あたりはすっかり暗くなっていた。
このセカンドライフにもSL時間というものがあり、朝日も出れば、夕陽も沈む。
そして今はもう夜になっていた
彼女のあまり表情のないアバターの顔を見ていると時々じれったくなるが、
俺は次に出てくる言葉をじっと待っていた。それこそが、俺が今聞きたい質問だったからだ。。。
あたりには彼女のタイピングをする音と波音が響いていた。
「アメリカが撤退……そうね、あなたが何を思って支店を作りたいのかは分らないけど、別にアメリカで企業がセカンドライフから撤退しようが、日本で企業島が増えようが、そんなの私達にとってはあまり関係ないわ。SLバブルって騒がれてるみたいだけど、私たちは作りたいものを作るだけ。お客さんが増えるのは嬉しいけどね」
なるほど。と、俺はケリーの言葉に頷いた。
バブルはビジネスマン達が言っている戯言。
ケリーのようなクリエイター達には関係ない。そんな風に感じているのだ。
セカンドライフは中にいるアバター達にとっては仲間とお喋りする場であり、色々なものを作ったり生み出す場であり、バブルがはじけたからといって仮想世界が無くなるわけじゃない。
それは、もしセカンドライフがなくなったとしても、だ。
今、SL以外にも仮想世界は続々と増えつつある。
この流れはクリエイターから取ってみれば当然の流れで、生み出す喜びを知ったクリエイターや、同じ空間の中で手軽にコミュニケーションをする喜びを知ったクリエイターから見れば「何処でするか」程度の問題だ。
たとえバブルがはじけたとしても、その流れは着々と息づき、
メタバースの世界は続いていくだろう。
ぼくはこの『仮想世界の無限の可能性』を再度認識した。
一般ユーザーはまだまだこの世界をスムーズに体験することは難しい。
しかしこの流れが続く限り、決してこのビジネスはこれからもっと拡大していくだろう。
「匠、聞いてるの?」
しばしの俺の無言に、ケリーは痺れを切らしたようだ、
「あぁ……ゴメン、で、ケリーは今どこでお店を開いてるの?」
「メインランドの一角を手に入れたの。とりあえずお店のスペースが欲しくて」
「メインランド!凄いな……やっぱり人の流れも違うんだろ?」
「そうとは限らないわ。もしかして、あなたもメインランドを?」
「うーん。まだ何も、ケリーの話しを聞いてから考えようかと……」
正直、俺は何の具体的な案を持っていなかった。
ケリーはそんな俺を見抜くように、少しだけ意地悪に言う。
「メインラインドを探すのなら、気をつけた方がいいわよ。トラブルの話も結構聞くから」
「……トラブル?!」
思っても見なかった答えに、俺はケリーに問いただす。
ケリーはそんな俺が可笑しかったように、少しだけ笑い、
「そうね……まずは土地探しからね」
彼女は、まさに俺の先生だった。
(このブログの著者でもある大槻透世二さんがSecond Lifeでの「ものづくり」を紹介する「Second Life 新世界的ものづくりのススメ」。第32回は、『エンジン1』。こちらもご覧ください)
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