市場原理を無視した事業計画の末路

徳田浩司(Koji Tokuda) 2006-09-29 04:40:29

通信事業への過大な投資

通信系のベンチャーへ投資する専門ファンドの現状を通じて、安易な市場予測の末路についてお話したいと思う。あるメディアに、実名入りで酷評され、多くの反響があったのであるが、現在も活動中のファンドであり、匿名としたい。

そのファンドとは、今から5年ぐらい前であるが、私がファンド投資を行っているときに、ファンドマネージャーが資金集めで来日したときにはじめて会った。私がシリコンバレーに出張した際にもオフィスを訪問した。

あまりメジャーなVCファンドではなかったが、通信関連に強いという特徴を持ち、専門ファンドとしては有力ファンドの一つであった。90年代の後半、インターネットブームにより通信インフラが今後急速に拡大していくと考えられたこともあり、脚光を集めていた。米国では通信業界が規制緩和し、90年代後半にいくつも新興通信事業者が生まれ、実際に、通信機器の市場が活況を呈していたのである。そんな時代に生まれたファンドだった。

そのVCは2000年前後、通信事業、関連する半導体、ソフトウエア、ネットワーク関連デバイス、光通信ケーブルなどに集中的に投資をし、数年後には大きなリターンを上げるはずであった。

記事によると、現在ファンドの金集めをしているのであるが、なかなか厳しいのではないか言うニュアンスであった。以前のファンドのパフォーマンスが不調で、ファンドの投資家が投資を決める際に重要視するトラックレコード(ファンドの成績)がよくないので、資金が集まりにくいと予想されるということであった。

更に、ファンドマネージャーは、ファンドの投資家から訴えを起こされているという話も触れられていた。結構この手の話はあって、パフォーマンスが悪いと、投資後の管理を怠ったという理由などで訴えられている。VCファンドの成績は、ファンドマネージャーであるキャピタリストの責任ではあるが、一般的に、ファンドの投資家はLPで、ファンドへの投資の意思決定はLPが行って、ファンドの運営はファンドマネージャーにお任せなのである。基本的にはファンドのパフォーマンスが上がらなくても、投資家サイドが責任を取るしかないのであるが、投資家対応を十分に行わなかったためか、訴えられた。

2000年前後にメガファンド(1000億円を超えるVCファンド)を設立し、投資を行っているファンドは他にもたくさんある。2000年前後に設立したメガファンドは軒並みパフォーマンスが投資資金の0.3倍とか0.5倍とかで、1倍を超えていない。元本すら返せない状況なのだ。

そのファンドは、VCの中でも非常にリサーチを重視したファンドである。リサーチの専門チームを擁しており、投資する業界について綿密な調査を行っていた。トップは銀行員出身で、有力ビジネススクールの出身者を集めている。時折、有望な投資分野について、分厚い資料を作成し、既存投資家や見込み先に配っていた。非常にしっかりしたチームと思ったし、私自身好感を持っていた。

また、別の通信系に強い別のVCファンドについても、同じくパフォーマンスが芳しくないのか、これまで設立したファンドの管理を行うことに専念し、新しいファンド集めをすることをやめることを決定した。ここも、主要メンバーがやめてしまっている。

なぜこんなことになったのか?

先のファンドからは、前回オフィスを訪問した時に、なぜ投資がうまくいっていないかというプレゼンを受けた。彼ら自身、2001年以前の投資は失敗であったと認めている。そして、その前提になったのは、市場予測の見誤りによるものであったという説明であった。

インターネットの爆発的な普及により、近い将来ブロードバンドが広がり、幾何級数的にトラフィックが増える。それに従い、通信料金が膨れて、通信事業の市場が大きく広がっていき、関連技術のベンチャーが大きく花開くというストーリーを描いていたのだ。しかし実際には、どうだっただろうか?トラフィックは確かに伸びたが、それ以上に、圧縮技術やDSLが進展して、設備がオーバーキャパシティになってしまった。もちろんそのVCも、トラフィックが増えるにしたがって、ビットレートあたりの単価が減少するとは考えていたが、彼らが考えている以上に、トラフィックの増大スピードを超えて単価が急落し、全体の市場がそれほど拡大しなかったのだ。そのため、多くの通信関連ベンチャーが失敗に終わっている。

しかし、冷静に考えてみると当たり前だ。いくら便利だからといって、企業や家計で使う通信費用を何倍にも膨らませることはできないのである。企業であれば人件費、設備、オフィス、資材などさまざまなコストを使わねばならない。家計であれば、住宅費、食費、教育費、娯楽費、光熱費、ガソリン代、など、いろいろなことにお金を使わねばならず、通信費だけ突出してお金を使うというわけにはいかないのである。全体コストの何%かというレベルで頭打ちになってしまうのだ。

