IT企業よ、決死の覚悟で米国に進出せよ! ー日本の人口動態とIT産業の行く末

徳田浩司(Koji Tokuda) 2006-08-14 00:00:00

国産ソフトベンダー13社が2006年8月7日、新団体「MIJSコンソーシアム」の発足を発表した。ソフトウエアハウスが共同で海外進出を図っていくという。そのチャンレンジ精神は非常にうれしいことである。それを見て、IT産業のこれからのあり方についていろいろと思うことがあり、前職時代、2002年末に投資家向けに書いた論文などを踏まえて、今後のIT産業のあり方について述べたい。

失われた10年と言われた90年代

1990年代から2000年代初頭にかけての日本経済はデフレを伴う景気後退の厳しい時代であった。景気後退の犯人として、90年前後のバブル経済の反動、銀行の不良債権処理の遅れなどが指摘され、銀行が一番の悪者とされた。ところが、政府は不良債権問題への対応策を打ち出し、銀行側も経営統合やリストラの努力を行ったのにもかかわらず、バブル以降に発生した新たな不良債権の発生はその処理額を上回る勢いで増加していった。それに対し、不良債権問題が本当の原因ではなく、実は違ったところに本当の原因があると私は感じていた。その一つがピークを迎え減少が明らかになった日本の人口動態であった。

人口減少の問題

人口減少が引き起こす問題は、すでに70年以上も前から経済学者たちによって指摘されていた。人口減少は資本主義経済の中では消費の減少につながり景気後退をもたらすということは、1930年代後半にケインズ派の学者などから発表されている。これについては、エコノミスト石水喜夫氏の講演がわかりやすい。以下の要旨である。

 

資本主義経済においては、直接的には設備投資が経済動向を大きく左右する。設備投資は、基本的に技術の進歩、人口増加が影響するが、生産現場が技術の進歩を取り入れ、社会インフラの建設が人口増加に追いついてしまうと、投資先がなくなり景気のブームは終わる。技術の進歩、新産業の勃興、新資源の発見、人口の増加が見込まれなければ、経済の成長力は失われ、沈滞した経済に陥る。特に人口が減少する経済では、資本設備を拡大しても需要はそれほど拡大しない。投資環境は悲観的になり、悪循環に陥る。また、人口減少と高齢化の進行にともない産業構造が変わり製造業が減ってサービス業が増える。サービス業は資本をあまり利用しないので、資本需要を減少させ、設備投資を抑制する。また、労働生産性を上昇させる大量生産システムは人口増加に支えられており、人口減少は反対に労働生産性を引き下げ、企業の将来予測も暗くする。

 

技術革新が経済を発展させるため、ベンチャー振興が重要であるかのように語られ、政府も種々の振興策を行っている。それ自体よいことで大いにやってほしいのであるが、これだけでは片手落ちなのである。実は、新しい技術が生まれても残念ながら新しい企業が育つ環境にはないのである。それは、人口減少のために需要が拡大しないため、日本国内には市場の拡大余地がないためである。ちなみに、成長を続ける日本の自動車メーカは、国内市場ではなく、北米など海外市場での成長に支えられている。人口減少に対処するには、海外市場に活路を求めるしかなく、海外進出支援を、国を挙げて積極的に行うことの方が重要であると思う。

日本の人口動態と失われた10年

日本の人口ピラミッドは非常にいびつな形をしており逆ピラミッド型を形成している。30歳前後の第二次ベビーブーマーをピークに若年層の人口は例年減少しており、若年層が少ない。

一方、米国を比較してみると、米国はずん胴型であり、若年層の人口が多い。米国は積極的に移民を受け入れており(毎年100万人近く)、その結果、毎年200万人〜300万人のペースで人口増加を続けており、米国の総人口はとうとう3億人に達した。細かく見ると生産も消費も活発な20代から40代の中核層が、移民により常に補強されている。米国では消費が飽和することなく、移民流入が経済成長を後押ししてきた。今後も順調に拡大することが見込まれ、2050年には4億人に達すると予測される。一方、日本は基本的に移民を受け入れておらず、「失われた年齢層」の人口は決して増えることはない。人口を維持するために必要な、生涯出生率は女性一人当たり平均2.1人と言われているが、日本の現状は1.25人(2005年)に減少した(米国は2.05人)。今後ますます日本の人口が減少し、米国と開きが出てくるのは明白である。これまで日米の人口比は1:2であったのが、2050年には1:4まで開く。

