オープン化でユーザーを戦力化する知恵

徳田浩司(Koji Tokuda) 2006-04-03 16:30:27

SUGI31に参加

3月27日?29日にサンフランシスコのMoscone Convention Centerで開催されたSUGI31(SAS Users Group International 31st Annual Conference)に参加した。米国SAS社のユーザーズ・グループ・コンファレンスで、今回で31年目になる。

参加した目的は、経営情報システムなどの情報収集(特にコンプライアンス関連ソリューション)及び金融IT業界でのネットワーキングであった。しかし、本来の目的とは別に、違った観点で興味を抱いたので、ここでご紹介したいと思う。(先にお断りしておくが、私自身、SASとは何も利害関係はない。具体的な話の方が、よりご理解いただけると思ったので、あえて社名を挙げさせていただいた。また、私の勝手な解釈であることも、ご了承願いたい。)

企業情報系基盤ソリューションSAS

SASは、EIP(エンタープライズ・インテリジェンス・プラットフォーム=企業情報系基盤)ソリューションのベンダーである。SASの売上高は2004年末時点で約16億ドル(約1,800億円)。1976年設立で、一貫して右肩上がりの成長を果たしている。全世界では、これまで約40,000拠点でSASが採用され、日本においては1,500社2,300拠点で導入されているということである。業務特化ソリューションとしてCEO、CFO向けの企業業績管理やCMO向けのマーケティング・オートメーション、業界別には金融サービス業向けのBasel II対応、医薬業向けの臨床データ解析、製造業向けの品質保証・需要予測、通信業、保険業界向けの統合パッケージなどを提供している。日本市場でもSASが20%のトップシェアであるが、日本市場全体は170億円程度だそうで、それほど大きなものではない。特殊用途のため、一般にはあまり知られていないと思う。

私自身、日本にいたときには、このユーザーズ・グループの存在すら知らなかった。実は当初、他のユーザーズ・グループのミーティングと同様、たくさんのベンダーやオタクっぽい人たちが参加する業界団体だと思い込んでいた。しかし、これは一企業向けのユーザーズ・グループで、カンファレンスは何万円もの高額な費用を取っているにも関わらず、参加者が非常に多いので驚いた。

惜しげもなく研究成果を発表

ユーザーズ・グループの会合なので当たり前であるが、発表者は、ベンダーであるSASもあるが、ユーザー企業からのものが中心である。内容は、ケーススタディばかりか、ユーザーが独自に開発した分析手法なども含まれる。これは他社と差異化するためのノウハウのようなものも含まれているであろうが、惜しげもなくペーパーを投稿し、プレゼンテーションを行っている。いずれの発表も、このソリューションを使うことでこんなすばらしいことができた、と誇らしげに発表しているわけである。ユーザーの生の声であるため、ベンダー側からすると、これ以上の宣伝はないわけで(もちろん、ベンダー側から発表の依頼があるのではあろうが)、これはすごいことだと思った。しかも、開発のネタまでタダで提供してくれているわけだ。しかし、一企業のソリューションのために、なぜそこまでやるのか非常に不思議に思った。

学会発表のノリ

Executiveコンファレンスの参加者リストと、プレゼンをいくつか見ているうちに、だんだんとなぞが解けてきた。出席者には、博士号取得者も少なくないし、金融機関や企業のマーケット部門のリサーチの専門家、統計処理を専門とするコンサルタント、大学の統計学やデータ分析の研究者などが多い。米国政府や州政府の調査機関なども含まれる。プレゼンペーパーは全て資料として配られたCDに入っており、会場でさっそくこれを見ると「SAS学会」とも言える内容だ。ソフトの紹介やデモなど、コマーシャルな内容も含まれるが、統計学のような論文や、シミュレーションのモデルの実証研究など発表されており、大学の参加者も多く、いわば学会発表のノリで研究成果を発表しているのであった。