これは需要予測や市場予測をする際に陥りやすい罠だ。瞬間風速的な市場成長率を元に、誰もが事業計画を、永続的に右肩上がりな絵として描きがちなのである。しかし、市場はどこかで頭打ちになる。今や右肩上がりではない世界の方が当たり前なのである。企業規模を大きくしようとすると、単独の事業だけでは限界がある。例外的に成長を続けている企業では、M&Aをたくみに利用し、多角化し、海外企業も買収しながら、ターゲットとする市場を拡大し、成長を続けているのである。

いくら景気がよいとは言っても、成熟した先進国では、年間10%、20%の経済成長はありえないのである。せいぜい3%ぐらいである。全体のパイはそれほど増えない。局所的には急成長している産業あるが、そうであればこそ、一方で、代替されて衰退している産業が存在するのだ。

みんながインターネットを使うようになったとは言っても、人の一日は24時間しかない。通信に使う時間もコストも、企業や個人の支出全体の何パーセントかに留まってしまう。高速インターネットが普及しても、かつてのダイヤルアップに比べてはるかに価値が高くても、月額3000円ぐらいでとどまっているのだ。

GNPの6割は個人消費で、その規模は人口に比例するのである。発展途上国では先進国に追いつく過程で10%を超える成長はありえるが、先進国では人口が増えない限り、ありえないのである。

人口減少自体は大きな問題ではない。一人当たりのGNPを維持しながら、ゆっくりと人口減少が起こり、ゆっくりと経済規模も縮小していくとうのであれば、問題はおきない。ところが、日本では(韓国も同様)、急速に高齢化・人口減少が進み、世代間での格差が広がる。数の少なくなった若い世代が、急増する高齢の世代を支えることができなくなり、社会全体が崩壊してしまう懸念がある。

政府が緊縮財政を進めても限界があり、一方で、経済規模を拡大する必要がある。その努力を続けなければ社会が維持できない。今後国内の人口が減少していく状況では、海外市場への展開に依存せざるを得ないのである。

(追記:IT産業の海外展開の必要性については、8月14日のエントリー「IT企業よ、決死の覚悟で米国に進出せよ! ?日本の人口動態とIT産業の行く末」に詳しく書いてあるので、そちらもご参照いただきたい。)

貧弱な英語教育

上記に関連して、最近のニュースについて述べたい。安倍新内閣の文部科学大臣が、「小学校の英語教育は不要」と発言したということだ。きれいな母国語が話せないのに、英語を勉強しても意味がないという意見だ。確かにそれは一理ある。ゆとり教育の推進で、ただでさえ、一教科あたりの時間数が減少しているのに、それにプラスして英語やパソコンを教育しなければならないと、ますます基礎学力が身につかなくなってしまうだろう。

しかし、日本語(韓国語も同じ)という、文法構造、語彙が英語とは全く異なる言語を話す国民にとって、早くからその違いに慣れておく必要があるのも事実だ。例えば、メキシコからの米国への移民は自然に英語を身につけるが、英語とスペイン語は方言のようなものだ。文構造も音も単語も非常に近い。しかし、日本語も韓国語も、子音・母音数とも非常に少なく(特に日本語が最も少なく不利)、多様な発音を有する英語特有の音を獲得しなければ、人の話を聞くことができず、外国人と直にコミュニケーションすることは困難であり、また、情報発信することもできない。

音楽の絶対音階を得るには6歳までと言われる。それと同じく、語学を習得するには旬というものがあって、言語の音声を獲得するには、10歳ぐらいが上限だと思われる。それを過ぎると、一部の天才を除いては、残念ながらいくら勉強してもなかなか獲得出来ないのである。コミュニケーションを行うには、必ずしもきれいな発音をする必要はないのだが、それは英語の音声が正確に聞き取りできないことを意味する。更に困ったことに、聞いたり話したりできる母音・子音数が少ないと、英語だけではなく、他の外国語も使えないという話になる。ますます国際化から取り残されると懸念される。

私の場合、中学・高校とネイティブの米国人教師から英語を学び、模試で偏差値80いくつという成績を取ったこともある。しかし、未だに英語(特にヒアリング)については悩んでいて、日々勉強である。要は、12歳になってスタートしたのでは遅いのだ。シリコンバレーに住む米国駐在の日本人の小学生を見ていると、2年もあれば、ネイティブと同様のレベルに達している。英語を習得するのに苦労をすれば、自分の子供には苦労をさせたくないと思うわけで、実際に小学校で英語を学んでいる子供たちのことを知ると、某大臣のような意見はまず出てこないと思う。

