仮想現実は現実の世界

secondlife 2007-08-02 08:00:00

「ここのパスタはウニ風味のクリームソースが最高なの。パスタセットもいいけれどピッツァも素敵よ。でも何と言ってもデザートが肝よね」

席に着いたさくらは戦闘準備に掛かるがごとくメニューの説明を始めた。女性客のリピーターが多いのはデザートに手を抜かないセットメニューのお陰だという。彼女は桃のジュレ、俺はガトーショコラのアイス添え、須藤さんは抹茶シフォンだ。

一通りのメニューを注文するとさくらは俺の目を見てニコリと微笑み、須藤さんの素性を話し出した。

「セカンドライフ内で知り合った?」

俺はさくらの言葉に少しばかりの衝撃を受けた。

「そう、須藤さんは日本にセカンドライフが入ってくる前から既にアバターを持っていたの。インしたてのまだ何も分からなかった私に色々な事を教えてくれて、今の私があるのは須藤さんのお陰よ。だから是非、匠君に紹介したくて……」

身を前に乗りだしたさくらに、須藤さんは相槌を打ちながら続けて話し出す。

「僕はセカンドライフ内でカフェをもっていてね。色々な人々の相談にのったりしている。日本でセカンドライフが取り上げられて新参者が急増しているからね。今まで日本人が少なかったからまるで長老扱いだよ。」

ハハハと軽く笑う須藤さんは、穏やかにさくらを見て、

「その中でもさくらさんは積極的で面白い。アバターどおりの美しい女性だしね」

リップサービスを繰り広げる須藤さんにさくらは少し肩をすくめて笑う。まるで何年も前から知っているかのような二人の雰囲気になぜか違和感を覚え、

「そんな…実際オフ会みたいなのを開いているのは聞くけれど、個人で会うのは危険なんじゃないのか?」

俺は意地悪な質問をふりかける。

「そうね、最初は緊張したけれど、セカンドライフ内と全く変わりはなかったから。匿名の世界だから人によってはリアルとのギャップがある人も居るかもしれないけれど、セカンドライフは仮想現実の世界じゃない?もう一つの自分の世界なのよ。その中の友人はリアルでも友人になれるはずだし」

「僕は既にカナダの友人に会いに行っている。アバターとリアルは違ったけれど、基本は同じいい奴だったよ」

「言ったと思うけれど私にはアメリカ人の主人がいるの。結婚相手のリアルの顔は知らないけれど、セカンドライフの中ではかなりのナイスガイよ」

「そうそう、プロポーズを受けた時、僕に相談にきたっけ。なにせ君は他にも色々と求愛されていたからね」

「韓国とポーランドの?あの2人は友人よ。……でね結婚式は壮大だったのよ。宇宙ステーション借りきって沢山の友人に囲まれて……」

楽しそうに話すさくらに、僕は少しの苛立ちを覚えた。

セカンドライフ内の恋愛でそんなに浮き足立つなんて。

「でも、結局は仮想世界だろ?」

「そうよ。でも言ったじゃない?そこはもう一人の私の世界なの」

ふに落ちない俺に須藤さんはゆっくりと問う。

「この世界の可能性は未知数だというのは君も分かるね」

「それは気づいています。でも…」

「彼女の相手はセカンドライフ内で成功している一人だ」

「それが何か?」

「つまりね、それはリアルでも成功者になったという事なんだよ」

須藤さんの言葉と同時に、パスタがそれぞれに運ばれてきた。

空腹で欲していた俺は早速冷性のトマトのパスタに手を伸ばす。

須藤さんは俺に説くように、ゆっくりと言葉を置いた。

「セカンドライフは、もう一つの、仮想上の『現実』だ。いわばそれはれっきとした現実なんだよ。恋愛も、コミュニケーションも、カフェ経営も、ビジネスも全て現実。優しいようだがこれを理解していないと、君のプロジェクトは成功しない」

「なぜ僕が……」

「新規プロジェクトをセカンドライフ内で立ち上げるなんて、面白そうなことを聞き付けたものでね?」

ウニクリームのパスタに手をつけたさくらが小さく悪戯な視線を俺に投げた。

なるほど、とさくらが須藤さんを連れてきた理由が瞬時に分かった。その俺に気づいたように須藤さんは口元をニヤリ、と小さく上げ俺に笑った。

「君に、成功への秘訣を教えよう」

(このブログの著者でもある大槻透世二さんがSecond Lifeでの「ものづくり」を紹介する「Second Life 新世界的ものづくりのススメ」。第20回は、『スクリプトの構造--テクスチャアニメーション1』。こちらもご覧ください)

※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

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