実は、日本の生産年齢人口(15歳〜64歳)は95年に8,716万人でピークを迎えており、その後減少に転じ、回復する見込みはない。今後人口の減少が続くと、土地に対する需要は減速し、地価下落は今後も続く。結果的に、デフレの影響による不良債権の発生は続き、不良債権処理に終わりがなくなったというのである。

「失われた10年」といわれた1990年代は、人口データから見てもいかに日本経済が活力を失った期間であったかということが分かる。

再生の10年200年-2010年、再生のラストチャンス

近年人口動態論がクローズアップされてきているが、消費の中核年齢層を詳細に見てみることにより、2000年から2010年の10年間に日本経済は再生する可能性があるのではないかと私は考えていた。

ポイントは30代、40代(31歳-50歳)の男性の増加率にある。10年刻みで見ると、1950年以降プラスが続いていたが、90年代はマイナスに転じている(-0.7%)。また、65歳以上の老齢人口の比率は80年まで一ケタだったものが2000年は15%近くに跳ね上がっている。つまり需要・供給を生み出す中核層が薄くなり、社会保障負担が急速に増えたわけである。しかしながら、2000年以降、31〜50歳の男性人口はわずかながら増加に転じる(0.4%増予想)。

つまり、1990-2000年にマイナスとなった31〜50歳の人口が、2000年-2010年には一度プラスに転じるのだ。90年代は消費を最も活発におこなう中核層が減少した10年間であり、「失われた10年」と一致するが、2000年-2010年の10年は「再生の10年」となる可能性があると予想した。実際に、2005年後半から景気が回復したのである。

31〜50歳の男性という、子供に教育費をかけ、住宅を購入(平均40歳)するなど、最も消費を行う年代の人口が、2000-2010年の10年間に増えるわけである。そしてこの年代の消費動向が、GDPの6割を占める個人消費に影響し、企業活動を促進し、更に30代、40代人口の増加が新しいアントレプレナーを産むことで、GDPを上昇させる原動力となった。

しかしながら、これも長くは続かない。2010年以降はこの中核層の人口も再び下り坂となり、今後増えることはない。さらに困ったことに、65歳以上の高齢者人口が急増し、2020年には4人に1人となり、社会負担が増大する。

錯覚を起こしてはいけない。現在の景気回復は失われた10年のリバウンドによって生じたもので、一時的なものである。

従って、現在、体力のある今のうちに、人口が減っても経済活力が失わないような対策を打っておくべきである。これは政府のみならず、企業も必要だ。

IT業界(ソフトウエア業界)の将来

ここに非常に残念な統計がある。ソフトウエア産業の日米輸出入額である。米国から日本への輸出は順調に拡大し、年間3000億円を超える。一方、日本から米国への輸出は100億円に満たない。国際競争力が全くない業界である。

なぜこのようなことになったのか?理由は明らかである。言葉の壁である。ソフトウエアは、企業の経営の根幹であり、クライアントとの対話が重要である。従って、ローカライズが必要となるが、日本のソフトウエア産業には、英語での対話が不得意であるからである。自動車、電機、素材などは、言葉ができなくても高い品質のものを作れば売れるし、現地の代理店が売ってくれる。しかし、システム開発はクライアントとの対話が重要であるから故、英語のできないシステムインテグレーションサービスは、海外では全く売り物にはならないのである。これまで海外進出を何度も試みたが、ローカル化に真剣に取り組まなかったため、いずれも失敗を続けたのである。

国内市場が縮小していく中、このまま国内にとどまるならば、日本のIT産業は斜陽産業であるといわざるを得ない。みなさんのクライアントは海外に進出して生き残りを図ろうとしている。今や海外進出を真剣に考えるときである。もし、日本のマネジメントにとって英語が不得手ならば、積極的に海外投資と現地化を進め、優秀なローカル人材を登用することが不可欠である。

しかしあとになってでは遅すぎる。苦しいが、体力がある今のうちに、海外進出にチャレンジすべきであり、これが最後のチャンスかもしれない。「MIJSコンソーシアム」に続く動きがどんどん出てほしい。

(徳田浩司 koji.tokuda at www.fusion-reactor.biz

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