話は大きくそれてしまったが、日本の学校教育が期待できなければ、次世代の教育を民間主導で考えねばならないと思う。そうでなくば、コミュニケーション力が重視されるIT業界が、海外市場で戦うことは困難だろう。

(徳田浩司 koji.tokuda at www.fusion-reactor.biz

追 記

9月1日追加情報

9月1日、旧中央青山の流れを組む、あらた監査法人と、みすず監査法人は業務を開始した。これは、旧中央青山監査法人の業務停止が8月31日で終了したことを受ける。

提携先である米国プライスウォーターハウスクーパースが「あらた監査法人」を設立し、900人強でスタート。一方旧中央青山監査法人は、「みすず」に名称変更し、た業務をを再開した。

みすずは、2500人。約3500人強いた旧中央青山監査法人のうち、約1000人が減少したそうである。一方、「あらた」は約900人でスタート。契約上場企業数はみすずがが3割減の580社、あらたが約400社だそうである。

旧中央青山の受け皿ができてひとまず安心である。ところでJ-SOX法であるが、対応の遅れは否めず、幸か不幸かガイドラインの発表も遅れており、中央青山の業務停止の影響は表面化はしていないが、どんどん対応が後ろ倒しになり、あとでそのツケが回ってくる可能性がある。

(徳田浩司 koji.tokuda at www.fusion-reactor.biz

Mr.Sam Nakane, formerly the CEO of SAP Japan review my entry and sent an email

Plese see it as following.

"Middle-up & down? No, Top-down is better! Email From Mr. Sam Nakane"

http://blog.japan.zdnet.com/tokuda/a/2007/01/middleup_down_n.html

And you may have some kind of risk regarding your business with Japanese companies because of J-SOX.

Please see my new entry as below,

"Business Checklist Working With a Japanese Company - May be requested for J-SOX compliance, Suddenly"

http://blog.japan.zdnet.com/tokuda/a/2007/01/a_business_chec.html

話が英語教育に脱線したついでに、関連して興味深い記事を発見したのでご紹介したい。

英語教育、韓国は教科書暗記…フィンランドでは英会話 (東亜日報2006年9月14日)

フィンランド語は、世界の語族の中で、韓国語、日本語、モンゴル語などとともに「ウラルアルタイ語族」に分類され、「インド・ヨーロッパ語族」である英語と語順、文法などで多くの違いがある。

フィンランド教育研究所のポイアラ教育顧問は、「フィンランド語は、前置詞、冠詞などがなく、英語と非常に異なる言語だ。英語を学ぶことは本当に難しいことだが、フィンランド人はみな、英語の大切さを十分知っており、学校で英語をよく教えるので英語が上手だ」と堂々と説明した。

ヘルシンキでは、タクシーの運転手も、英語で日常的な会話ができる。小学生から中年の紳士まで、道で会ったフィンランド人に英語で道を尋ねた時、通じない場合はほとんどなかった。みな学校で学んだ英語の実力だ。

フィンランドでは小学校3年生(8歳)から英語教育がスタートする。母国語の骨格が完成しており他言語に影響されにくくなった年齢で、更に、外国語を習得するにはぎりぎりセーフという絶妙なタイミングだ。ちなみに韓国は小学校5年生(10歳)ということで、ちょっと遅い。それに比べて日本は現在中学校からで12歳。手遅れである。

そういえば、私も思い当たる節ある。あるシリコンバレーのIT企業のエンジニアがたくみな英語の使い手ですっかり米国のネイティブスピーカーだと思い込んでいた。しかし、出身を聞いて見ると、実はフィンランド人だった。英語などインドヨーロッパ語族はSVO(主語+動詞+目的語)構造であるが、日本語、韓国語、フィンランド語は、SOV(主語+目的語+動詞)構造で、構文がまるっきり異なり、これらを母国語とする国民は、英語を習得するのがもっとも不得意だ。彼は相当な努力をしたのだろうが、フィンランドの教育制度のおかげでもあろう。

国際経済競争力のランキングで、フィンランドは2006年は2位で、2001年から2004年までトップだった。一方、日本は7位で後塵を拝している。フィンランド企業としては携帯電話のNokiaが有名だが、英語教育の成果として、IT立国として成功しているフィンランドを、日本社会も見習うべきだ。

※このエントリはZDNetブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および ZDNet編集部の見解・意向を示すものではありません。

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