ケリーと浜辺を歩いて一時間が経った。
西に傾いた陽の光は、頬月色から更に深い夜の色に変貌を遂げつつあった。
いや、それは俺の気のせいかも知れない。
SLにも時間の経過はあるのだろうか?まさか、そこまでリアルに近づけられるはずが無い。
しかし、波音が美しい音楽のように押しては返し、俺の身体をサラサラと通りぬける。
この感傷にも似た懐かしい感情は、仮想とは思えない俺の中のリアルだ。
そんなことを考えながら、俺はケリーの次の言葉を待ち、そして次の瞬間突如打ちのめされた。
「昔の、彼氏に似ているの」
…彼氏……?
俺はケリーの口から発せられた言葉に、しばし反応が出来なかった。
「実はね……この場所はその彼と始めて会った場所なの。彼ったら最初はたどたどしい英語で話しかけてきて、新参者かと思っていたら……なんと私を誘う為の演技だったのよ」
「俺は、演技じゃない」
「ふふふ、分かっているわ。彼とあなたは違うもの」
ケリーのタイピングの早さで、彼女は昔の楽しかった思い出に浸っているのは分かった。
俺は何だか面白くなく、少しだけ意地悪をする。
「SLで恋愛……君は本当に彼を愛していたの?」
「ええ、もちろん」
ケリーの言葉は即答で、彼女がいかに彼のことを本気で愛していたのかが分かった。
俺はなぜかその言葉にふがいなくも嫉妬の感情が湧き上がる。
嫉妬……?
俺は妬いているのか?
そう気づいたとき、俺は既にケリーに引かれ始めている事を確信した。
SL恋愛……そうか、これが。
「彼はもう何年も前からSLの住人で、個性的なファッションでコアなファンに人気だったの。あるブランドの系列店として誘われてとても成功していたのよ。今の私のショップも、彼と一緒に立ち上げたくらいで……」
「ショップ?店を持っているの?」
俺はケリーの以外な一面に驚く。
「ええ、メインランドに。服とスキン(肌) のショップなの。良かったら今度来ない?」
「もちろん!……じゃあ、もしかしてそのドレスは……」
「そう、私の店の新作なのよ」
そういってケリーはそのドレスを披露するように俺の前で一回転をした。
そんなケリーを俺はとても可愛く、美しく、愛しいと思った。
やばい……本気になりそうだ。
俺はこのケリーとの出会いをとても素敵なサプライズだと感じた。
振り返るほどの美貌に、少女のような愛らしさ。そして自分のショップを持っているという知的な雰囲気。
色々な表情を持つケリーに俺の興味はどんどんと惹かれていく。
「実は、俺も近々店を出す予定なんだ」
ケリーに告白をすると、案の状ケリーはその話に興味深げに聞き入ってくる。
俺はケリーに今後の店舗展開のノウハウを教えてもらえないか相談をした。
そして、単純にもっと君に会いたいということも。
「もちろんOKよ!……でも今日はもう時間がないの、明日また会うのはどう?この場所で、この時間に」
ケリーの提案に俺はもちろん頷く。
「じゃあ、また明日」
また、明日。
ケリーの残した言葉の残像に浸りながら、俺は初恋の嬉しさと切なさを思い出す。
そして、翌日、
俺はケリーの口から、このセカンドライフの不思議な謎について、聞くことになるのだ―――。
(このブログの著者でもある大槻透世二さんがSecond Lifeでの「ものづくり」を紹介する「Second Life 新世界的ものづくりのススメ」。第30回は、『パーティクル4』。こちらもご覧ください)
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