セカンドライフの枷

secondlife

2007-08-09 08:00

須藤さんは大きな手をテーブルの上で組み、俺を見定めるように見つめた。

四十代半ばの落ち着いた雰囲気。ゆっくりと響く重みのある声で言葉を続ける。

「実は僕はセカンドライフ内に、島を持っている」

「島を?買ったんですか?」

「もちろん、長期スパンでビジネスを考えるには避けては通れないからね。君は?」

俺は須藤さんの問いに言葉をつぐんでしまった。新規プロジェクトは言ったもの、まだフリースペースで会社のハコを作りあげている程度なのだ。

「ハハハ、まだ摸索中と言ったところかな?」

須藤さんに図星を指され俺は窮してしまった。

さくらとの親密な雰囲気に不快感を覚えたものの、須藤さんは嫌味のない穏やかな人物だ。器の広さと人生の厚みが滲み出て、俺を素直な気持ちにさせた。

「実は恥ずかしながら、まだ答えが見つからないんです。今在職中の会社の支店を立ち上げようと考えているのですが。どう参入したらいいのか。このまま支店を作ったとしても人が来ず無駄になってしまうのではないか。現行のセカンドライフ内の企業の中では、ビジネスで成功しているというようには感じないんです」

「そうだね。セカンドライフに参入するにはウェブと違い様々な特徴がある。さくら君から教えてもらっていると思うがアクセス数、コンバーション率はセカンドライフもウェブも指標の様式は違えど、必要性に変わりはない」

「しかし問題はウェブで言う滞在時間数。……要はその島でどのくらいの時間ユーザーが『生きたか』よね。これは二次元では表現できない言葉だわ。でもこれはセカンドライフの枷の一例」

さくらの言葉に俺も須藤さんも一様に頷く。

「枷……そう、僕もセカンドライフという新しい世界にはウェブと違った新しい考え方と指標が必要なのはわかる。しかしそれを元にした企業SIMの評価、施策、改善の流れに僕のこのプロジェクトをどう落とし込むかがまだ見えていない」

俺は自然と須藤さんに訴えかけていた。

なるほど、自然と俺は須藤さんに相談している。相談させる雰囲気が須藤さんを長老といわれる要因なのか。

そんな事に気づきながら、須藤さんを見やると彼は頼んだパスタを早くも平らげ、デザートの前のコーヒーを一口、そして俺に問う。

「島(SIM)の考え方、テーマ設定、そして企業が参入するならば他にも色々と考えなければならないことがある。しかしその枷を逆に最大限に利用すれば必ず成功への道は開ける。先ずはターゲット設定だ。これがブレると何も始まらない。というか迷宮に突入だ。では匠君、質問だ。仮定として君は島を購入し自社の支店を立ちあげるとする。君はそこの責任者だ。さて、その島には狙いのアバターが来たとする。そのアバターはどんな格好をして、どんな会話をしているだろうか?」

突然と指摘された俺は改めて考える。

アバターの……会話……?

(このブログの著者でもある大槻透世二さんがSecond Lifeでの「ものづくり」を紹介する「Second Life 新世界的ものづくりのススメ」。第21回は、『スクリプトの構造--テクスチャアニメーション2』。こちらもご覧ください)

※このエントリはZDNETブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNET編集部の見解・意向を示すものではありません。

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