メインランドとプライベートランド

secondlife 2007-11-29 08:00:00

「まず島を買うか、土地を借りるかになるけれど、匠は借りる方を選ぶのかしら?」

ケリーはまるで僕が教え子のように、優しく問う。

「島を購入するだけの資金はまだないから…まずは借りて様子見だよね」

現実的に、島を買うには20万以上の資金が必要だ。本格的にSLに企業介入するときには、別に考えなくてはならない。

しかし、今はまず腰を落ち着けることが先決だ。

「匠も知っているようだけど、土地を借りるにはメインランドか、プライベートランドと言う選択がある」

「そのメインランドのトラブルって…」

「フフフ…焦らなくても大丈夫。トラブルって言っても対応策は簡単よ。ほら、引っ越しの時って、周りに挨拶するでしょ。ああいうの、やっといたほうがいいって事」

「挨拶まわり…?」

俺は相づちを打ったが、そんな当たり前の普通のことがあるんだと、逆に驚いた。

「できれば土地を借りるとき、隣の人がどういう人かを前もって把握しておいた方がいいわ。お隣さんの問題とか、横からいつも音が聞こえてきてうるさいとか、変な看板を立てられるとか。突然隣の境界線に“NO ENTER”って表示が出て、景観が損なわれたり、大きなモールが建ったりって話聞いたことがあるわ。まぁ…いろいろあるのよ」

俺は熱心に聞いていた。

もちろん最初は日本人相手にしようと思っている。

しかし我が社は元々世界に通用する技術を持った会社だ。

日本の次は世界。

世界マーケットを相手にする以上、メインランドや外国人アバターがどんな人たちが多いかを把握しておく必要があるんだ。

俺は熱心に聞いていたが、アバターは無表情のままだ。

俺の熱心さがあまりにも伝わらないのには閉口したが、なんとか、ジェスチャーで、しきりにうなずく動作を繰り返した。

あまりにも頻繁にするので、時々彼女は肩を揺らせて笑っている。

気持ちが通じ合った瞬間。

こんなやりとりも、キーボードのボタンを押さないと、気持ちを表現できない。

しかしこの不自由さも今のうちだけかもしれない。

将来のメタバース世界はきっと、俺の表情を読み取ってアバターに反映されるような世界になるのだろう。

そう思うと、逆に不自由さの世界に生きるからこそ、俺は彼女の優しさを感じることが出来るのだと思った。

「たとえばプライベートアイランドならオーナーが必ずいるから、なにかあればオーナーが対処してくれることが多いわ。でもね、メインランドは基本的にはリンデンラボ社が管理してるから、あんまりサポートは期待できない。自分で対処するしかないのよね」

「でもせっかく土地を借りたのに、隣に大きな建物が建ったんじゃ、台無しじゃないか」

「そういうときはやっぱり、借りる前にその土地の規約を読んでおく必要があるのよ。“10m以上の建物は建ててはいけません”とか“クラブは作ってはいけません”とか、いろいろと書いてある土地もあるから。……でも結局相何でも自由っていう所ほど、そういう問題も起こりやすいわね。自分も好き勝手は出来る分、リスクも大きいかも」

「そうか……土地を借りるのにもいろいろあるんだ」

俺は再認識した。

さくらと一緒に始まったこのプロジェクト、俺はどうしても成功させたい。

そして会社の支店はなんとしても完成させる。例えそれがどんなに、ちっぽけであろうと、

そこから何かが始まるはずだ。

僕はさらに彼女に聞いた。

「メインランドじゃ規制が多くて時間が掛かりそうだ…。逆にプライベートランドを借りるためにはどうすればいいの?」

俺のその問いをあらかじめ分かっていたかの様に、ケリーは一つ頷く。

俺は彼女にとって優秀な方の生徒なのだろうか。

それともただ、真面目なだけか。

「それはね、この世界には不動産ビジネスをしている人たちがたくさんいてね、そういう人から、

一区画いくらって、借りればいいのよ。案外簡単に借りれるわよ」

「不動産…ね」

「でも、隣人トラブルはメインランドと変わりは無いから、気をつけるべきことは一緒よ」

「お隣さんとは仲良く…っていうことか」

「借りることに億劫になって島を買ったとしても、後でオークションとかで売る場合に困るみたいね。売り先は自分で見つけないといけないし、これもトラブルをよく聞くわ」

「借りるのも、買うのも、結局はリアルの世界と一緒、土地に関する決定は慎重に……か」

少し気が重くなった俺に、ケリーはフフフと笑う。

「でも私の店は大丈夫だったわ。そんなトラブルは一部の話。でも慎重にね」

「ケリーは、その自分の店を成功させるのに、他に何をやっているんだい?」

俺はふと思う。

そんなトラブルの多そうなメインランドでショップを経営するなんて、彼女の手腕は素晴らしいに違いない。

「成功だなんて……」

ケリーは一瞬控えめに、言葉を切った。

そして再び彼女は話しだす。

俺は波音を聞きながら、彼女の美しいタイピングの旋律に耳を傾けていた・・・。 

(このブログの著者でもある大槻透世二さんがSecond Lifeでの「ものづくり」を紹介する「Second Life 新世界的ものづくりのススメ」。第33回は、『エンジン2』。こちらもご覧ください)

※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

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