバー(社会保障と税の共通番号)に関連したシステム開発が政府や全国の自治体で必要になるからだ。消費税率を10%に上げるときに軽減税率も検討されているので、それが実施されればシステム対応も必要になる。今秋に策定されるという日本版IFRS(国際会計基準)への対応もあるだろう。すでに全国でシステム開発者が人手不足に陥っているようだ。従来型ビジネスの好調がいつまで続くかというと、2015年とか2020年とか言われている。」

――その特需のようなものがなくなった後はどうなるのか。

「もしかしたら大変なことが起こるかもしれない。過去、リーマンショックのときを除けばバブル崩壊時にITベンダーがたくさん倒産した。今のビジネスを続けている限り、この好況が終わったときに深い傷を負うのは間違いなかろう。」

(“なぜ遅くて高い? 企業システム開発の「不都合な真実」”・ITジャーナリスト 田中克己氏)

 目を見開き、耳を傾け、自らの方向を明確に伝えること。経営者や幹部は、その勇気を持つことが、求められているように思います。

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【募集開始】ITソリューション塾・第16期

既にご案内の「ITソリューション塾・第16期」、おかげさまで、続々とお申し込みを頂きいております。

今回は、テクノロジーの話に留まらず、これをどう売るか、どうやってビジネスにするかに力点を置いて、内容を組み立てようと思っています。例えば、クラウドをビジネスにしようとすれば、

  • ユーザー企業の投資対効果の評価や予算の考え方が大きく変わります。
  • 情報システム部門の役割も変わってくるでしょう。
  • ベンダーの業績を評価する基準(KPI)も変わらなくてはなりません。これまでと同様の売上と利益では業績を評価できなくなります。

こんな新しい常識を踏まえたクラウドの売り方なども、講義に組み入れたいと思っています。

また、休出・残業無し、高営業利益率、顧客満足度も極めて高い「アジャイル型受託請負開発」の実践ノウハウや「ガバナンスとセキュリティ」をどう売るか、など実務に直結する内容も用意しています。

  • 期間 5月20日から7月23日
  • 週1回・18:30-20:30の2時間 全10回
  • 会場 市ヶ谷・東京

新しいパンフレットができました。かっこいいです(笑)。友人のプロデザイナーに頭を下げて作ってもらいました・・・ぜひ、ご鑑賞下さい。こちらをクリックするとダウンロードできます。

なお、毎回、早い時期に定員になってしまいますので、未定でもご意向があれば、メールにて事前にお知らせください。参加枠を確保させていただきます。

お申し込みはこちらまで。

ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/ LiBRA

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以下を更新いたしました。

■ IoTとM2M
 全面的に刷新しました。ビジネスへの展開についても新たに加えました。
■ ERPとグローバル展開
 SAPやその周辺の最新動向を踏まえ、内容を改訂しました。
■ メインフレーム
 4月8日で50周年を迎えるメインフレーム、その最新のテクノロジーと
 内部の構成について解説を追加しました。

以下を新たに追加しました。

■ 高速開発
 アジャイル開発、ルールベース、フレームワークなど、開発の現場の常識が
 大きく変わりつつあります。そのあたりを整理しました。

 

※このエントリはZDNETブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNET編集部の見解・意向を示すものではありません。

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