例えば、銀行業界では、企業や個人向けのローンのみならず、さまざまな金融商品や、オプションなどオフバランス勘定など、ALMの観点からそれぞれについてリスクの計量化が必要である。企業向け融資などスコアリングシステムやモデルなどが必要で、統計学など学術的な領域に密接な関係がある。一般の業務システムとは異なり、ソフト本体は分析手法のツールとして提供するが、それを上手く使えるかどうかは相当な学術的な知識が必要である。ツールは一企業が提供しているが、その用途の研究は学問なのである。

関心を持って、日本でも同じような会合がないかとネットで調べてみたら、同様のユーザー会が存在していた。こちらはなんと、「SAS『学術』総会」とより学問色を強めている。ネット上で論文の募集をしており、年々発表数が増加している。

ユーザーがソリューションを宣伝

ランチで隣に座った米国大手生保のリサーチャーと話をする機会があったが、彼は、さまざまな保険データを使って、営業戦略の立案など行っているそうだ。彼の上司のプレゼンテーションも聞いたが、会社の中に各部門でばらばらに蓄積していた様々なデータベースをSASソリューションで一つにまとめることができ、より高い精度の分析が可能となったということであった。顧客の属性から細かくセグメント分けして、それぞれの死亡率をはじき出し、どんな人が長生きをして保険料をたくさん払ってくれるか見分け、お客さんにすべきターゲットを探し出しているのであろう。もちろん、自分がリーダーシップをとってシステムを改善したという一種の自慢話なのであるが、ソリューションの宣伝をしているようにも見える。

研究者の自己顕示欲と企業ニーズのバランス

ところで、発表するインセンティブであるが、ユーザー側としては、直接売上向上への貢献はしなくても、リスク管理をきちんと行っていること、マーケティングに科学的アプローチを行っていることなどを公の場でアピールできることがあげられる。監督官庁や投資家向けには宣伝となるだろう。発表の目的が「学術発表」だと言われれば、企業側も許可しやすいだろう。特にコンプライアンス遵守を要求される時代には大変有効ではないか。しかし以上は企業側の話で、そもそも、発表者はオタク(?)とも言える研究者も少なくなく、会社の都合は関係なしに、自分の研究をアピールしたくないはずはない。この手の分析が、すぐに目に見えて業績向上につながるものではないので、研究成果を公に発表する場があることは、企業内のアナリストにとって自分の業務の成果をアピールできるので、好都合だ。大学などの研究者にとっても同様だと思う。

ユーザーをR&D部門の一部として戦力化

この手のツールは、決して売り切りで済むわけはなく、導入前だけでなく、導入後のシステムの使い方の啓蒙も非常に重要となる。しかしながら、通常行われている、企業側が主体となって行うセミナー形式では、成功事例として挙げられても、ちょっと色眼鏡で見てしまう。本件では、ユーザーズ・グループを組成して、ベンダーは後ろに引いて、ユーザーやコンサル会社などの情報交換のオープンな場を設けることで、研究者の気持ちをくすぐり、ユーザー側からの自主的な発表を促している。それによって、コンファレンスの参加者としても安心して話を聞くことができると思う。更に、ベンダー側も新しい技術のネタを仕入れることや、顧客ニーズを収集することが可能となるメリットがある。ユーザー企業を、自社のマーケティング部門、R&D部門として戦力化している。お互いの成果をクローズにして利益を独り占めにするではなく、あえて誰にでもオープンにすることによって、大きなメリットが得られているのではないかと思う。

ユーザーズ・グループ・メンバー、ベンダー、出席者いずれもがハッピーとなるため、上手いやり方だと感心した。31年間築き上げた知恵である。実際に、Windows、OracleやSAPなどでも、米国ではユーザーズ・グループが活発に活動しており、そういう熱狂的なファンが存在するソリューションはいずれも社会インフラの地位を確立しているのだ。

(徳田浩司 koji.tokuda at www.fusion-reactor.biz

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